わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

18 / 216
晴れの舞台には素敵な衣装を

 貴族学校の制服は黒を基調としている。

 男子はズボン、女子はスカート。国と学校の紋章を目立つ場所に入れること。主な規定はそんなところで、要するにある程度の画一性を保持しつつ貴族の名に恥じない衣装を纏えと暗に求められている。

 賭けの対価としてダミアンから贈られた制服もこれに則ったもの。

 そのうえでシルヴィアはいわゆるブレザーに近いものを希望した。上着を脱ぎ、オプションのベスト+中のブラウスで構成すれば夏場でも比較的快適に過ごせる。

 節約、という意味では一揃いのドレスにしてしまったほうが安く上がったのだろうけれど、それだといざと言う時動きづらいし汚すと全部取り替えないといけない。

 というわけで、まるで高校時代に返ったような気分だ。

 

「こんな感じかな?」

 

 胸に黒のリボンをあしらい、あらためて姿身に映すとそこには前世とは似ても似つかない銀髪の美少女がいる。

 自分で美少女と言うのもちょっと恥ずかしいけれど、

 

「似合ってる! すっごく似合ってるよシルヴィア!」

 

 同室の少女がことあるごとに「可愛い」と言ってくるのでついつい調子に乗ってしまう。

 せっかくの服を乱さないように気をつけながら、でも勢いよく肩に飛びついてきたクレールに「ありがとう」と微笑む。

 

「一人だけぜんぜん違う服ってちょっと恥ずかしいんだけど」

「いいじゃない。せっかくだから目立っておきなさいよ」

 

 胸のリボンに化けた魔族──ヴァッフェが楽しげに言ってくる。

 彼女は少しずつ魔力を取り戻し、大きめのリボンに化けられる程度には回復したものの未だ人間の姿を作るには程遠い状態。

 神聖魔法による誓約が効いているので暴れたりもできない。

 今のところただの「喋るリボン」である。

 シルヴィアは「もう」と息を吐き、後ろの少女を振り返って、

 

「クレールも似合ってるよ。格好いい」

 

 どうして貴族学校の制服を纏っているのかと言えば、騎士学校の卒業式のためだ。

 卒業式では進学先の制服を着るのが習わし。

 基本、全員が上級騎士学校に進学するので結局は同じ服なのだけれど、シルヴィアのように別の学校に通う生徒も稀にいる。

 クレールはもちろん上級学校の制服だ。

 乗馬服に近いパンツルック。騎士の学校なので可愛らしさよりも凛々しさが重視されており、いわゆる「王子様女子」といった装いだ。

 

「きっとクレールなら女の子のファンもいっぱいだろうなあ」

 

 これで学年一強いとか反則じゃないだろうか。

 年下女子からきゃーきゃー言われるのを想像していると頬をむにー、とつままれて、

 

「あたしはシルヴィア以外に興味ないからね?」

「もう。そういうこと気軽に言わないでって言ってるのに」

「本当のことだもん」

 

 エリザベートから「脳筋」と評される少女は最近開き直ってこういうことを言ってくる。

 嬉しさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだというのに。

 

「シルヴィアはあたしのこと、嫌い?」

「っ」

 

 だから、そういうことを至近距離で聞かないで欲しい。

 顔が真っ赤になるのを感じながら「好きだよ」と答える。

 

「クレールのこと、大好き。でも人前では……わかってるでしょ?」

「わかってる。みんなに聞かれたら怒られるもんね」

 

 この国では同性愛への偏見が強い。

 雌種優性思想への警戒から男たちが率先して「そういう風潮」を作っているからだ。

 魔族や神殿。別の考え方を知った今ならそれがわかる。

 シルヴィアたちにいろいろ吹き込んだ元凶の一人はくすくす笑って、

 

「相変わらず仲がいいのね。でも、人間はやっぱり面倒」

「またからかうつもり?」

「そういうわけじゃないわ。私にとっては女同士の愛情なんて当たり前だもの」

 

 魔族やエルフは女だけの種族なのに子孫を作れる。

 それはつまり──女の子同士なのにえっちなことが当たり前の世界ということで。

 この世界は思ったよりもえっちなんじゃないか、と、シルヴィアはよくわからないことを考えてしまった。

 そんな時に部屋のドアがノックされて、

 

「二人とも、準備はできまして?」

 

 クレールと同じ制服に身を包んだエリザベートたちが入ってきた。

 

「────」

 

