わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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最大の決戦 3

 敵の指が刃のように肌を裂けば、舞い散る鮮血が無数の刃と化して踊った。

 型通りの斬り、突き、払いにマントの一閃が加わり、ただの通常技が高速の二連撃へと変化している。

 

 あ、隠しキャラだこれ。

 

 格闘ゲームの操作キャラは基本的に同じ程度の性能に調整が行われるが、条件次第でストーリーモードのボスキャラが使えるようになるなど「あからさまに強いキャラ」も存在する。

 その手のキャラはたいてい大会では使用禁止、身内での対戦でも紳士協定により禁止だが──キャラ本人には関係ない。

 まさか、クリストファを操る魔族もここに来て、相手を傷つける=相手の攻め手が増えるとなるとは思わなかっただろう。

 

「なにそれマジ反則なんですけどー?☆」

 

 気の抜ける声と共に暴力の暴風──並の騎士では触れられただけで吹き飛ぶような攻撃が無数に繰り出されるのを、クレールとプルプルは真っ向から迎え撃っていく。

 クレールもまた、半竜となったことで身体能力が大幅強化、アロンダイト以外に『竜爪』という攻撃手段を得てノリにノっている。

 打撃と共に魔力弾がばらまかれようと、後方でゼリエを守る魔族二人がピンポイントの防壁で片っ端から叩き落としていく。

 

「エリザベート、攻撃に集中してくれる!?」

「そうじゃな。おそらく、今ならばお主が一番、攻めに向いておる」

「あら。嬉しいことを言ってくれますのね。……鬱憤も溜まっていることですし、喜んで乗らせていただきますわっ!!」

 

 二人の作った隙を突き、必殺の連撃が繰り出される。攻撃の密度を倍加させたエリザベートの必殺技は着実に魔族の守りを削り取り、その魔力を減らしていく。

 

「頃合い、だね」

 

 シルヴィアは魔力の押し合いを諦め、錫杖に残った力を『魔天使』に向けた。

 その分、都へ広がる力は悪しき光が優勢となるも、残ったアンジェが簡単には支配させない。

 

「あはっ、お姉様の邪魔はさせないって!」

「《みんなを苦しめるようなことばっかりしないで》!」

 

 敵のお遊びには乗らない。

 この魔族姉妹はヴァッフェやティーアのように改心してはくれないだろう。手加減している余裕もない。錫杖の残り魔力に自身の魔力を加え、光に変えながら投擲する。

 敵は、一瞬だけ迷った。

 広げている力を収束するか、それともこのまま耐えるか。

 迷った末、自由に使える魔力だけで防壁を張ったのは悪手だっただろう。聖なる光は防壁を簡単に貫き──『魔天使』の腹をも穿った。

 物理的に穴が空いたのは、聖女の身体がもはや、魔族に汚されきっている証拠。魔族を祓ってももう、彼女は元通りにはならない。

 

「《やりすぎだよ。この国を、この国の人たちに返してあげて》」

「ぐっ。このっ……お姉様っ!」

 

 悪しき魔力の拡散が止まり、その分の力が欠損箇所の修復に回される。『魔天使』にもはやシルヴィアの聖光を止める余力はなく。

 聖なる光に包みこまれながらももがく『魔天使』を魔力の弾丸が無慈悲に貫いた。

 放ったのは、クリストファの姿をした、姉魔族。

 

「ばーか☆ あんたがそんなに雑魚だとは思わなかった☆ 死んじゃえ☆」

「そんな、おね──」

 

 ぐずぐずの塵となって消滅していく身体。

 最後に残ったのは醜悪、としか言いようのない、心臓の形をしたなにか。シルヴィアはそれを、ほんの一瞬だけ躊躇ってから聖光で撃ち抜いた。

 

「《しめ縄》」

「ぐっ☆ なにー☆ なんだよー、これ☆」

 

 聖なる力を注ぎ込んで作った拘束が敵の身体をぐるぐる巻きに。

 じきに突破されるだろうが、多少の時間は稼いだ。

 

「アンジェ様。都の浄化を引き続きお願いします。わたしたちは──」

「うん。あいつをやっつけちゃおう、シルヴィア!」

 

 なんだかんだクレールやプルプルもかなり傷ついている。エリザベートも含めた全員を癒やすともう、魔力はさすがに空だ。

 残る体力を振り絞って戦術スキル『聖戦』をかけ直すと、できることはほぼない。

 

「やれそう、エリザベート?」

 

 尋ねられた公爵令嬢は「誰にものを言っているんですの?」と笑って。

 

「ですが、少し、勇気をくださいますか?」

「勇気?」

「具体的には、あなたの血が欲しいんですの。構いませんこと?」

「別にいいけど、痛くしないでね?」

 

