わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
年明け、城では恒例の新年行事が執り行われた。
貴族たちを集めたささやか(※王族基準)な宴。各家、あるいは一族で祝う貴族も多いので参加者もそこまで多くはない。
当主に近くない適当な者が「顔だけ出しに来ましたー」みたいな顔でご馳走を食べていたりする中、シルヴィアは神殿代表として宴に参加していた。
同行者は騎士団代表のエリザベート。
挨拶回りをしたり、握手を求められたりした後、国王から挨拶が。
これもまた恒例。
別に傾聴しなくても構わない。食べながら聞いている者もけっこういる程度の穏やかなノリの中、校長先生の挨拶のごとくいくつかの話が続いて。
「それからこの度、我が息子、第七王子セルジュと隣国の姫、クリステルが恋仲となった」
その話はまるでついでのようにあっさりと周知された。
「二人の関係については温かく見守りたいと思っている。恋とはある日突然破れる事もある。セルジュの想いがこのまま実るよう、どうか温かく見守って欲しい」
あまりにも当然のように宣言されたので「ふーん」とばかりに流しそうになる参加者多数。その後硬直し、「え? いまなんて言いました!?」となる人も多数。
それはそうだ。
父親である国王自ら、次期王位継承者の恋愛関係を暴露。その相手が隣国の要人となれば。
噂、あるいは憶測程度に流れていたある流れが公式となった、と言っても過言ではない。
となれば、気になるのは。
「陛下、それでは次の──」
次の国王は誰になるのか。
セルジュが隣国の玉座に就く。それはそれでめでたいことではあるものの、暴挙には違いない。
大きな声では尋ねられないものの、多くの者が疑問を抱き、そして、国王はイエスともノーとも反応しないまま、
「そして最後に、喜ばしい報せがある」
今度はいったいなんだ、と、皆が注目し、
「我が娘、第十王女
どよめき。
死んだはずの王女の名が三年の時を経て表舞台に戻ってきたのだから、それも当然。
「ステファニーが病死したという発表は偽りである。彼女はある理由により皆から存在を隠し、潜む必要があった。故にシルヴィア・トーやアンジェリカの協力を得て死んだ事としたのだ」
こちらにまで注目が集まる中、シルヴィアは白い翼を広げて会場内に舞う。
ひらりと、国王の斜め後ろへと降り立って。
これから姿を現す人物を導くように後方へとゆっくり歩いていった。
「時を経て、今こそステファニーを呼び戻すべきと判断した。皆、拍手で迎えて欲しい」
衝撃が大きすぎてまばらな感じの拍手しか起こらない中、ステファニーが入場。
魔道具による偽装を解いた姿で着飾るのはほぼ三年ぶり。その成長した様と、とある公爵令嬢との共通点に皆が息を呑み、
「あらためて紹介しよう。我が娘、第十王女ステファニーだ」
シルヴィアは幼い王女の後方に浮かび上がると、聖なる光を放った。
同時にステファニーが皆に見えるように『神託』の文字を表示する。
空中に浮かび上がった二文字の神文字に、知識の深い者達が驚愕。
「馬鹿な、女王だと……!?」
「……そういう事か。天使が初めて手ずから『神託』を授けた方。神託は失敗していたのではなく、あの時点では衝撃が大きすぎたのか……!」
さらに、幼い王女の傍にもう一人の王候補、セルジュが歩み寄って手を差し伸べる。
兄妹が手を取り合い微笑み合う様は、王位継承争いを当事者たちが望んでいないことをなによりも明確に示していた。
これもまた、一つの歴史の転換点。
出席していた者は生涯誇るように語り、出席していなかった者は後々まで悔しがることになる、歴史的パーティでの一幕であった。
◇ ◇ ◇
「あれだとわたし、めちゃくちゃ偉そうだよね?」
「めちゃくちゃ偉いので問題ありませんわ」
「エリザベート、なんか適当じゃない?」
「だっていつものことではありませんの」
宴が終わって休憩室へ下がった後でそんな言い合いをしていると、ステファニーがぽかん、とシルヴィアたちを見て、
「二人とも、さっきまでと全然違う」
