わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「頼んだぞ、『銀百合騎士団』」
「お任せください、陛下。万事恙無く終え、必ずや都へ戻ってまいります」
三月中旬。
セルジュ、そしてクリステルの二人はシルヴィアたち『銀百合』に護衛されながら隣国へと出発した。
騎士一名につき兵士四名の通常編成。
さらに隣国の騎士・兵士も多く同行しているため、シルヴィアにとっては過去最大級の大所帯である。馬や馬車が足りず徒歩の面々もいるので移動も遅い。
まあ、そんな中でも馬車に乗っていられるだけ楽なのだけれど。
「馬車というのはちんたらした乗り物じゃのう」
「仕方ないよ。プルプルだってこんな大勢運ぶのは無理でしょ?」
「むう。お主等が自力で飛べれば万事解決だと言うのにの」
同じ馬車にはシルヴィア、アンジェ、クレール、それからプルプルという四人。
クリステルとセルジュの馬車にも誘われたものの「どうぞお二人でごゆっくり」と謹んで辞退した。護衛として乗り込んだ者は二人のいちゃいちゃを見せられてさぞかし大変だろう。
ちなみに、こちらの国の代表としては王妃スザンナが同行している。相手役兼護衛はエリザベート。
わざわざスザンナが選ばれたのは現国王に対する叛意がないと示すため、危険な役割に就いて国に貢献するため。
このまま行くと「女王の母」となり、大きな顔ができるようになるので、それまでに信用を稼いでおきたい、という思惑だ。
「旅は長いからのんびり行こうね。アンジェ様も到着するまでは気を抜いていてくださいね?」
「ご心配なく。私も天使なのですから、簡単には倒れたりいたしません」
にっこりと微笑んで答えるアンジェはむしろ、この旅を楽しんでいるように見えた。
「都にいるよりもよほど長くシルヴィア様と共にいられるのです。疲れている場合でもありません」
「あはは、確かにそうかも。身体を動かせないのはちょっと窮屈だけどね」
「ふっ。お主はときどき他に交じって歩けばよかろう。体力が余りすぎて体調を崩されても困る」
「なにおう!? それはプルプルもでしょ!?」
「妾の身体はほんの数日怠けた程度で調子を落としたりせんわ」
脳筋二人の言い合いはともかく。
実際、旅は長い。なにしろ国境まで行った後、相手国の都までたどり着かなければならないのだ。
道中で魔物に襲われる可能性もある。
そのうえ着いて終わりでもないのだから本当に、ペース配分は気をつけなくてはいけない。
◇ ◇ ◇
あまりの大所帯なので日程の半分以上は野宿になった。
街や村に泊まる時も主要メンバー以外は野営というスタイル。移動を止めている時間が長ければ長いほど到着も遠のくのであまりゆっくりもしていられない。
夜が明け、補給を終えたらなるべく早く出発、馬の体力を見つつ少しでも長く移動する──という繰り返しになった。
「皆様、本日もお疲れ様でした。癒やしをかけさせていただきます」
騎士や兵たちには毎日、シルヴィアとアンジェから癒やしをかけた。
疲労が抜け、短い睡眠でも回復しやすくなる。
こうしたケアも移動速度の向上に貢献した。
水はリゼットたち魔法使いが魔法で出せるし、なんなら神聖魔法で食料も出せる。荷物を減らすことができたのも良かったかもしれない。
そうして、国境最寄りの砦に到着。
「異常はありませんか?」
「はっ! 全て正常、問題ありません! お気をつけて!」
ここまでは何事もなく進めた。
さて、ここからはどうだろう──。そんなシルヴィアたちの不安を見抜いたかのように、隣国に入って二日目にそれは起こった。
「オークの群れだー!」
一行に向けて爆走してくる魔物──オークが数十匹。
移動が停止する中、思わずメイド姿のティーアを探してしまったものの、彼女はジト目で「あたしじゃないわよ、失礼ね」との反応。
「にしても、これ、なにかから逃げてるわよ」
さすがオーク博士。
彼女の指摘は当たっていて、オークたちを追い立てるように二匹の翼竜が飛来してきた。
竜と言っても翼竜は亜流──真なる竜族と違って魔力も知性も高くない、ただ翼を持って飛ぶだけの魔物である。
「なんだ、雑魚じゃな」
プルプルは特に興味も示すことなくスルー。
クレールは立ち上がったものの、シルヴィアに「預かっててくれる?」と愛剣アロンダイトを手渡してきた。
「あれ、使わないの?」
「だってそれ抜いたらすぐ終わっちゃうじゃない」
「いや、すぐ終わっていいんだけど!?」
さすがに今のはシルヴィアでも「おいこらこの脳筋」と思う。
