わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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小さな少女と大きな決意

「……セルジュ殿下の求婚をお受けすることにいたしました」

 

 約一週間後にはクリステルが報告にやってきた。

 恥ずかしそうにしつつも、口元には笑みが滲んでいる。

 

「クリステル様。意外とまんざらでもないのではありませんか?」

「それは……まあ、その。殿方から熱のこもった告白を受けて悪い気はしないと申しますか……」

 

 珍しく歯切れの悪い返事をする様子には「はいはいご馳走様」と言いたくなる。

 同席したエリザベートともどもにやにやしていると、彼女はこほん、と空気を戻して。

 

「正直なところ、殿下の気持ちをお受けしようと決めたのには陛下からの助言が大きく影響しております」

 

 国王はクリステルにも計画の一部を話したらしい。

 

「加えて申し上げるならば、私は殿下のお気持ちが結婚まで続くかどうかはわからない……と思っております」

「殿下が心変わりする、ということですの?」

「ええ。実際に我が国へ赴き、その様子を見れば『他国に骨を埋める』ということがどういうことか理解なさるはずです」

 

 頼れる者のほとんどいない場所。

 土地が違えば風土、食生活、ちょっとした言葉遣い、異なるところはいくらでも出てくる。ふとした小さな感覚の違いに気づくたび、セルジュは宇宙人と話しているような違和感を覚えるかもしれない。

 

「若い熱量があればやり遂げられるのではないか、と、わたくしは思いますけれど」

「もちろん、そうなっていただけるのならば女としても、国の存続のためにもこれ以上はありませんけれど。駄目になったときのことも考えておきたいと」

「もし、後戻りすることになれば殿下は苦境に立たされますね……」

 

 簡単に前言を翻す者は王の器とは言えない。

 一度国を捨てる決断をした時点で彼の支持層は激減するだろう。そのうえでステファニーと次期国王の座を争うとなれば──。

 

「仕方ありません。それは殿下が自ら選ばれた道。王族とはそういうものだと私は思っております」

「そうですね。全て自分の思い通り、などと上手くはいかないものです」

 

 ともあれ、これで条件の一つ目と二つ目が達成された。

 残る三つ目の条件。

 これに関してはシルヴィアも事後報告だけで済ませるわけにはいかないだろう。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「お久しぶりでございます、シルヴィア様。お元気そうでなによりです」

「ご無沙汰しております、ファン様。またお会いできて嬉しく存じます」

 

 クロヴィスとファンの親子(※表向きの立場)はシルヴィアの誕生日よりもだいぶ早く都へと到着した。

 

「父上から催促を受けてな。急遽出発を早めることになった。……おかげで準備が半端になったが、まあ、屋敷よりも城のほうがよほど環境は整っているからな」

 

 一年ぶりに会ったファン──ステファニーはあと一ヶ月ほどで八歳。また一段と大きくなり、挨拶も見違えるほどしっかりしたものになった。

 

「随分お勉強なさったのですね、ファン様。大変ではありませんでしたか?」

「ううん。お父様が厳しく躾けてくださったから」

「クロヴィス様。こんな小さなお子様にそんなに厳しくなさっているのですか?」

「当然だろう? 俺は自他共に認める女好きだぞ?」

 

 女好き。

 簡単にきゃーきゃー言ってくれる女の子をつまみ食いしている印象だったのだけれど、しっかりしたご令嬢が好みだったのだろうか。

 言われてみればリゼットにご執心だったわけで……。

 と、若干失礼なことを思っていると、クロヴィスはふんと鼻を慣らして、

 

「自分で女を育てる機会があれば完璧な女を目指させるに決まっている」

「お父様は『カトレアみたいな女にはなるな』っていつも言っているの」

「クロヴィス様。カトレア様に聞かれたら怒られますよ?」

「問題ない。こいつは言ってもいい時と場所を弁えているからな」

 

 そういう問題だろうか?