「それはまあ、よそ行きの顔、というのは誰にでもあるものですもの」
ふっと笑って答える公爵令嬢。
慕ってくれる目下には案外優しいと言うか、親分気質と言うか。自分の娘にもこんな感じなのだろうか。案外、いいお母さんになりそうだ。
などと、余計なことを考えつつ、
「お疲れ様でした、ステファニー様。大変だったでしょう?」
「うん。……でも、シルヴィアたちが助けてくれたから」
恥ずかしそうに、照れくさそうに、軽く視線を下ろす少女。
この国の王位継承に名乗りを上げた彼女には当然、ありとあらゆる接触があった。そこはシルヴィアやエリザベート、その他もろもろの人員で徹底カバー。
変な相手を近づけさせはしない、と精一杯頑張った。
もちろん、三年ほど父親役をしていたクロヴィスも頑張っていた。
「みんなステファニー様が大好きなのですよ」
「本当? シルヴィアも?」
「もちろんです」
しゃがみこんで手を握ると、ステファニーは嬉しそうに微笑んでくれる。
「急ぐ必要はありません。まだできないこともたくさんあると想いますが、一つずつ、ゆっくり学んでいきましょう。まだまだ時間はたくさんあるのですから」
「シルヴィアが言うと説得力がありますわね」
「なにしろ剣の腕じゃ今でもみんなに敵う気がしないからね」
気安い雰囲気が功を奏したのか、
「うん。……頑張る」
幼い王女、一世一代の奮闘は最後まで上手く収まったのだった。
◇ ◇ ◇
セルジュとクリステルの交際を敢えて発表したのにはいくつかの狙いがある。
例えば、交際期間が一定の長さに及んだことを知らしめるため。そして、そのことを隣国にも届かせるためだ。
二人の交際も順調に進み、
「殿下は毎日のように手紙をくださるのです。週末は必ず会いに来てくださいますし、はっきりと『愛してる』と何度も囁いてくださいます」
惚気話のような悩み相談、のような惚気話を聞かされたシルヴィアとエリザベートは「あらあらまあまあ」とばかりに顔を見合わせて。
「本当に仲がよろしいようでなによりですわ」
「本格的に身を固める覚悟をなさったほうが良いかもしれませんね」
「お二人共、からかわないでくださいませ!」
言いながら、クリステルも満更でもなさそうだ。
頬が緩んでいるし、幸せそうな笑みが消しきれていない。愛される喜びに満たされている女性そのものだ。
使命ばかりで大変そうだった彼女をこんな風に変えたのは、他でもないセルジュ。
「……なんというか、セルジュ殿下、恋愛の方向性が人騒がせな点を除けば、男性として誠実でマメな方ですわね」
「もう、エリザベートってば。……まあ、わたしもそう思うけど」
「あら。シルヴィアにもいたではありませんの。ほら、ダミアンが」
「いや、ダミアンは俺様系だし。そろそろあいつ結婚するし」
都合がつけば式にも参加する予定だったが、この分だと難しいかもしれない。二重の意味で。
「このまま、この国に滞在させていただけたら、と思うこともあるのですけれど」
遠い目をしたクリステルがそれを振り払うように言う。
「三月に帰国いたします。弟に会い、殿下との結婚許可をもらうという名目で」
「そうですか。それは、忙しくなりますわね」
実のところ既に準備は進めている。
時期がズレても問題のないもの──魔道具の生産なんか最たるものだ。これにはリゼットとアンが大活躍。
それから、都に残る兵士たちを可能な限り鍛える役目も。
隣国行きに同行するのは『銀百合』メンバーの総勢七割。この数年、騎士団を抜ける人員より入ってくる人員のほうが多いためかなりの人数だ。
その分、国内の守りは男性騎士団に担当してもらうことになる。
ダミアンも騎士として忙しくなるはずで──シルヴィアが式に参加できないのはともかく、そもそも式を挙げている余裕があるのか。
まあ、ズレたらズレたでシルヴィアも参加できるからOK、と思うしかない。
国内は安全なはずだし。いや、フラグとかじゃなくて。
「わたしたちとしても勝負どころだね。ここは絶対に勝たなくちゃ」
王族を乗っ取った魔族の待ち受ける国。果たして今はどんな状況になっているのか。