わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「貴方は兄上を殺し、隣国と共謀してこの国を乗っ取ろうとしている。国王代行として僕はそれを見過ごせない。残念だけれど、全員ここで死んでもらう」
「……そう。クリス、やっぱりあなたはもう、あなたではないのね」
クリステルの逡巡はごく僅かだった。
彼女は首を振り、息を吐き、気持ちの整理をつけると宣言した。
「国王代行クリストファ。あなたは魔族に乗っ取られている。先王グレゴールの暴走もまた原因は同じ。私は隣国の協力を得て兄を止めることができましたが、本体はまだ、その身体に残っている」
動揺が広がる。
弓を構える騎士・兵士たちも「どちらが正しいんだ?」と混乱している様子。
それはそうだ。彼らとしてはクリストファを信じたいところだろうが、十年間眠っていた王子が恙無く采配を続ける現状に違和感を覚えていたはず。
加えて、今まで尽力していたクリステルが国を見捨てたなどとも考えたくない。
一方、クリストファは笑顔で、
「証拠はあるのかな?」
「簡単なことです。私と共にお越しいただいた天使様のお力を借り、聖なる光をあなたに浴びせればいい。それで異常が起きれば私の証言が正しかったことになります」
僅かなにらみ合い。
ふっ、と、先に視線をそらしたのはクリストファのほうで、
「ああ、確かに僕は魔族だ」
あまりにも堂々とした発言に沈黙が下りた。
「グレゴールもそう。この国はもうずっと魔族に操られていたんだよ! なんとか立ち直ろうとしている最中に見えるかもしれないけれど、王族は数を激減させ、国内情勢もずたずた。もう一押しで崩壊するところまで来ている」
誰もが、彼の言っていることを理解しきれない。
「苦しむがいい、人間ども。そして僕を楽しませてくれ。もっと、もっと、もっと!」
その声を合図にするかのように、街のあちこちで爆発音、咆哮、そして悲鳴が上がり始めた。
飛翔する
剛腕を振るって街を破壊するトロールとオーク。
のたりと広がり百鬼夜行の様相を見せるアンデッドの群れ。
「何故、都の中に魔物が……!?」
向こうの騎士が叫ぶも、そんなもの、トップが魔族ならいくらでもやりようはある。どこかに隠して飼っていたのだろう。
クリストファは狂ったように笑うと「さあ!」と腕を広げた。
「皆の者、裏切り者と隣国の者を殺せ! そうすればお前達だけは殺さないでおいてやる! 国が、家族が大事ならどうすればいいかは簡単だろう!」
そんなことを言われてもみんな簡単には動けない。
向こうの者たちはなおも混乱、逡巡を続けているものの──。
「『銀百合騎士団』、戦闘開始! 暴れる魔物を一匹残らず駆除いたします!」
元よりこの程度、シルヴィアたちは想定済み。
騎士団長エリザベートの指示のもと、全員が動き始める。
ラシェルを始めとする殲滅力に優れた者達がアンデッドの群れへ向かい、
イザベルを中心とする射撃手たちはワイバーンを撃ち落としながら建物の屋根に上がって射線を確保。
「魔法隊! 騎士たちの援護を!」
アンを始めとする魔法使いメンバーに指示を出したリゼットが、持ち前の風魔法で高く飛び上がる。襲いかかるワイバーンの翼を切り裂き地上へと落としながら都全域を視認。
風を使った伝言の魔法で細かく指示を出していく。
「シルヴィア様!」
ゼリエの声と共に、メイド姿のヴァッフェが一本の錫杖を投げてくれる。
銀色に輝くそれを受け取ると、シルヴィアは飛翔。
しゃらん、と鳴らしながらその力を解放すると、聖なる光が都へと広がっていく。
広域の浄化が必要になった時のため、あらかじめ力をこめておいたのだ。
自分たちの都を浄化した時と同じ要領。状態がひどいので全域を浄化しきるのは難しいかもしれないけれど、魔物や魔族の動きを止め、人々を冷静に戻すには十分。
