わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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本人がよくても周りがやきもきしたりする

「昨日はありがとうございました、シルヴィア様。お陰様でとても助かりました」

「どういたしまして。……ですが、ひどいではありませんか。あれではわたしがクリステル様の想い人のようです」

 

 お茶会の翌日、クリステルが騎士団へやってきた。

 今日は騎士を訓練させるためではない──というか、彼女と一緒に来た騎士は(護衛等で必要な人員を除き)『銀百合』で引き受けているので、ほとんど毎日ここで剣を振っている。

 今日来てもらったのはセルジュ王子の件である。

 セキュリティ的に騎士団内が一番安心できる。シルヴィアたちとの交流が深いのも知られているのでクリステルが訪れるのも自然だ。

 

 さて。

 あの時、宝石の話題が出たのはもちろん、セルジュの猛追をかわすためである。

 実際クリステルはあの後、宝石の色を「私の瞳に似ているでしょう?」と語ってみたり「指輪に加工するのも良いと思う」などと匂わせてみたりした。

 そのくせセルジュが「私からも宝石をお贈りしましょう」と言えば「お気持ちだけで結構です」と断る。

 周りの人間がシルヴィアとクリステルを見て「あ、この二人できてるな」と思っても不思議はない。

 

「申し訳ありません。……ですが、ああでもしなければ殿下が『本気』になってしまいます」

「今の時点で本気のような気もするのですけれど」

「まだ殿下は十四歳。今のうちであれば若気の至りで済むでしょう。既にお相手は複数いらっしゃるのですから」

 

 あの後、シルヴィアとクリステルは二人で「他意を疑われる発言は止めるように」と再びこんこんと王子を説得した。

 おそらく使用人からも生母や国王に報告が行っていることだろう。

 

「近々、側室のうち手つかずの方が殿下の『練習相手』をなさるかもしれませんね」

 

 言われたシルヴィアはなんとなくげんなりした気持ちになった。

 父親の妻を渡される息子の気持ち。手つかずのまま別の男性に嫁ぐ女性の気持ち。好きでもない相手と『練習』をすることになる少年の気持ち。どうなのだろうと思う反面、それが普通なのだと思える程度にはこの世界での生活も長くなってきた。

 シルヴィアは昨日同席していた自身のメイドを振り返って、

 

「スリスはどう思う? セルジュ様のお気持ちはどの程度本気かしら」

「……そうですね。若すぎる男性の感情は私も専門ではありませんが……」

 

 化粧にもお洒落にも詳しく、人を見る目もある彼女。その前職は男性に一夜の夢を与える職業だ。当然、熱のこもった男性の視線なんて飽きるほど見ている。

 その豊富な経験を元に彼女が導き出した答えは、

 

「恐れながら、禁止されればされるほど燃え上がる可能性も十分にあるかと」

「……ああ、そっちの方向なのね」

 

 シルヴィアも「この宝箱絶対に開けるなよ」とか言われたら開ける。セーブしてから。

 

「それは……困りましたね」

 

 眉を寄せ、本気で考えこむクリステル。

 

「殿下を取り込んで自国を立て直そう、とはお考えにならないのですね?」

「安定していないどころか危機的状況にある自国へ他国の王族を招くわけには参りません。……ましてや、このままならば将来が約束されている方なのですから」

 

 そういう建前、という可能性はあるけれど、シルヴィアにはそうは見えなかった。

 ここまで来てクリステルの『裏』を疑っても仕方ない。

 

「殿下にはなんとか諦めていただきたいところですね……」

「シルヴィア様が気持ちを受け取ってくだされば一番いいのですけれど」

「私はこの国が好きです。そちらに移り住むことは考えられません」

「ええ。私もこうなった以上、呑気に嫁ぐことは許されないでしょう」

 