 凛々しい騎士スタイルの少女が三人。

 お嬢様らしさが隠しきれないエリザベート、地味な印象だからこそ男性的な衣装が似合うイザベル、可愛らしさと格好良さが同居するクレール。

 三者三様の佇まいに言葉を失っていると「シルヴィア?」と瞳を覗き込まれて。

 

「あまり無防備でいると唇を奪ってしまいますわよ?」

「~~~っ!?」

 

 エリザベートまでそういうことを言うのは本当に勘弁して欲しい。

 慌てて一歩退けば公爵令嬢はくすくすと笑って、

 

「参りましょう? 安心なさい、お姫様はわたくしたち騎士が守りますわ」

 

 差しのべられた三つの手のうち、イザベルの手を取るとクレール、エリザベートが揃ってむっとした。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「ああ、よく似合っているじゃないかシルヴィア。さすが僕の贈った制服だ」

「学年三位はお呼びじゃありませんわ、ダミアン」

「そうだよデュクロ君。あんまりシルヴィアに馴れ馴れしくしないでよね」

 

 講堂に集められた生徒たちの中。

 目ざとく寄ってきたダミアンは二人からの嫌味にばっさりと切り捨てられた。

 学年三位。彼なりに逆転しようと努力しただろうに、彼が頑張れば頑張るほどクレール、エリザベートの一位二位独占が目立つ結果に。乙女ゲームの引き立て役という恩恵は今なおばっちりと機能しているらしい。

 そんなダミアンの態度もあって注目が集まり、

 

「おい。あれ、まさかシルヴィアか?」

「ああやって着飾るとなんていうか……意外と悪くないな」

「元平民の準男爵じゃ結婚相手にはならないが」

「第二夫人以降なら問題ないんじゃないか」

 

 わりと失礼な物言いにダミアンが「はっ」と笑った。

 

「シルヴィアが今更第二夫人で満足するはずないだろうに」

「……シルヴィアさんには神殿の後見がありますから」

「貴族学校に通いつつ暇を見つけて神殿で修行。なかなか大変ですけれど、意義のある三年間になるのは間違いないでしょう」

 

 あれから神殿により、シルヴィアが神聖魔法の素質を持つことが公表された。

 神殿は彼女に対し、外部の人間としては異例である「巫女」の位を授けることを表明。シルヴィアは平民出身でありながら貴族社会に出入りする権利を持ち、神殿の一員でもあり、貴族学校を卒業したら戦略家として軍事に関わる、というわけのわからない身分になった。

 おかげでこれからものすごく忙しくなりそうではあるのだけれど。

 神殿側の後見人となった聖女アンジェリカの存在がある限り、下手な貴族はシルヴィアを圧力で娶ることができなくなった。

 そのことをおそらく誰よりもよく認識しているダミアンは、

 

「本当に残念だ。婚約を取り付けられていれば大金星だったものを」

「ごめんダミアン。わたしまだそういうの興味ないから」

「くっ……お前ときたらそうやって……! せめて僕の贈った指輪を身に付けたらどうだ。晴れの舞台だぞ」

 

 騎士として腕を磨くことになる他の女子と異なり、お嬢様の仲間入りをするシルヴィアには卒業式で着飾る権利がある。

 一応、念のために指輪も用意してきていたのでポケットから箱を取りだして。

 ダミアンが「雑!?」と悲鳴を上げるのは無視して、

 

「あ。嵌めてあげるよシルヴィア」

「本当? ありがとうクレール」

 

 エリザベートが「出遅れましたわ」と歯噛みする中、銀装飾に青い宝石をあしらった上等な指輪が白い指に飾られた。

 卒業生在校生の女子からきゃあ、と歓声が上がり。

 

「静粛に! 皆の者は整列せよ。これより今年の騎士学校卒業式を執り行う」

 

 教師の声に奥へ向かおうとしたところで「シルヴィア」と呼び留められて。

 

「姉上の件、ありがとう。あの人も少しは救われたと思う」

「……うん」

 

 ゼリエの処刑はギリギリで回避された。

 目覚めた彼女は心から悔い、反省しているらしい。事情聴取にも素直に応じていることから死罪だけは免れることになった。

 代わりに借金という形で賠償金を背負い、ゴブリンを生み出す恩恵は神聖魔法による誓約で封印。聖女の了承がなければ使用できない縛りが科された。

 実家からは追放、巫女としての地位もはく奪されているため、彼女は神の意思の強いこの世界にありながら神から与えられたものを全て取り上げられたことになる。

 これからは平民としてとある貴族の使用人をする予定だそうだ。

 決して楽な生活ではない。けれど、死ぬよりはマシだ。

 