 

「それにしてもお前、また何かやらかしただろう? 父上が俺を呼びつけるのだ、何かろくでもない事に決まっている」

「そのようなことは決して……」

 

 保護者を交えての話し合いは今晩城で開かれることになっている。それまでなにも言えないシルヴィアは思いきりすっとぼけたのだけれど、元王子様はだいたいお見通しらしい。

 

「……全く。展開が早いにも程があるだろうに」

 

 

 

 

 

 

 話し合いはまたも人払いを行った上で。

 参加者はシルヴィア、クロヴィス、ファン、それから国王とスザンナだ。

 本当の両親の姿を同時に目にした少女は瞳をはっきり潤ませたものの、泣くのをなんとか堪えて、

 

「……大きくなったな、ステファニー」

「っ!!」

 

 本当の名を呼ぶ国王の声で我慢の限界に達した。

 母にとびつき声を上げて泣く姫を見て、国王は目を細めながら呟く。

 

「やはり女の子は父親よりも母親のほうが良いか」

「残念ですが父上、私がステファニーでも母親を選ぶでしょう」

「やれやれ。男親というのは損な役回りだな。そう思わぬか、シルヴィア?」

「え。ええと、その……そうですね?」

 

 この国で一番シルヴィアがその問いに向いていない回答者だと思う。

 シルヴィアがそうしていじめられている間にクロヴィスは「では、やはり()()()()()ですか」と言葉を紡いで、

 

「うむ。ステファニーを王族に戻す唯一の機会が巡って来た」

 

 話の続きはファン──ステファニーが泣き止んでから。

 

「どういうことですか、お父様?」

「ああ。実はな、お前の兄セルジュが王位継承権を放棄した。……セルジュの事は覚えているか?」

「セルジュお兄様ですね。覚えています。去年もご挨拶しました」

 

 セルジュも去年シルヴィアの誕生パーティに出席している。……本当、重要人物が参加しすぎではないだろうか。

 

「でも、あの。お兄様は王様になるのを嫌がったのですか?」

 

 恐る恐る、表情を曇らせながら尋ねるステファニーを見て、大人たちが「ほう」という顔をした。

 もしかすると「責任感」という意味では今の時点で既に彼女のほうが上かもしれない。

 

「セルジュは不安定になっている隣の国を助けたいと考えたのよ。隣の国のクリステル殿下と一緒にね」

「……そう、なんですね。でも、じゃあ、この国はどうするんですか?」

 

 尋ねてから、ステファニーは「あ」という顔をした。

 

「そうだ。……お前にはすまないことをした、ステファニー。王として間違っていたとは思わない。しかし、父親として我は失格だった。あの時、お前の未来を断ってしまった事を謝らせて欲しい」

 

 少女の瞳が大きく見開かれ、唇が、両手が震える。

 

「お前が望むのならば、この国の『女王』を目指してみないか? もしもお前が頷くのならば我も、スザンナも、皆がお前を助けよう」

「今ならば、あなたには限りない『自由』があるのよ、ステファニー」

 

 国王にも、スザンナにも万感の想いがあるだろう。

 おそらくステファニーは史上最も恵まれた女王候補者だ。

 彼女もそれを感じているのか、震える唇をきゅっと結び、瞳を再び潤ませる。それから──他の誰でもない、シルヴィアを見た。

 

「私が、王様になってもいいの?」

「はい。……もちろん、ならなくても構いません。みんな、ステファニー様がどちらを選んでも怒りませんし、ステファニー様を応援します」

「────」

 

 言葉が出ない、というように制止するステファニー。

 彼女を愛おしげに見つめた国王が、スザンナが「すぐに結論を出さなくてもいい」と諭すものの、幼い王女は首を振った。

 

「ずっと考えていたの。私はなにになりたいか。なににならなきゃいけないのか」

 

 神託が絶対だとシルヴィアは思っていない。そしてステファニーはこの世界でトップクラスに神託から自由な立場だ。

 その彼女が出した答えは、

 

「私はみんなに恩返しがしたい。怖いことがあった時、辛いことがあった時、みんなを助けられる人になりたい。……でも、私はシルヴィアみたいに巫女にはなれない」

 

 だから。

 

「私、王様になりたい。そして、みんなが幸せに暮らせる国を作りたい」

「……わかった」

 

 幼い少女の、国どころか世界の歴史を揺るがす尊い決断を、国王は深く頷いて認めた。

 

「ステファニーよ。其方を王族に復帰させよう。そして世界初の女王を目指すがよい」

「はい、お父様。……いいえ、陛下」

 

 瞳に溜まった涙を指で拭って、答えるステファニー。彼女の小さな身体をスザンナがぎゅっと抱きしめ、クロヴィスが「やれやれ、これで父親も終わりか」と笑う。どうせすぐ本当の子供が生まれるだろうに。

 と。

 ステファニーの視線がシルヴィアに向けられる。なんとなくなにかを乞われている気がしたので、恐れ多いとは思いつつもぎゅっと抱きしめさせてもらった。

 

 これで、『銀百合騎士団』の隣国行きも決定である。

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