わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「取り乱してしまい申し訳ありません」
「いいえ。長い間離れ離れになっていたのですから、募る思いもあったでしょう」
レティエが落ち着くのを待って応接間に通す。その頃には母娘共に恥ずかしそうに頬を染め、どこかぎこちない様子になっていた。
レーナは「お母様のあんなところ初めて見たわ」と呑気そうである。
「是非、この機会にお話をしてください。昔のことなど、話せる範囲で構いませんので」
「ええ。その際はぜひ、シルヴィア様もご一緒に」
「わ、わたしですか? 部外者がいないほうが話しやすいのでは?」
「リゼットの結婚相手なのでしょう? 部外者どころか身内ではありませんか」
それはそうなのだけれど。
「リゼット様と結婚させていただいたこと、戸惑われないのですか?」
「いいえ。早いとは思いますけれど、この国では十六で成人なのでしょう?」
ハーフエルフはエルフに比べると寿命が短い。
その点も考えれば結婚してもおかしくはないとレティエは語った。
「女性同士、という意味であればむしろ、わたくしたちにとっては理解しやすいお話です」
「そうか。エルフには男性がいないのですよね」
「ですので、男性と結婚することのほうがわたくしには理解の外にあります」
こうして言葉は通じるし、争いの意思はないけれど、文化や考え方の違いはやっぱりある。
楓たち天使の里の面々だって人間とは違った。あそこはすごく日本的なのでシルヴィアは馴染んでしまったけれど、異質という意味では同じだ。
「わたくしもエルフの国の文化や風土には興味がありますわ」
流れでついてきた形のエリザベートがここぞとばかりに言う。と言っても、彼女も身内なのでこの屋敷にいておかしくはない。
「是非お話させてくださいませ。『銀百合騎士団』でしたか。皆様は以前お会いした人間の方々に比べてとてもお話がしやすそうです」
「慣れておりますので。この通りシルヴィアは天使ですし、わたくしもなんの因果か吸血種になってしまいました」
「以前の都の様子からは考えられませんね。この子たちも、とても不思議で可愛らしい」
きゅー。
天使に似た翼を持つうさぎ──フェザーラビットはレティエやレーナにも懐いている。大人しく腕に抱かれて撫でられる彼女ら(?)に微笑が向けられて、
「この子たちは神聖な魔力の集合体なのですね。量や密度の差こそあれ、成り立ちとしては魔族に近いのかもしれません」
「わかるのですか?」
「我が国には古い知識も多く残っております。なにしろエルフには時間がありますので、口伝も記述も難しくはないのです」
それは本当に羨ましい。
人間なんて生き急ぎすぎて記録があまり残っていないわ、過去の遺物が残っていてもろくに管理していなかったりするわ。
もうちょっと寿命が長ければあれこれ書き残す時間があったりすると思うのだけれど。
「私はあちこち見て回りたいわ! 別に構わないでしょう?」
「必ずこちらの用意した護衛を伴うこと。急に走り回らないこと。誰これ構わず話しかけないこと。守っていただけるのでしたら構いませんわ」
「む、そのくらいわかってるわ! 子供じゃないんだから!」
確かに、見た目上は人間で言う成人レベルには到達しているけれど。
「この通り、レーナはとても変わっているのです。……好んで人間の国へ行きたがるわたくしも、同族から見れば変わり者なのですけれど」
「おかげでこうしてお会いできたのですから、わたしとしては嬉しく思います。どうぞゆっくりしていってください。……ところで、食事は人間と同じで問題ないでしょうか? 食べられないものなどあれば教えていただきたいのですが」
「特に問題ございません。肉も野菜も、食事自体は人間と大差ないはずです」
「それは良かったです」
この世界のエルフは特に菜食主義だったりはしないらしい。
まあ、森に住んで弓を操るイメージの種族が肉を食べないって、よく考えるとそっちのほうがおかしいような気もするけれど。
◇ ◇ ◇
その日はエリザベートも泊まっていくことになった。
トー家の料理人は元『銀百合騎士団』厨房スタッフ、父の右腕だった男なので料理にも相当気合が入っている。
今も父や他の厨房スタッフと技術の共有、意見交換を行ったり競い合って腕を磨いているらしく、味は日々進化していた。
「美味しい! 美味しいわ、これ!」
「これは確かに……。故郷の料理とは味わいが異なりますが、複雑で工夫の凝らされた味付けです」
これはエルフの皆様にもおおむね好評。
「お母様。エルフの国ではどのような料理が作られているのですか?」
「そうですね……。肉や野菜を広く用いるという点では人間と変わりません。必要に応じて狩りや畜産も行っております。最も異なるのは、やはり香辛料でしょうか」
香辛料。
「こちらとは異なる香辛料があるのですか?」
「ええ。運んできた分がありますので、よろしければお分けいたします。生育できるかはわかりませんが、生きたものもありますよ」
「! それは是非、代価を支払ってでも分けていただきたいです」
それがあればまた新しい料理が作れるかもしれない。研究して栽培すれば安定供給もできるかも。
「喜んでいただけて幸いです。あまり量は多くありませんので申し訳ないのですが」
「そういえば、こちらへはどうやっていらしたんですの? 特に馬車は用いていらっしゃらなかったようですけれど」
「もちろん魔法よ。荷物と一緒に飛んできたの」
「飛んで──ええと、それはひょっとして文字通りの意味でしょうか」
「? 他になにがあるのよ。私たちには翼は生えてないんだから、魔法で飛ぶしかないじゃない」
「エルフの国からこちらまで、魔法で……?」
これにはハーフエルフにして魔法の名手であるリゼットも呆然。
レティエは恥ずかしそうに、
「もちろん道中で宿泊や小休止は挟んだのですよ?」
竜じゃないんだから、何日も飛びっぱなしでOK、と言われたらもう「化け物か」としか言いようがない。
「なるほど。それでは荷物が少ないのも納得ですわね。飛行魔法は重量に応じて消費が増えますもの」
「そうですね。荷物には追従の魔法を用い、さらに魔法で重量を軽減しておりましたが、それでも限界が」
「待ってくださいませ。知らない魔法が次から次へと……。シルヴィア、これは本格的に協力していただくべきかもしれませんわ」
「? 協力、といいますと?」
「はい。その、わたしたちは今、とある乗り物の開発をしておりまして。もしこちらでの滞在中にお時間があれば知恵を貸していただけないかと」
「なにそれ、新しい乗り物ってこと!?」
これに一番に興味を示したのはやはりレーナ。
彼女は目を輝かせて、
「どんな乗り物なの?」
「ふふっ。聞いて驚いてくださいませ。なんと『空飛ぶ船』ですわ!」
「船!? 船を飛ばすつもりなの!? なんていうか、人間の考えることってすごいのかすごくないのかよくわからないわ」
「いえ、その、わたしたちのすることは人間一般と切り離して考えていただいたほうがいいと思いますけれど」
ここにイザベルがいたら「シルヴィアさんが言いますか」と確実にツッコミを入れていたことだろう。