わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
月明かりの下、ベッドの上に二つの裸身があった。
行為の跡が残っているのもなんだか気恥ずかしいのだけれど、神聖魔法で消してしまうと余韻までどこかへ行ってしまう気がして、そのままに残すことが多い。
隣に寝そべる紅の瞳の彼女も、そういったムードを大切にするほうで。
「ねえ、エリザベート? 前に言ってた『吸血種になる心当たり』っていったいなんなの?」
子供の頃は限定的に許されていた「二人きり」という状況。
大人になって特別な関係になったら別の意味でまた許されるようになった。
独特の空気の中、気になっていたことをふと尋ねると、
「それを今聞きますの? 構いませんけれど、大した話じゃありませんわ。……単に、吸血種の血がわたくしに流れている。というか、流れている
「なにそれ、ご先祖様にそんな人いたの……!?」
「ですから『かもしれない』だと言ったでしょう。吸血種とはそういうものなのですわ」
「そうなんだ。正直、よく知らないんだよね。吸血種って」
エルフや魔族、天使や竜に比べるとかなりマイナーな種族だ。
いちおう彼らだけの国もあるのだけれど、遠い上に小国。確か北のはずれのほうだったか。あまり「その気になったら人間なんてぷちっと行く」イメージはない。
生き物の血を吸う種族がそれでいいのか。
「全ては『吸血を嗜好する』性質のせいですわ。……これのせいで吸血種は自ら衰退しているのです」
「す、衰退?」
「種族内で過度な対立があるのだとか。それはもう、人間を支配なんてしている場合ではないくらいに」
「……ん? えっと、馬鹿なのかな?」
上位種じゃなかったのかお前ら。
「まあ、否定はしませんわ。対立の理由もまたくだらないもので。自分たちが他者の上に立つか、他者の下につくか長年争っているそうです」
「それぞれやりたいほうをやればいいじゃない」
「同族を従えたいわけでも、同族に傅きたいわけでもないのですわ。考えてもみてくださいませ。三食自分の手料理では飽きるでしょう?」
シルヴィアの両親のように研究熱心な人ならぜんぜん平気だろうけれど、そういう話ではないだろう。
ここで言う「手料理」とは。
「吸血種の血ってまずいんだ」
「といいますか、同族の血はあまり美味しく感じないのでしょうね。わたくしたちだって人肉は食べないですし」
「怖いこと言わないでよ!?」
ここで「そういえばクレールはプルプルの肉を食べたな」とか思い出しちゃいけない。シルヴィアもちょっともらったとか尚更考えちゃいけない。
「よって、吸血種には二つの派閥が生まれたのです。人間を支配して飼おうとする者たちと、人間に傅いて血を分けてもらおうとする者たち」
吸血に依存しているせいで、血の獲得方法で揉めているのか。
「数百年だか数千年だかかけて、未だ結論は出ていないようですわ」
「どうせなら後者に勝ってほしいなあ……」
「おそらく、わたくしの血に混じっているとすれば後者の血ですわね。家系図の中に時折、どこから現れたのかわからない者の名があるんですの」
貴族ならルーツを追っていけばだいたい正体がわかる。
ステファニーがファンと名前を変えていたように「訳あり」という可能性もあるけれど。
「面白いことに、その方が亡くなった記録もないのですわよね」
「それもうだいたい確定じゃん……」
吸血種はほとんど見た目が変わらない。
鋭い二本の牙が特徴的なくらいだけれど、貴族女性やそれに仕えるメイドは口を大きく開かない。開いても手や扇などで隠すので気づかれなくても不思議はない。
「どうしても人に仕えたい吸血種が人に化け、貴族家に入り込んでいるのでしょう。見目麗しいのは上位種の常ですから、家人の目に留まって母になることもまあ、時折はあるのでは」
「なるほどね。でも、なんか別に害はなさそう」
