わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
それからシルヴィアたちは約一ヶ月にわたる滞在を余儀なくされた。
破壊された都の修繕。人々の治療。炊き出し等々、人手がとにかく必要な状況。手を貸しているうちにどんどん日数が経ってしまったのだ。
隣国の状況が思った以上に深刻だったというのもある。
ギリギリ保っていたところにあの騒動でみんな心が折れてしまった。『銀百合騎士団』はほとんど英雄扱いというか、そういう風に話を持っていかないと大混乱が起こりそうな状態だった。
交渉役として来たスザンナがここぞとばかりに隣国貴族へ恩を売った、というのもある。
「治療は主にシルヴィアとアンジェ様に、炊き出しは兵士を中心に料理の得意な者に任せます」
「はーい。エリザベート、あたしは?」
「体力しか能の無い者は率先して力仕事をしてくださいませ」
「おっけー。それなら得意分野だよ!」
「そこで怒らぬのがお主の美点なんじゃろうなあ……」
幸い、民に大きな被害は出なかった。
むしろ怪我人が多く出たのは都に残っていた側の騎士・兵士たち。魔族に騙されていたうえにあの急展開、ぽかんと翻弄されている間に戦闘に巻き込まれ、逃げるに逃げられなかった者が相当数いた。
もちろん、中には臨機応変に動いた者もいたので、動けなかった者たちは自分たちの対応を後に悔いていた。
「仕方ないよ。むしろ、これからなにができるか考えたらいいんじゃない?」
「そうです。生き残ってさえいればできることはあります。それを探していきましょう」
復興において一番役に立ったのはおそらくリゼットだ。
無から有を簡単に生み出せる反面、どこか雑なところのある神聖魔法と違って彼女の魔法はある程度(この世界なりの)物理法則に根付いている。
砕けた石を固め、整形し直したり。大気中の水分から水を作り出したり。火を熾したり遠距離に伝言を行ったり、地味に朝から晩まで引っ張りだこだった。
「大変ではありませんか? リゼット様もちゃんと休んでくださいね?」
声をかけると、ハーフエルフの公爵令嬢は額に汗したままでシルヴィアの頬を指で突いてきた。
「シルヴィア様に言われたくはありません」
「わ、わたしは天使ですし。治療が主ですからそれほど体力を使うわけでは」
「わたくしだってハーフエルフです。魔法を使っているだけですから体力的には楽なのですよ?」
睨み合った後、どちらからともなく笑って、
「シルヴィア様やアンジェ様にはずいぶん助けられております。実務以上に、精神的に」
「天使だから、ですか?」
「ええ。実利ではなく善意からこの国を救ってくれた英雄、その象徴としてお二人の名前と姿が広まっているのです」
「そんなに大したことはしてないんですけどね……」
この国の神殿でもシルヴィアたちは大いに頼りにされ、感謝された。
成り行きとはいえ聖女を倒してしまったのだけれど、信仰篤い聖職者たちからすれば「最後に聖女の魂を救ってくれた」ことになるらしい。
シルヴィア的にも聖職者相手だと向こうの国とそれほど変わらない感覚で話せるので気持ちが楽で、ついついあれこれ手伝ってしまった。
生活に余裕がなくなったせいで魔物討伐までは手が回らなくなっていたようで、そういう意味でも『銀百合』が手を貸せることは多かった。
少なくともアンデッドの発生くらいは防がなければまた街が襲われてしまう。
そんなこんなであっという間に時間が過ぎて。
◇ ◇ ◇
「……はい。やはり王族および主要貴族の中に『国王』の資格者はいらっしゃいません」
王族はあれこれあったせいで本当に数が減っていた。
『神託』の判別に関してはぶっちゃけシルヴィアが出張らなくても他にできる人はたくさんいるのだけれど、天使の権威を借りるために呼ばれて。
クリステルも含め、隣国に王になれる人材がいないことが証明された。
