わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「……エルフの国との交流、ですか」
騎士団に戻ったシルヴィアは上層部のメンバーに報告した。
話を聞いたリゼットは神妙な顔で呟き、ぎゅっと両手を抱きしめるようにした。
「リゼット様、大丈夫ですか?」
「はい。……少し、緊張してしまっただけです。まさか、こんな形で機会が巡ってくるとは思わなかったもので」
いつかエルフの国にも訪れてみたいとは思っていたけれど、向こうから来てくれることになるとは。
当事者であるリゼットからしたらこれは重要な話。
エリザベートもふっと笑って、
「今のうちに心の準備をしておくといいですわ。幸い、時間はまだあるようですし」
「そうですね。……先方を笑顔で迎えられるように、務めなくてはなりません」
母親の片方。彼女に流れるエルフの血の提供者。複雑な想いに折り合いをつけるいい機会かもしれない。
「人選に関してはまあ、おいおいね。少しずつ進めるけれど、詳細がわからないんじゃ計画の立てようもないし」
産後の休養を終えて復帰したマルグリットはエリザベートから団長職を引き継ぐために少しずつ業務を巻き取っている最中。
副団長に任命予定のサラと協力して新しい体制を作ろうとしているところだ。
騎士団としての方針が決まったところで、シルヴィアはため息をついて、
「わたしとしては今のうちにやっておきたいことが増えたよ」
「? なんですの?」
「結婚式。結局まだできてないんだもん。このままだと何年後になるかわからないよ」
天使になって帰ってきて、みんなと結婚できるようになったと思ったら国内貴族からの反発。それを収めてあれこれやっているうちに隣国との一件が始まって、なかなか落ち着く機会がなかった。
「今のうちに準備だけでも進めておきたいんだけど、どう思う?」
「まあ、それって騎士団の運営とは関係ないのだけれど」
「この場には見事に関係者しかいませんわね」
話し合いも終わったところなので雑談に移行しても問題はない。
「わたくしとしても異存はありませんわ。形式的な手続きは必要でしょうし」
「エリザベートってば。体型の崩れる心配が減ったからって余裕じゃない」
「別にそういうわけではありませんけれど。マルグリット先輩だって、まだまだ美しさを保っていらっしゃるではありませんか」
妙なにらみ合い方をする二人。
実際に式を挙げる頃には体制変更が実施されて団長職は交代しているだろうか。なにかと張り合うことが多いけれど、なんだかんだ仲のいい二人である。
「リゼット様はいかがですか? 結婚式、問題はないでしょうか?」
尋ねられた少女は「そうですね……」と少し間を置いてから微笑んで、
「わたくしも式を挙げたいです。……それに、その。今から準備をすれば、エルフの皆様が滞在中に式を挙げられるのでは?」
「はい。実を言うとそれも少し考えていました」
このままだとリゼットだけ親から結婚を祝ってもらえない。せっかく母親に会えるというならば晴れ姿を見てもらえたらと思った。
「では、決まりですわね。ひとまずドレスのデザインを決めて発注を行いましょう。会場や招待客をどうするかはそれからでも構いませんわ」
「忙しくなりそうね。なにしろこれだけの人数で式を挙げるなんて前代未聞だもの」
◇ ◇ ◇
クレールやイザベルたちとも相談したうえで、式はみんなで一度に挙げることになった。
一人ずつ挙げるほうが形式的には良いのかもしれないけれど、招待するほうもされるほうも絶対疲れてしまう。
最後のほうに挙げるメンバーは「はいはいわかったわかった」みたいな扱いをされて参加者もごく僅か、みたいなことになりかねないので、それよりは一度に盛大に挙げるほうがいい。
「というわけなのですが、アンジェリカ様も出席していただけますか?」
「ええ、もちろん。……まさか、聖女を続けながら結婚式も挙げられるとは思わなかったわ」
聖女アンジェリカは紆余曲折の末、今も神殿長と聖女を兼任している。
一方でシルヴィアと結婚し、体面上はトー家の一員になった。
そして、そのお腹には新しい命が宿っている。
マルグリットたちと同様、アンジェリカもそれなりの歳だ。子供を作るならば早い方がいい、と、このタイミングでの懐妊となった。
幸い、シルヴィアたちの尽力で聖女が遠征する機会はぐっと減っている。デスクワークメインならば身重の状態でもそれほど問題なくこなせているようだ。
「式はこの子が生まれた後になるかしら」
「そうですね。エルフの皆様をお迎えした後を想定していますので、産後の休養も十分に取れるかと」
「それは良かった。でも、ドレスの採寸が少し心配だわ」
「大まかな寸法で仕立てていただきましょう。もし、どうしても入らないようであればわたしが作ります」
神聖魔法で作れるなら最初からそうしろ、という話もあるけれど、それだと職人の懐が潤わないし、なにより味気ない。
こういうのは出来上がりを待つ間も楽しいのだ。
アンジェリカはくすりと笑って、
「そうしたら、アンジェと一緒の式になるのね」
「そ、そうですね。皆様と並んで衆目にさらされるのは緊張してしまいますが……」
「あら。アンジェだって今は子爵じゃない」
「そうですよ。それに、アンジェ様はとても綺麗です。きっとドレスもよくお似合いになりますよ」
この国の結婚式では前世同様、女性はウェディングドレスを纏う風習がある。結婚を迎えた女は神を含めた全てのものから祝福を受ける権利がある、ということで純白を纏うのだ。
真っ白いウェディングドレスがアンジェの白い翼とマッチしないわけがない。
「天使に、元王族に、公爵令嬢。そうそうたる面々を娶るシルヴィアは相当なドレスを用意しないといけないわね?」
「一生に一度のことですし、この際費用は気にしないことにしますけれど……デザインは相当迷いそうです」
「シルヴィア様でしたらなにを着てもお似合いになると思います」
みんなで白を纏って並び立つ光景。
中心にいなければならないので叶わない願いだけれど、若干、外から眺めてみたい気もする。
「それにしても会場は問題ね?
「その日は参拝が滞ることになりますし、神殿でパーティを開くわけにもいかないでしょう?」
これまた前世同様、結婚式には酒と食事がつきものである。正確に言うと式と披露宴は別だけれど。
「となるとやっぱり城かしら? 陛下も快くホールを貸してくださるんじゃないかしら」
「王族には関係のない結婚で城を借りるのもどうなのでしょう……?」
「王女でなくなったとはいえ、イリス様は王の娘でしょう? むしろ、都を挙げてのお祝いになってもいいところよ」
「その規模のお祝いはステファニー様の即位にとっておいたほうが良い気がします」
というか、そんなことになったプレッシャーがやばい。
「もう。そんなことを言っていたら会場にできるところがないじゃない。言っておくけれど、トー家の屋敷じゃ絶対に収まりきらないわよ?」
「それはそうですよね……。いっそ騎士団本部を借りるという手もあるとは思うのですけれど」
「それこそ有事の際に困るのではないでしょうか……?」
ああでもないこうでもない、と言ってみたものの、これ! という案は出ず。
後日、他のみんなと意見交換をしても結果は似たようなものだった。
幸せな結婚式。
だからこそ悩ましく、難しい問題である。