 手で髪を持ち上げながらうなじを差し出すと──クレールは「あー! そういうのは二人っきりの時にやってよね!?」と怒り出したものの、プルプルに「どうどう」と宥められて。

 抱き寄せられたシルヴィアは、エリザベートの牙を優しく肌に突きたてられた。

 

「んっ……」

 

 痛いかも、と思ったのは一瞬。蚊がかゆみ成分を持っているようなものか、むしろ湧き上がったのは耳かき等に似た心地よさで。

 血が抜かれるぞくぞく感と血を飲まれる恥ずかしさが加わるとよくわからなくなる。

 飲まれた血の量は細いコーラの缶にも満たなかっただろうけれど、それだけで、エリザベートの身体には見てわかるほどに魔力が満ちていった。

 唇と牙を離したエリザベートは艷やかに笑って、

 

「ありがとう、シルヴィア。これで百人力ですわ」

 

 彼女はオートクレールの先で自身の指を軽く傷つけると、一筋の血を刃へと纏わせていく。刃が銀と紅、二色の輝きを放ち、

 

「どうやらわたくしとあなたはやはり、相性抜群のようですわね!」

「いや、その剣はシルヴィアが作ったんだから当たり前じゃん!」

 

 文句を言いつつも、さすがにクレールも状況は弁えている。

 間もなくしめ縄の拘束が突破される。

 

「あー、もー怒った☆ めんどーだから全員ぶっ殺す☆ あーしが怒ったらどうなるか思い知らせてやるからっ☆」

「ふむ。相手をしてやりたいところではあるが、やめておこう。陰でこそこそする輩とは真っ向勝負にならんからな」

 

 竜娘の残存魔力が集められ、大きな呼吸と共に赤い輝きが生まれる。

 オートクレールの刃が清浄なる炎を纏い、不死鳥の姿を形成していく。

 

 ぱん、と、音を立てて拘束が破られると同時。

 二種類の炎がクリストファ、そしてそれを操る魔族を覆い尽くした。

 広場からの退避はほぼ完了している。そうでなければ他の人まで攻撃の余波で溶けていたかもしれない。少なくとも美しかった広場は見る間に無惨な姿になって。

 それでもなお、魔族は姿を保っていた。

 天使の輝きに力を制限され、竜の炎と聖なる炎を同時に喰らい、それでも、迸る魔力は尽きていない。

 ならば。

 

「やっちゃえ、クレール!」

 

 魔力量の増加によって威力を増した風の魔法。

 高く、高く跳躍したクレールが愛剣アロンダイトを振りかぶる。

 とにかく丈夫に作られたその刃は残る魔力全てを籠められ、本来の刀身に『竜爪』による二つ目の刃を重ねている。

 使えるスキルも全部載せた渾身の一撃。

 

「……あははっ☆ あーしの負けかぁ☆ でもでも、ちょーっと遅かったんじゃない? もうこの国は立ち直れ──」

「そんなこと、お前が決めるなっ!」

 

 最後まで、青年の姿を崩さないまま。

 隣国を思うままめちゃくちゃにした魔族は、心臓ごと両断された。

 クリストファの身体も『竜爪』によって破壊され、見る陰もない。

 

「申し訳ありません、クリストファ殿下」

 

 戦いの間中、空に位置しみんなに指示を出し続けていたリゼットが、特大の火球を作り出してダメ押し。

 撒き散らされた炎が収まった後にはもう、瓦礫以外なにも残ってはいなかった。

 もし一命をとりとめていたとしても、アンジェの光が満ちるこの空間では生きていられない。

 

「……終わった?」

 

 もちろん、都を満たす魔物はまだ討伐しきっていない。

 そちらが終わるまで喜ぶわけにはいかないけれど。

 

「ごめんなさい、クリス。……ごめんなさい、みんな。もっと早く、もっと上手く、どうにかできていたら」

 

 戦いの爪痕を色濃く残す広場で、クリステルが泣くのを止めることはできなかった。

 彼女を慰めるのはシルヴィアたちの役割ではない。戦いの間、馬車の中で守られるしかできなかったセルジュ──まだ貴族学校を卒業してさえいない王子は、以前よりも少し大人っぽくなったように見える表情で、愛する女性の肩に手を乗せていた。

 

 都全域の安全が確認されたのは、それからかなり経った後のことで。

 『銀百合騎士団』自体の被害は最小限に抑えられたものの、隣国の都とそこに住まう人たちはまったくの無傷というわけにはどうしてもいかなかった。

 

 それでも、ようやくこの国が魔族から解放されたのは事実で。

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