わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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あるいは運命の選択肢

「……あれ以来、殿下はより母性を求める傾向をお持ちになられました」

「なられましたか……」

 

 なんでわたし、こんな相談を受けているんだろう。

 セルジュ付きのメイドからの切実な訴えを聞きながら、シルヴィアは思った。

 十二月が始まったばかりのある日のことである。

 

 なんで相談を持ちかけられることが多いかと言えば、いつの間にか「国王の相談役」みたいな立場になっているからだ。

 似たような立場にある聖女アンジェリカはああ見えて清らかな乙女。聖女見習いアンジェも同じく神殿育ちなので、男女の機微には疎い。

 じゃあシルヴィアはというと「女の子をとっかえひっかえしておいて今さら清らかだとでも?」というところである。

 いや、とっかえひっかえは言い過ぎだと思うのだけれど。

 

「やはり、年上の女性がお相手を務めたのがいけなかったでしょうか」

「とはいえ同世代の女性というわけにもまいりませんしね……」

 

 王子様はまだ十四歳である。

 王族の男子はただでさえ母親と会う機会が少ないというのに、貴族学校に入ってなおさら紳士的な振る舞いが求められるようになった。

 優しい大人の女性に甘えたくなっても仕方がない。

 そういえば、と、男子に付けられている目の前のメイドさんを見つめて、

 

「その、失礼ですが、あなたは殿下に特別な感情をお持ちでは?」

「っ!? わ、私ですか!? とんでもございません、私などが次期王位継承者様のご寵愛を受けるなど! 日頃より厳しくご指導いたしておりますし、きっと嫌われていると……。いえ、その、もちろん指名いただければ喜んでお相手を──」

 

 うん、そこまでは言ってない。

 

「こほん。……大変失礼いたしました」

「いいえ。今のお話は不用意に口外しないことを誓いますのでご安心を。……それにしても、これは困りましたね」

「はい。クリステル殿下は程よく歳が離れていらっしゃいますので……」

 

 こうなってくると本格的に「だめです」で頭ごなしに行くくらいしかない。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「本日集まってもらったのは他でもない。……不肖の息子、セルジュの件だ」

 

 再び城から招集を受け、極秘の相談。

 シルヴィアにエリザベート、国王の他にはセルジュの生母と王の正室。さらにどういうわけかスザンナ王妃の姿まである。

 王に加えて王妃が三人。

 

 トップだけの話し合いにも程がある。

 さすがのエリザベートも苦笑を浮かべて、

 

「陛下。我が父や騎士団長を参加させたほうがよろしいのでは?」

「なに、其方ら相手の方が気楽であろう? 我としても目に楽しいしな」

 

 そんな理由だったの!?

 

「冗談だ。其方ら二人であれば護衛を省ける。加えて、口外禁止の誓約もその場で行える。さらに言えば、若い者に経験を積ませたほうが今後のためになるであろう?」

「なるほど……」

 

 体よく使われている気もするけれど、これくらいは必要経費である。

 仕方ないと納得することにして姿勢をさらに正す。

 

「我が息子ながらセルジュには困ったものだ。よりにもよって他国の王族に熱を上げるとは」

「陛下。こうなればもはや王命を用いるべきかと」

「確かに、セルジュを次期王として育て上げるのであれば必要な措置だ。……あやつを王とするのであれば、な」

「陛下、それは」

 

 ……そうか、そういう話か。

 さすがに思いきりすぎではないかという気もするけれど。

 

「我は、息子が本気で望むのであれば隣国へ行かせても良いと思っている」

「それではこの国の玉座が空席となりますけれど……」

「年末にはシルヴィアの誕生パーティがあるであろう?  そこには地方貴族も集まる。我が息子クロヴィスの顔も久しぶりに見られる」

 

 聞いただけだと「クロヴィスを王様にしよう」と言っているように聞こえるけれど、本当に示されているのは彼の保護している小さな少女だ。

 今はファンと名乗っている──第十王女ステファニー。

 そう。この国にはもう一人『女王』の神託を受けた王族がいるのだ。

 

「ステファニーの死の真相については私たちから陛下に問いただし、真実を知らされました。口に出してもらって構いません」

 

 王妃たちの言葉に事の重大さが思った以上であることを理解。

 知っている者しかいない場であれば口外禁止の誓約は解除される。

 

「踏むべき手順は三つだ。一つはセルジュが本気でクリステルとの婚姻を望むこと。一つはクリステルが求婚を了承すること。最後に、ステファニーが『女王』を望むこと」

「陛下。そこまでしてセルジュ殿下を後押しする理由はなんですの? この国を隣国の属国化させるつもりか、と考える者もいると思うのですけれど」

「エリザベートよ、其方は率直にものを申すな。そういったところは父親にそっくりだ」

 

 王は笑って「無論、利益のためだ」と答える。

 

「我が国の王族が二つの国を統べる。セルジュとステファニーが憎しみ合う姿は想像できぬ。両国の関係は良好に保たれるであろう」

 

 考えを逆転させれば「隣国がこの国の王族に乗っ取られる」ことでもあるわけだ。

 

「さらに、我が国は人間国家において初めての『女王を戴く国』となる。いずれ訪れる大いなる変革に際し、最も先を走る事ができる」

 

 事あるごとにシルヴィアを擁護してくれたように、この王は変化を厭わず受け入れる度量を持っている。

 その度量が結果的にこの国へ二人の天使と一人の竜をもたらした。ついでにクレールまで半竜となったわけで、まさに時代の最先端である。

 

「そしてもう一つ。……もし、セルジュとクリステルの意向が一致した場合には、一度隣国に二人を送ろうと思っている」

「それは」

 

 もちろん必要な手続きだ。

 いち王族に過ぎないクリステルと次期王位継承者であるセルジュが結婚する。当然、王の許しが必要な案件。現状クリストファは国王代行という立場ではあるものの、であるならば上層部で相談の上で決定することになる。

 そして、こちらの王族が赴くということは。

 

「陛下。その際には我々『銀百合騎士団』を護衛につけていただけるのでしょうか?」

 

 エリザベートが鋭く尋ねる。

 

「うむ。女騎士のみの騎士団となれば先方の心証も良くなろう。クリステルとの親交も深いシルヴィアを伴い、任務を遂行して欲しい」

 

 精鋭を連れて隣国上層部に乗り込む算段がつく。

 直接会えば当然、クリストファが魔族かどうか判断できるし、迎え討たれたとしても打開しやすくなる。

 大切な王子を囮にするようなものではあるけれど。

 

「まずは一つずつ条件を満たしていくことになるが、な。総合的に見れば悪い話ではなかろう?」

 

 この時点で、シルヴィアにはこの仮定の話が現実になる予感がした。

 おそらくこの場にいる他の者もそうなのではないか。

 

「ですが、よろしいのでしょうか? ……その、王妃様にとっては悲喜こもごもおありでしょう?」

「私たちは陛下のご意向に従うのみです。……私としては、セルジュが玉座につけなくなるわけではありませんし」

「私はステフをもう一度娘と呼ぶことができる。それだけで十分に幸せよ」

 

 頷く。

 

「それならば、わたしも精一杯、力を尽くさせていただくのみです」

「『銀百合騎士団』一同、ご命令とあらば全力で任務に当たらせていただきますわ」

「うむ。では近日中にセルジュと話をしよう。……事が筋書き通りに進んだとして、発表は年明けになるであろうな」

 

 年明け。

 ステファニーが『女王』の神託を受けてから約三年後、ということになる。

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