わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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最大の決戦 2

 隣国の都は大混乱だった。

 民たちは恐慌状態となり、都から逃げ出そうとするも、あちこちに魔物が溢れかえっている。あの『魔天使』の仕業なのか、特にアンデッドの数が多い。

 いくらラシェルでも都中の敵を一気に薙ぎ払えるわけではない。

 他の騎士も頑張っている。例えばファミリー向けレースゲームの恩恵を持つ女性騎士は馬で駆け抜けながら敵を薙ぎ払い、時には甲羅を投げつけ、サンダーを放ち、スターで無敵状態になっては体当たりを敢行している。

 それでも、被害を少しでも減らしながら門へと誘導するのが精一杯。

 

 これは、まずい。

 

 早くある程度の収拾をつけないと死人がどんどん増えてしまう。

 

「ゼリエ! 最後の一本を使って!」

 

 聖なる力を籠めた錫杖は全部で三本持ってきた。

 準備時間的にそれが精一杯だったのだが──それでも可能な限り用意してきて良かった。

 深く頷いた元巫女のメイドは両手で錫杖を手にして、その『恩恵』を数年ぶりに発動させる。

 

「天使の使徒よ──おいでくださいませ!」

 

 ゼリエの『恩恵』は実を言うと、単にゴブリンを生み出すだけのものではない。

 シルヴィアはそのことを長く、当のゼリエにも秘密にしてきた。

 なぜか?

 あまりにも強力すぎたからだ。悪用すれば本当に都一つを落としかねない。いくら今のゼリエが改心したからと言っても、知らないなら知らない方が心を煩わされなくて済む。

 その、本当の力が。

 

『あなたは魔物の母である』

 

 一日ごとに貯まっていくポイントを消費し、それに応じた魔物を生み出す能力。

 魔物によってレートが異なっており、1ポイントごとに生み出せるのがゴブリン。だからゼリエはゴブリンしか生み出せないと勘違いしていた。

 けれど、違う。

 一気にポイントを消費すればオークも、トロールも、ワイバーンでさえ呼び出せる。

 そして、心から「人々のために」と願ってその力を使えば、

 

「なにっ☆ なんなのっ☆?」

 

 ぽんぽんぽん、と、次々と宙に小さな生き物が生み出されていく。

 もこもこの羽毛。つぶらな瞳。小さな翼。

 羽の生えたうさぎ、としか形容しようのないその生き物こそが『天使の使徒(仮称)』である。

 これはシルヴィアが試しに神聖魔法で生み出したものをゼリエが能力でコピーしたもの。

 どうやらゼリエの能力は一度見た魔物ならなんでも生み出せるらしい。正確にはこのうさぎは魔物ではないのだけれど、まあ、RPGにおいて神や天使もモンスター扱いされるのはよくある話。

 見るからに可愛いこのうさぎさんたちも見た目に反してかなりの力を持っており──。

 

「魔物を倒し、人々を助けてください!」

 

 母であるゼリエの命に従って散開、魔物討伐に参加していく。

 ぱたぱたという可愛い動きと裏腹に飛行能力は高く、小さいが故に小回りが利き、さらには勢いをつけたうさぎキックは何倍もの体格の敵を軽くぶっ飛ばす。

 聖なる力の産物であるため浄化の力も働き、打撃を与えた魔物の部位は光の粒となって消滅。

 『魔天使』に向かった個体は相手の魔力に耐えきれずぽんと弾けて消滅してしまうも、その魔力をある程度削ぐことに成功し、

 

「よし、一気に押し返そう!」

 

 ──戦術スキル『聖戦』。

 

 魔物や魔族などの悪しき者への攻撃力、防御力を大きく向上させるスキル。味方の数が多いほど効果が高く、この状況でなら最大限の効果を発揮する。

 『魔天使』と押し合いを続けたまま翼から光の粒をこぼし、みんなに注いでいくと「ずっこい☆!」と悲鳴。

 

「雑魚はひっこんでなさいっ☆」

「はっ、どっちが!」

「雑魚なのかしらね?」

 

 錫杖の力を借りながら、額に汗を浮かべてうさぎを生み出し続けるゼリエ。彼女を守ったのは共にメイド姿のヴァッフェとティーアだ。

 

「つまんないことしてるんじゃないわよ。そこまでやったらあんたが全部操っているようなものじゃない」

「ようやく人間が変わり始めたというのに、こんなことをされたらただの邪魔よ。いいから黙って退場しなさい」

「はっ☆ そんなのあーしの勝手だっつーの☆」

 