「当人たちが納得しているのなら良いのではありませんこと? デュヴァリエ家の魔力が高い理由の一つを提供してくださっているのかもしれませんし」
「さすが、懐が広い」
こういう「いろいろ知ってるけどあまり言いふらさない」家だからこそ吸血種が居着きやすいのかもしれない。
「今でもこの国に吸血種がいたりするのかな?」
「いると思いますわよ。支配派の吸血種は吸血種でたまに誘拐を行っては人を飼育して増やしているらしいですし」
「……うん? うーん、なんかやっぱりあんまりまともな種族じゃないような気もしてきたけど」
「誘拐と言っても旅に疲れて死にかけている者とか、辺境で自殺を企てている者とか、そのまま行方不明になるような者ですわよ? 都でやったらさすがに目立ちますし」
「そっか。それならまあいいかな」
誘拐されて飼われた結果「ここのほうが生きやすいな!」となっているかもしれない。
「それにしても、そういう人たちからしたらエリザベートって『久しぶりに人間の中から現れた同族』だよね」
「ですわね。もしかするとそのうち接触があるかもしれませんわ」
あった。
◇ ◇ ◇
「初めまして、エリザベート・デュ・デュヴァリエ様。ならびにシルヴィア・トー様。私はシャッテ。ご覧の通り吸血種でございます」
数カ月後、シルヴィアたちはデュヴァリエ公爵家から呼び出しを受けた。
なにごとかと思いつつ行ってみれば、そこには総勢数十名もの吸血種。
ご覧の通りもなにも跪いていたら人間と変わらない。強化された感覚がなければ魔力量や身体構造が人と違うことも気付けなかったのだけれど。
「吸血種がこんなに……。いったいなにがあったのです?」
顔を上げるよう一同にお願いした後、エリザベートはシャッテと名乗った代表へと尋ねた。
イザベルに似た暗い色の髪に真紅の瞳。
二十歳前後の女性に見えるシャッテは「お二方にお願いに参りました」と恭しく返答。
「あなた方であればご存知でしょうか。我々は吸血種の『従属派』に属しております。この度、シルヴィア様の天使化、およびエリザベート様の吸血種化を受けてはるばる馳せ参じた次第です」
「……つまり、わたくしたちに仕えたい、ということですの?」
「はい。お仕えできるのであれば願ってもありません。そうでなくとも、今のこの国であれば身分を隠さず、お仕えする先を斡旋していただけるのではないかと」
「なるほど」
この国には異種族がぽんぽん増えている。
獣人を雇用していることも含めてぜんぶ『銀百合』というかシルヴィアのせいだけれど。
まあそういうことなら国王に口添えしたり知り合いを当たるくらいどうということはない。いきなり来られてびっくりはしたけれど。
と、頭の中で対応をまとめていると、
「驚かれないのですね。我々吸血種を見ても」
「いえ、もちろん驚いております。わたしが子どもの頃──ほんの十年くらい前は上位種なんておとぎ話の存在でしたから」
「十年もなにも、あなたが天使になるまではそうだったのですけれど」
仕方ないですわね、とばかりに横目で睨まれた。
それを見たシャッテはくすりと微笑んで、
「可能であれば、シルヴィア様。我々はあなたか、あなたの関係者にお仕えしたく存じます。対価は時折血を分けていただくことと、生活に困らない程度の金銭をいただければそれで」
「こちらとしても願ってもないお話ですけれど、本当に良いのでしょうか? 普通、吸血種の方の助力なんて大金を積んでも得られないと思うのですけれど」
「構いません。我々は他者に仕えるのが喜び。提供していただける血が天使の上質なものであればこれ以上はありません」
これを聞いたエリザベートが「なるほど」と頷いて、
「仕える対象からわたくしを除いたのは」
「エリザベート様は同族になられたのであまりそそられるお味ではないかと」
この子、けっこうしたたかというかちゃっかりしているのかもしれない。