 彼女をあそこで殺さなかったことは、きっと無駄ではなかった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 伝統行事というのはどこの世界でも大差ないものだ。

 偉い人のお言葉を聞いたり代表者が意気込みを口にしたり。ちなみに卒業生代表はこういうのが苦手なクレールの代わりにエリザベートが務めて見事なスピーチを披露した。

 その後は卒業生一人一人に卒業の証が授与される。

 これも進学先の所属を表すアイテムを受け取るのが習わしだ。上級学校への進学者にそれぞれ紋章入りのピンが贈られ、

 

「最後に──シルヴィア・トー」

「はい」

 

 一人だけ別だからって最後に回さなくてもいいのに。

 全員の視線を集めながら壇上に。

 すると騎士学校の長がなぜかその場を離れ、代わりに一人の少女が姿を現す。

 銀の髪に白の衣。

 

「アンジェ様……?」

 

 生徒たちが息を呑む中、聖女見習いアンジェはにこりと微笑んで、

 

「もう一人いますよ、シルヴィア」

 

 続いて現れたのは王国の紋章を身に着けた身なりのいい男性。

 服の様式からして城勤めの文官、それもかなり上位の人間であることがわかる。

 彼はシルヴィアの前に立つと、

 

「記念品の授与の前に陛下からの辞令を発表させてもらう」

「辞令だと……?」

「まさか」

「準男爵シルヴィア・トー。其方を本日付で男爵に任ずる」

 

 大きな悲鳴と歓声が上がった。

 当のシルヴィアも突然のことに理解が追いつかない。一段階の昇進。最下級からの昇進なので契約社員が平社員になったようなものなのだけれど。

 準男爵から男爵への昇進には大きな意味がある。

 準男爵は功績を上げた平民を一代に限り貴族に()()()()()にするための位。そして男爵は当人とその一族を()()()()()()()ための位だ。

 つまり、

 

「其方は正式に王国貴族の仲間入りを果たした。もしも婿を取り、子を成すことがあればその子もまた貴族として扱われる」

 

 シルヴィアに与えられた「トー」の姓が便宜的なものではなく正式な家名になった。

 少額ではあるものの国から給料も出る。

 

「今後も励みなさい、シルヴィア・トー」

「ご厚情に心より感謝いたします」

 

 祝いの品として月と百合の花をあしらった髪飾りが贈られる。

 せっかくだからとアンジェがその場でつけてくれた。

 拍手。

 クレールたちによるささやかな音をダミアンが追いかけ、女子を中心として大きな音へと変わる。

 みんなからの祝福はシルヴィアにとっても忘れられない思い出になった。

 

「神殿からは新しい衣をお贈りいたします。洗い替えにでもお使いください」

 

 これから通う機会が多くなるから、という意図が含まれていそうだ。

 

「ありがとうございます、アンジェ様」

 

 さらに貴族学校の紋章入りブローチを受け取ったシルヴィアは卒業生で一番の注目を浴びながら無事に式を終えたのだった。

 式が終われば順次、寮からの引っ越し作業が始まる。

 新しい生徒のためにも早めに出なければならない。エリザベートのように自室へ専用の家具を運び込む生徒もいる。そのエリザベートは「上級学校からは使用人がつけられますので快適ですわ」などと言っていた。

 荷造りはもうだいたい済ませてある。

 大きな荷物は貴族学校からの使いが運んでくれるそうなのでシルヴィア自身が持って行くものは多くない。

 

「とうとう卒業だね、シルヴィア」

「うん。ここからはそれぞれ新しい生活だね」

 

 物が減ってがらんとした部屋は少し寂しい。

 

「もう『離れないで』なんて言わないけどさ。ぜったい、定期的に会おうね」

「もちろん。手紙もちゃんと書くよ」

 

 ゴブリン討伐の褒賞も出た。お金に少し余裕ができたので紙とインクを買うお金くらいはどうとでもなる。

 シルヴィアは笑って手を持ち上げた。

 親指を立てた仕草。クレールもすぐに理解して指を絡めてくれる。

 

「約束」

 

 そして。

 

「話をする機会でしたら確保させていただきましたわ」

「エリザベート!?」

「先ほどは突然失礼いたしました、シルヴィア様」

「アンジェ様まで!?」

 

 聖女見習いとイザベルを後ろに引き連れて公爵令嬢様が部屋に乗り込んできた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。