わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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恋心は人を狂わせるとはよく言ったもの

 隣国の人々の受け入れはなんとか無事に終わり、彼らにも最低限の生活が保証されている。

 もちろん費用のほとんどはこちら側の負担だ。

 会談に際し、クリステルは宝石や貴金属など嵩張らない高級品をある程度持ち込んでいた。大軍をしばらく養えるだけの食料・水も用意されていたものの、それらで長期の滞在を賄いきることはできなかったのだ。

 とはいえまあ、クリステル陣営を助けて勝利に導ければ後々返してもらうことはできる。『銀百合』で受け入れた人員の食べるものに関してはシルヴィアが神聖魔法(うらわざ)で調達することも可能だ。

 

 そんな中、かなりの高待遇を受けることになったのは他でもないクリステル。

 本人は恐縮し、できる限り遠慮しようとしたものの、彼女に倒れられたらいろいろな人が困る。食べる物も着る物も王族基準で十分に用意された。

 特使として来た時ほどではないにせよお客様待遇である。

 

 そのため、クリステルを招待してのパーティやお茶会も頻繁に開かれた。

 国王から国内貴族への説明は詳しい事情を省いた便宜的なものだったものの、貴族たちも裏を全く察せないほど無頓着ではない。

 さらなる情報を得るため、あるいは後々のために繋がりを作るために隣国の者たちにアプローチを取っていた。

 そんな中、

 

「本日はお招きいただきありがとうございます、セルジュ殿下」

「急な招待を受けてくれて礼を言う、シルヴィア・トー。今日はどうか楽しんでいってくれ」

 

 シルヴィアはとある王族主催の私的なお茶会に招かれていた。

 城の庭の一角。

 背の高い植え込みによって人の目から隠された空間にシンプルながらお洒落なテーブルと椅子が用意されている。

 上質なクロス。メイドたちの手によってソーサーとカップが音もなく並べられ、琥珀色の液体が注がれていく。

 匂いだけで良い茶葉を使っているのがわかる。

 前世の影響で緑茶派であるシルヴィアも、事あるごとに飲んでいるのである程度紅茶の違いはわかる。お城で出されるものはいつでも最上級だ。

 

 ほう、と息を漏らしつつ、斜め前に座る少年に向けて微笑。

 相手はこの国の第七王子セルジュ。

 現在十四歳、貴族学校の一年生である彼は他でもない、この国の次期王位継承者である。

 今日は休日を利用して城に戻り、こうしてお茶会を開いている。

 年齢的にセルジュはまだ幼さの残る印象。

 クロヴィスと違って真面目で誠実な性格で、剣もあまり得意ではないらしく線の細さが目立つ。男性が得意ではないシルヴィアとしてはむしろ好印象。

 

 そんな彼に招かれたのはシルヴィアともう一人、そう、クリステルである。

 

「またお会いでき光栄です、セルジュ殿下」

「はい。私もお会いできる日を楽しみにしておりました。辛い状況だとは思いますが、少しでも気晴らしになれば」

 

 去年、特使として城に滞在していたクリステルはもちろん、セルジュとも初対面ではない。

 年末に行われたシルヴィアの誕生パーティでも顔を合わせたはずだし、他にも何度か話をする機会があったはずだ。

 さすがにそのあたりはシルヴィアの干渉するところではなかったのだけれど、

 

 ──なんかけっこう仲良さそうじゃない?

 

 建前上は王族同士の交流の場。

 裏の理由その一もメンバー的に「隣国の状況について」なのだけれど、なんとなくさらに裏の理由がありそうな気がする。

 ひょっとして、いつだったか危惧していたことが現実になってしまったか。

 これまでの経験を総動員して失礼のない態度を取りつつもクリステルの様子も観察して、

 

 ──目が合った。

 

「シルヴィア様、お忙しい中申し訳ございません。ご一緒できて幸いです」

 

 彼女のほうは若干困っているような雰囲気。

 二人っきりにならなくて済んで良かった、ということだろうか。

 てっきりクリステルのほうからセルジュに近寄ったのだと思っていたのだけれど……。それとも特使だった頃とは状況が変わったからだろうか?

 もしも弟──クリストファまで討つことになった場合、隣国の王となるのはおそらくクリステルだ。前代未聞の女王だけれど、この状況なら次の王が現れるまでのつなぎとして受け入れられる。

 

 紅茶とお菓子、他愛ない歓談を楽しみつつ、シルヴィアはそっと口を開いて、

 

「クリステル様もご不便でしょう? 本来であれば結婚相手を探さなければならない時期ですのに」

「そうですね。ですが今は国を整えることのほうが大事ですので」

(訳:なので恋愛をしている場合ではありません)

 

 この返事に若干しゅんとするセルジュ。

 

「王族というのはままらないものですね。平民の間では『恋の一つや二つ』と言われるそうではありませんか」

「平民も恋した相手と結ばれるとは限らないのですよ。互いの神託が噛み合うとは限りませんから」

 

 例えば、朝が早い大工と夜遅くまで作業することのある裁縫職人とか、たぶん喧嘩ばっかりになる。

 

「しかし我々は神託に関わりがなくとも、告白する事さえ制限されるではないか」

 

 若干恨みがましい視線がシルヴィアに向けられる。

 ……言われてみると、シルヴィアは貴族位を与えられていながら「好きに結婚していいよ」と言われている立場なわけで。

 お前が言うな、と言われても仕方ないというか。

 

「殿下。あなた様は次の国王となられる方なのですから、言動に責任が伴うのは当然です。……それに、あまりそのようなことを言われると未来の奥方様たちが不安になるかと」

 

 傍に控えるメイドが恭しく待機したまま「もっと言って差し上げてください」とばかりにかすかな視線を向けてきた。

 うん、どうやらセルジュの側がクリステルへ一方的に想いを寄せているのは確定のようだ。

 

「父上の後宮を引き継ぐ役目……か。しかし、王妃を増やす分には構わないのだろう?」

「それは確かにその通りですね」

「シルヴィア様」

 

 クリステルから「どっちの味方ですか」とばかりに見られてしまった。

 いや、でも、別に『王妃』と神託を受けた者以外王妃になっちゃいけないとは決まっていない。その常識を崩すのも人の世を多様化させる第一歩かもしれない。

 けれど、シルヴィアの同意で若干気を良くしたのか、セルジュはここぞとばかりに、

 

「そもそも、神の下した『国王』とは本当にこの国の王、という意味なのか?」

「殿下。発言にはお気をつけください。人払いは行われておりますが、それでも、思わぬところから悪意ある利用のされ方をすることはございます」

 

 シルヴィアはまだまだ未熟な王子にそう釘を刺しながら「でもその通りだ」と思った。

 神は『国王』の神託を下したけれど「どこの王」とは言っていない。

 『女王』の神託を受けたステファニーに「治めるべき国」がなかったように、セルジュの王となるべき国がこの国ではない可能性だってもちろんある。

 

 ちらり。クリステルに視線を向けると、彼女はそれだけでシルヴィアの思考を把握したようだった。

 困ったような表情を浮かべた彼女は一瞬でそれを消すと、代わりに微笑を浮かべて、

 

「シルヴィア様。以前お贈りした翠色の宝石はまだお持ちでしょうか?」

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