「自白した以上は逃がしませんわ。ここでその蛮行、悔い改めていただきます」
オートクレールの清廉なる刃が突きつけられ、
「今度こそぶっ倒してやるから覚悟してよね」
「うむ。こういった輩はきちんと潰しておかねば寝覚めが悪い」
アロンダイトの重厚な刃が引き抜かれる。プルプルの『竜爪』もいつも以上に気合いが入っているようだ。
「……『銀百合騎士団』に同調します! 総員、戦闘準備!」
さらに、クリステルの連れてきた──シルヴィアたちの国に滞在していた兵士・騎士たちが自国を救うために戦闘を開始する。
彼らの大部分には滞在中に『恩恵』を教え、訓練を施し、その戦闘力を大きく引き上げてもらっている。
代償はシルヴィアと敵対しないこと。
実質、国家間での戦争に参加できなくなる縛り。決して小さくはないものの、彼らは喜んでこれを呑んだ。今は戦うべき時ではないこと、真っ向から戦っても勝算が薄いことを肌で感じたからだ。
「殿下、馬車から絶対に出ないようにお願いします」
「あ、ああ。わかっている」
セルジュはひときわ堅牢に作った馬車に籠もってもらい、騎士と兵士で徹底ガード。
リゼットたちが頑張ってくれた甲斐もあってみんなには防御の魔道具を配布し、さらに使い捨ての攻撃魔道具まで配備できている。
魔物の百や二百、千や二千ではびくともしない。
──しかし。
そんな押せ押せモードに冷水を浴びせかけるような事態が直後に起こった。
背筋を走る悪寒。
前方、広場の向こう側から広がった
ばさり。
漆黒の翼を広げ、酷薄な笑みと共に空から一同を睥睨したのは、
「聖女様!」
四十代の、白い衣を纏った美女。
クリステルが声を上げた通り、彼女はこの国の聖女なのだろう。
ただし、その身には黒く輝く神文字。纏うオーラは聖なる力ではなく、魔族の魔力。
彼女はその唇からきゃは、と、年齢に似つかわしくない声を上げ、
「魔族がお姉様一人だと思ったぁ? ざーんねん、聖女様もこうやってぶっ壊しちゃいましたぁ! さしづめ今のあーしは魔族と天使の中間『魔天使』みたいな?」
「……そんな。聖女の身体を掌握、強制的に邪な進化を行わせたというのですか!? そんな、そんなことが……っ!」
『魔天使』とシルヴィアの力は拮抗している。
聖女を使い潰す気満々の魔族相手に互角なら十分な戦果だけれど、その悪辣さには胸が痛む。
アンジェもまた悲鳴を上げ、自分の分の錫杖を手に取った。
そう。こちらの天使は一人じゃない。
聖なる光が再び広がり、少しずつ敵の力を押し返していく。
きゃはは、と、再び笑い声が上がって、
「無駄無駄ぁ。こっちはまだ余裕ありまーす。聖女様の身体もしっかり魔力の塊に改造してるしー」
光の展開速度が押し止められるように激減する。
一応、こちらが勝ってはいるものの、
「ははっ。これじゃあ都にいる魔物を抑えるには足りないね?」
「お姉様、そろそろその口調止めたら? 面倒臭いっしょ?」
「んー。……ま、そーね。んじゃ、そろそろ
口調どころか声までも変化させるクリストファ。
どうやら彼女──彼女たちは魔族の中でも特別の変わり種だ。
人間の臓器に擬態し、その身体を乗っ取って改造する。意のままに操るにはある程度の時間がかかるだろうし、演技によっては疑われることもあるだろう。
普通に人に化けるほうがまだ手っ取り早いような迂遠な方法。そこまでして手に入るのは人の身体一つだが、
「
その身体を長年かけて武器であり鎧であり魔力タンクでもある『モノ』へと変貌させたとしたら。
ただでさえヴァッフェたちより格上の魔力を持つ強い魔族が、ロボットでも操るように操作と魔力供給だけに専念したら?
「っ」
「こいつ……っ!」
力を解放したクリストファは、オートクレールとアロンダイト、『竜爪』の攻撃をただ腕を振るうだけで薙ぎ払った。