 親世代がなんとか対処してくれるといいのだけれど、若い少年少女の熱量というのは大人の想像をはるかに超えてくる。

 女性関係でトラブルを起こすあたりはさすがクロヴィスの弟というか。

 あの王子様はなんだかんだバランス感覚があったのにセルジュ王子はやややらかし感が強くないか? という思いと、クロヴィスと違って真っ直ぐな感情なのでむしろ好ましいという思い。

 

「ひとまずは時間が解決してくれることを祈ろうと思います。……二人きりになりそうな時は助けをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「気兼ねなくお呼びくださいませ。微力ながらお力になります」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 とか言っていたらセルジュから招待を受けた。

 貴族学校内でのチェスのお誘いだ。案内された先は彼の自室だったけれど、念のため騎士に同行してもらっていたので(使用人を数に含めないとしても)二人きりではない。

 若い王子はそれほど上手ではないようで、シルヴィアの腕でもいい勝負ができる。

 どうにもこういう、プレイヤーの腕が絶対的なゲームは得意ではないのだけれど……と。

 

「シルヴィア・トー。君はクリステル殿下と交際しているのか?」

 

 手番がこちらに移ったタイミングで爆弾を投下してくる王子様。

 

「殿下。……そのお話はもう止めにいたしませんか?」

「父上や母上と同じ事を言うのだな。しかし、気持ちの問題だ。理屈だけでどうこうできるものでもないだろう?」

 

 確かに、それはその通りだ。

 無理やり「女の子が好き」という気持ちを押し通したシルヴィアに強く反論する権利はない。この国きっての変わり者に説得を行えというのがそもそも無理な話なのである。

 

「殿下は、クリステル殿下のどこを好きになられたのですか?」

 

 尋ねられるのは初めてだったのか、少年は虚を突かれたような表情を浮かべて。

 

「初めに気になったのは、彼女のどこか憂いを帯びた表情だろうか。……もっと笑って欲しい。その心が晴れればいい。そう思った」

「そう、なのですか」

 

 よく見ている。そして純粋だ。

 

「クリステル殿下は弟君についてよく話してくれた。私の事も『弟に少し似ている』と言ってくれたのだ。その時の表情が頭から離れない」

 

 ブラコンお姉さんが「あなたのことは男性として見られない」と突っぱねたシーンに聞こえるのだけれど、確かに裏を返せば「弟みたいでちょっと可愛い」ということでもある。

 セルジュはしゅんと肩を落として「いけない事だとはわかっている」と息を吐く。

 

「けれど、私は彼女から明確な拒絶を受けていない。私では駄目な理由をせめて聞きたい。それまでは想いを伝え続けたい」

 

 ああ、これは駄目だな、と思った。

 セルジュの態度がクレールのそれとどこか重なってしまう。なんと言われようと好きなものは好き。こういうタイプはたぶん玉砕するまで止まらない。

 

「確かめてみればよろしいのではありませんか? クリステル殿下のお気持ちを直接、はっきりと」

「シルヴィア様!」

 

 王子付きの従者が咎めるような視線を送ってくるも、シルヴィアは首を振って答えた。

 

「早いほうが良いと思います。想いを燻らせ続けることは誰のためにもなりません」

 

 話を終えた翌日、王に面会を求めてこの件を報告した。

 生母ともどもこの話を聞いた国王は「……そうか」とひどく悩ましげな顔をした。国政においては名君と言っていいだろう彼も、子供のこととなると単なる父親の顔をする。

 ましてご本人も側室たちに子供を産ませまくっている女好きなので、あまり人のことも言えない。

 

「いっそのこと其方がセルジュに嫁いでくれれば、あやつも大人しくなると思うのだが」

「申し訳ありません。王の側室が自身の妻を複数抱えるというのも問題だらけだと存じますので……」

「そうだな。何事もままならないものだ。……頭ごなしに否定するのもあやつの反発を招きかねん」

 

 深いため息。

 

「こうなれば、セルジュにいち早く『男』になってもらう以外あるまいか」

 

 そういう話は家族だけでやってほしい。そう思っていると、セルジュの生母である王妃も微妙そうな顔をしていて、なんだか目だけで通じ合ってしまった。

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