 憑依の魔族は言いつつもエリザベート、クレール、プルプルの攻撃を捌き続けている。

 それどころか防御の合間に反撃まで加えており、クレールとプルプルは『竜鱗』でしのいでいるものの、

 

「ぐっ!?」

 

 何度目かの攻撃がかすめたかと思うと、エリザベートの持っていたお守りがぱん、と弾けた。

 

「大丈夫!? 後はあたしたちに任せて下がったほうが……!」

「できるわけないでしょう!? そうやって自分たちばかり強くなって、認められるわけがありませんわ!」

 

 人間として見れば上澄みも上澄みのエリザベート。

 成長を続け、いつも一番を取り続けていたクレールだってエリザベートの魔力量には及ばなかった。けれど、そのクレールは半竜となったことで魔力を上げ、さらに『竜爪』や『竜鱗』まで身につけた。

 悔しいに決まっている。

 追いつきたくとも、彼女の『恩恵』は極めて特殊。格闘ゲームのキャラクターは、一部の特殊な例外を除けばみな同程度の力に作られるもので、システムとキャラ性能を使いこなしてしまえばそれ以上のパワーアップというのは基本望めない。

 例えば、ゲームが『2』にでもなれば話は別だけれど。

 

「ゼリエ!」

「はい、シルヴィア様!」

 

 うさぎの一匹がエリザベートの頭に乗り、癒やしの力で傷を塞いでいく。そのまま頭に残ったその子は力を使い果たすまで防御障壁で騎士団長を守った。

 けれど、シルヴィアとアンジェが手一杯な以上、応急処置にしかならない。

 

「エリザベート」

 

 悔しい。

 天使にまでなって、みんなを助けられない自分が。

 人のまま高みにたどり着き、だからこそ苦悩するエリザベートの気持ちがシルヴィアの胸まで締め付ける。

 なにか方法はないのだろうか。

 このままでも少しずつ好転はしている。聖なる力は少しずつ広がって効果を及ぼしているし、都を襲う魔物が減れば、聖なる力を『魔天使』一人に叩き込んで膠着を解ける。

 持ちこたえてくれさえすればいい。

 けれど欲を言うのなら、なにか、なにか。

 

「《神様》」

 

 思わず日本語で呟いてしまう。

 もちろん、それにはなんの意味もなかっただろう。実際、直後には功を奏するどころか状況は悪化した。

 徐々にエリザベートをかばう様子を見せ始めたクレールが『竜鱗』を砕かれ、肩を大きく斬り裂かれたのだ。

 

「……な、何を、やっているのですか、あなたは!」

 

 絶叫。

 友の鮮血を浴びたエリザベートは怒りで目を見開いた。

 それでも剣を振るうのを止めないあたりはすごい。庇ったクレールも平然と立て直し、自身の治癒力と筋力だけで血を止め始めている──応援に来たうさぎが若干ドン引きしていたが。

 

「あはは、ごめんごめん。つい」

「つい、ではありませんわ! それでは、わたくしがあなたよりも弱いみたいで──!」

「仕方ないじゃん! エリザベートだってあたしの大切な仲間なんだから!」

「っ」

 

 ぎり、と、歯を噛みしめるエリザベート。

 凄絶な表情。クレールの血で顔が汚れたのもあって余計にひどいことに──。

 

「あれ?」

 

 瞬間、脳裏にひらめくものがあった。

 

「ね、ねえ、エリザベート! クレールの血、()()()()()!」

「っ、なにを……っ。……いえ、()()()()()()ですのね!?」

 

 クレールは竜の血を飲んで半竜になった。

 プルプルの口ぶりでは他の者はリスクが高そうだったが──ならば、竜そのものではなく半竜の血ならどうだ。

 もちろん効果も薄いだろうが、同時にリスクも抑えられるはず。

 血。

 竜。

 詳しいわけではないが、シルヴィアの前世にはそんなゲームキャラ、もとい歴史上の人物がいたではないか。言霊が力を持つかどうかなんて、わからないけれど。

 

「『神よ、使徒エリザベート・デュ・デュヴァリエにその恩恵を与え給え』」

 

 思わず唱えた、日本語による恩恵付与の祈りもきっと意味はなかったはずだけれど。

 手袋を嵌めた指で顔を拭い、舌で舐め取ったエリザベートを、にわかに輝きが包みこんだ。

 

「ああ、これは」

 

 公爵令嬢の歯、前歯のうち左右の二本が鋭く尖り。

 自ら歯を突き立てられた唇から一筋の血が迸る。それは真紅のマントを形成すると空いた左手に裾が握られ、翻された裾がまるで金属のようにクリストファの手を弾く。

 

「クレールの手を借りたのは癪ですけれど、なかなか悪くありませんわね……っ!」

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