主な職業の対応表を作って渡したので自分たちで真偽を確かめることもできる。
騒動を生き残った王族・貴族たちは会議を開き、その結果、
「王妹クリステルと隣国の王子セルジュの結婚を承認する。また、クリステルを国王代行に任命し、彼女との婚姻をもって王子セルジュをこの国の次期国王とする」
シルヴィアたちの思惑通りの結果が引き出された。
スザンナが尽力してくれたおかげでもある。彼女はグレゴール時代からの横暴のつけ、および今回の件での助力について金銭や物資という形での代価を抑える代わりに『恩』を売りつけた。
自分たちに全面的に世話になり、同盟を結んだほうが得だと認識させたのだ。
ぶっちゃけ、これを断るのなら反対派を一掃してクリステルを玉座に据えればいいだけの話。今なら『銀百合』だけでそれができる。シルヴィアが加わっている時点で隣国騎士の何割かはこちらに危害を加えられないわけで。
「セルジュ殿下。……いいえ、セルジュ様。この地で私と生涯を共にしてくださいますか?」
「ああ、もちろん。君と一緒ならどこへでも行こう。どんな困難でも乗り越えて見せよう」
急遽、クリステルの国王代行就任式、クリステルとセルジュの婚約式が執り行われ、これは厳しい情勢下での一つの明るいニュースとなった。
セルジュはこのままこの国に残り、復興に協力することを決めた。
「『銀百合騎士団』。君たちにも世話になった。できればこのまま引き続き尽力して欲しいのだが──」
「いいえ、殿下。わたくしたちはいったん国に戻りますわ」
王子の頼みに関しては、エリザベートがばっさりぶった切った。
◇ ◇ ◇
応援としてあらためて派遣されるにしても王の裁可が必要である。
セルジュが残る以上、護衛は必要なので騎士団の一部は残さざるをえなかったものの、それ以外の面々はいったん帰国することに。
「それにしてもエリザベート、本当に大丈夫? 日の光が辛いとかそういうのはない?」
「何度も言ったでしょう? ありませんわ。別に吸血種になったからと言って普通の食べ物が食べられなくなるわけでも、生活習慣が大きく変わるわけでもありませんもの」
半竜の血を飲んだエリザベートはドラゴンクォーターになったりはしなかった。
代わりに彼女が目覚めたのは吸血鬼ならぬ吸血種。その名の通り、生き物の血を吸って力に変える能力を持つ上位種である。
シルヴィアの知っている吸血鬼やおとぎ話上の伝承と異なり、彼女らは日光に当たっても行動を制限されることはない。
「正直に言えば、心当たりはないこともないのです」
「そうなんだ」
「ええ。なのである意味では必然、なのかもしれませんわね」
上位種の血、という意味でクレールの血は呼び水になった。
多少のきっかけがあったとはいえ、恩恵に関係ないところから上位種に覚醒したエリザベートは人類にとって本当の希望になるかも……と思ったけれど、心当たりがあるならそうでもないような、それでもやっぱりすごいような。
「それで? 吸血種って寿命どうなのさ、エリザベート?」
「なんであなたが気にするんですの。長いですわよ。肉体的な強度が大して変わらない代わりに治癒力に優れ、寿命も長大。むしろ竜より長いくらいと言われています」
「え、なにそれじゃああたしより長生きするんだ」
「それはまあ、そもそもあなた半竜ですし」
というわけで、いよいよシルヴィアのまわりに上位種が増えだした。
知り合いが軒並みハーフや純粋な上位種になってしまったイザベルは遠い目をしたうえで、
「これはこれで、人間が貴重になりましたね」
「あれ。もしかしてイズもなにか別の種族になりたくなった?」
「いいえ、私は人間のままでいいです。平凡な人間のまま、シルヴィアさんの傍にいさせてください」
そう答えたイザベルの笑顔はとても綺麗で、見惚れてしまうほどだったけれど。
「イズが平凡な人間は無理があるからね?」
そこだけは訂正しないわけにはいかなかった。