ともあれ、オークと翼竜の討伐はあっさり終わった。
「被害が出ても困るし、態勢を崩すのも嫌だし、さっさと済ませようか」
「そうですね、この程度ものの数ではありません」
ラシェルとイザベルを中心に、雑魚の掃討に向いた騎士数名がオークの群れを撃滅。
強襲してきた翼竜もクレールが真っ向から迎え撃って、
「行くよ、《竜爪》!」
強く蹴られた地面。
人間離れした脚力が生み出す跳躍、持ち前のポニーテールを揺らしながら、両の手に魔力の爪を生み出すクレール。
それはさながら、竜娘プルプルの戦法。
並の剣よりよっぽど丈夫で鋭いその爪が翼竜を切り裂き、地に落とす。そうなってしまえば後は剣に串刺しにされて終わりだ。
「誰か、怪我をした方はいますかー?」
「いませーん!」
「こっちも大丈夫」
怪我人なし。兵力の大部分は動いてすらいない。
「……オークは気を抜くと騎士でも危険な相手のはずなのですが」
隣国側の騎士団長が呆れたように、あるいは慄くようにそう口にしていた。
◇ ◇ ◇
それから、都に着くまでに魔物の襲撃が二回。
通算二度目の襲撃はトロールが五匹。
これはアロンダイトの試し斬りがしたいとクレールが一匹、対抗意識を燃やしたエリザベートとプルプルが一匹ずつ、面倒だからとシルヴィア、アンジェが残りを吹き飛ばして終わり。
三度目は近隣の湿地から溢れ出てきたアンデッドの大群。
これも面倒だから神聖魔法でまとめて浄化した。
下手に武器で倒そうとすると汚れるし、死体の処理にも困るのでこれが一番だろう。
「それにしても、何やら作為を感じますわね」
三度目を終えた後、クレールとプルプルを追い出してエリザベートとリゼットが馬車に同乗してきた。
「うん、まあ、そうだよね。さすがにアンデッドの大量発生はおかしいよ」
「あなたとアンジェ様、アンジェリカ様の三人がかりであちこち浄化してきた我が国と違い、こちらはそれだけ人手不足なのかもしれませんけれど。偶然現れた魔物にしては強力すぎますわ」
「幸い、こちらに被害はありませんでしたが……。我々の戦力を削ろうとする、あるいは測ろうとする意図があるようにも見えます」
「ということは……。やはり、私たちは待ち構えられているのでしょうか?」
「おそらくは。……これは、思ったよりも早く話が進むかもしれませんわね?」
そうして、都へと到着。
「おお、黒い……!」
「その反応もどうかと思いますけれど」
隣国の都は外壁が黒く、建築様式もシルヴィアたちの国とは少々異なっていた。
質実剛健。
見栄えより堅牢さを重視しているイメージがあり、戦争好きの気質はこういうところからも培われているのでは、と思ってしまう。
とはいえ人々の様子は、
「……意外と普通だね?」
クレールが首をひねった通り、異国の騎士を珍しがる人、王族の帰還を祝う人、よくわかってないけどとりあえず喜ぶ子供などよくある光景。
奥に進むほど事情をわかっている人間が増えていくのも同じだ。
街並みも、思ったほど悪くはない。
生活に余裕はなさそうであるものの、通りには活気がある。国王代行となったクリストファが善政を敷いてなんとか立て直してきた、といったところか。
そのクリストファは、
「やあ、姉上。お帰り。まさか隣国から結婚相手を連れて来るなんて驚いたよ。久しぶりの再会なのに大変な事だらけだ」
クリステルにそっくりの髪色、瞳。
顔立ちもよく似ているものの、何年も眠っていたせいか、姉よりいくらか若く、あるいは幼く見える。
それでも男女の差かクリステルよりはがっしりとした男性らしい容姿で、王族としての礼装を纏っている。
国王代行クリストファは、都の中央広場でシルヴィアたちを、そして姉を出迎えた。
傍には多くの騎士・兵士。
奥にある城を守るように配置された彼らの様子はどこか物々しい。
「隣国の方々もご機嫌麗しゅう。できれば城へ案内する前にこちらでご挨拶をさせていただきたいのだけれど、いかがだろうか?」
「……クリス。本当に、あなたはクリスなの?」
戸惑い。不安。恐怖。様々なものを織り交ぜながら呟くクリステル。
なにしろ、堂々と立つクリストファの姿はあまりにも、
「国王代行とはいえあなたはただの王族。隣国の方々に強く出られる立場ではないわ。それなのに──」
「簡単な話だよ姉上。いや、逆賊クリステル」
青年がさっと手を上げると何十もの弓がクリステルを狙う。
「隣国に与し、国を売り渡そうとする貴方はもはや姉ではない。ここで討ち、この僕が正式に即位する」
袋のネズミ。
どうやら向こうの準備も整っていると見ていいらしい。