わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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エルフの国の姫 3

「お初にお目にかかります。皆様方の認識で言うところの『エルフの国』より参りました。ラ・リラ・ル・レラ・レティエと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 

 五月。

 エルフの国からやってきたご一行様は全部で二十名と少しだった。

 彼女らはいったん全員城へ迎え入れられ、マルグリットやエリザベート、シルヴィアと対面することになった。

 代表して挨拶してくれたのはエルフの国の王女──つまりはリゼットの母である女性。

 リゼットよりも緑の強い髪色。細身で儚げな印象には確かに面影がある。

 名前は、その、なんというか。「今なんて言いました?」と聞き返したくなるような独特さ。プルプルとは違った意味で困る。幸い、前もって聞いていたので過剰反応はしなくて済むのだけれど。

 こちらからも主要メンバーが挨拶をして、

 

「恐れながら、エルフの姫君様。わたしたちからはなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

 

 彼女は、シルヴィアの翼を物珍しそうに見つめながら「お好きなように」と微笑んだ。

 

「前回こちらに伺った際には『レティエ』と呼ばれることが多かったと記憶しております」

「では、レティエ様と呼ばせていただきたく存じます。あらためて、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 深く一礼すると「あまりかしこまらないでくださいませ」と、ふわりと受け止められる。

 

「こちらこそ、無理を言って迎え入れていただいた立場なのです。もっと気楽になさってくださって結構です」

「そう言っていただけるといくらか気持ちが楽ですわ」

 

 面識のある王族──スザンナと同程度には親しみを込めても良いか、と、対応の微調整を行ったところで、

 

「レティエ様をわたしの屋敷へお連れいたします。同行されるのは一名様と、それからお側仕えの方々と伺っておりますが……」

「ええ。わたくしの他に五名です」

 

 レティエに同行する面々が前に進み出て一礼してくれる。そんな中、ひときわ若そうに見える少女が口を開いて、

 

「あなたたち向けにわかりやすく名乗るわね。レーナよ。よろしくね」

 

 レティエによく似た顔立ち。表情は明るく、喋り方もはきはきとしているものの、

 

「レティエ様。こちらのレーナ様は──」

「わたくしの娘です。歳はまだ五十に満たない若者ではございますが、当人のたっての希望で同行させました。皆様とも歳が近いですので、どうぞ話し相手になってあげてくださいませ」

「ええと、それはそれは……」

「五十歳近くて『若者』だっていうのがさすがエルフって感じね」

 

 時間の感覚がぜんぜん違う。

 とはいえ、シルヴィアたちも長命な種族になったわけで。長生きするうちに似たような感覚になっていくのかもしれない。

 それにしても。

 

「ご息女がいらっしゃったのですね」

 

 屋敷までの移動に際して馬車が用意され、シルヴィアとエリザベートがレティエ、レーナと共に乗り込む。

 若いレーナは「そりゃあいるでしょ」と返してきて、

 

「エルフだって何百年も生きている人ばっかりじゃないんだから。まあ、子供ってあんまりいないんだけど」

「そういうものなのですね?」

「ええ。我々は不測の事態で命を落とすことが稀ですので、あまり子供を作りすぎてしまうとあっという間に増えてしまうもので」

 

 その「あっという間」の基準も違いそうではあるけれど、人間と同じ感覚で子供を作れないのは確かにその通りだろう。

 

「お察しの通り、レーナはリゼットよりも前に生まれた子。あの子の姉にあたります」

「妹に会えるのを楽しみにしていたの! これから行くお屋敷にいるんでしょう?」

「ええ。リゼット様もこの日を心待ちにしておられました」

 

 不安もある様子だったけれど、会えるのなら会いたいという気持ちももちろんある。

 今も「今か今か」と到着を待っているはずだ。

 

「お母さんだけじゃなくてお姉さんまでなんて、リゼット様、大丈夫かな」

「別に取って食われるわけでもなし。慣れるしかないのではなくて?」

「さすが、エリザベートは落ち着いているなあ」

 

 苦笑していると、レーナが「なによ」と頬を膨らませて、

 

「私にもそんな感じで話しなさいよ。いちいち畏まっていたら面倒じゃない」

「レーナ。親しき仲にも礼儀あり、今日会ったばかりの相手なら尚更ですよ」

「それはそうだけど、母様。私はもっとこの子たちと仲良くなりたいの!」

 

 本当に、レーナはずいぶんと若いようだ。年齢というか精神が。

 新しいものに抵抗がなく、好奇心に溢れている。

 くすりと笑ったエリザベートが「では、善処いたしますわ」と請け負って、

 

「少しずつ仲良くなってまいりましょう。しばらくはこちらにいらっしゃるのでしょう?」

「ええ! 何年かはこっちにいるつもりよ! ……もちろん、迷惑じゃなければだけど」

「迷惑などとは思いませんわ。ねえ、シルヴィア?」

「ええ。仲良くいたしましょう、レーナ様」

「ありがとう!」

 

 明るく笑って頷くレーナ。

 

「でも、人間の都って聞いていたのと少し違うのね? もっと汚れているかと思ってたわ」

「レーナ」

「お気になさらないでください、レティエ様。都が綺麗になって見えるのであれば、それは少し前に浄化を行ったからかもしれません」

「シルヴィアとアンジェが神殿の聖女と協力して穢れを払ったのですわ。おかげで都は一気に若返りました」

「それでこのように綺麗になっていたのですね。……天使の力、とても興味深く思います」

「そうか、エルフの国には天使も聖職者もいないのですよね?」

「ええ。エルフは生まれつき高い魔力を持ちますので、その分、神聖魔法の素養を持ちません。皆様のように神託や恩恵を与えられることもございません」

 

 それでも特に困らない、ということだ。さすが上位種。

 

「あれ? でも、前にエルフの恩恵はみんな同じだって聞いた覚えが」

「それはおそらく、過去に恩恵の取得を試した時の話でしょう。当時の聖女と協力して一部のエルフが恩恵を得ましたが、みな同じ文言だったとこちらにも伝わっております」

「そういうことだったのですね。であれば無理して取得する必要もなさそうです」

 

 種族系の恩恵は授からなくても発動していると考えたほうが自然だ。恩恵を得ていない上位種は十歳まで人間同様に成長する、なんていう事態にはなっていないのだから。

 というか、シルヴィアたちの恩恵も本当に十歳まで存在しなかったのか怪しいと言えば怪しい。シルヴィアがクレールやエリザベートといった魅力的な同性に巡り会えたのは十歳になる以前のことだし。

 ともあれ。

 

「さあ、着きましたよ。こちらがわたしの──トー家の屋敷です」

 

 利用する人間が増えてきて、今となっては「そこまで大きすぎるわけでもないかな?」と思えてきたシルヴィアの貴族としての家。

 多数の吸血種が使用人として仕え、何匹ものフェザーラビットが思い思いに遊ぶそこは少々、他の貴族家とは異なる雰囲気を持っている。

 この様子にレーナは歓声を上げ──。

 

「お待ちしておりました」

 

 使用人たちと共に迎えに出てきたリゼットを見て、レティエが足を前に踏み出した。

 伸ばされた細い両腕が細くしなやかな身体を抱きしめて、

 

「……会いたかったわ。こんなに大きくなったのね、リゼット」

 

 抱きしめられたリゼットもまた、万感を込めて目を細めた。

 

「お母様、とお呼びしてもよろしいのでしょうか?」

「ええ、もちろん。あなたは大切なわたくしの娘だもの」

 

 こうして、リゼットとレティエは再会を果たした。

 当時赤ん坊だったリゼットにとってはこれが初めての出会いということになる。

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