わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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エルフの国の姫 5

「大きい! 本当に船を作っているのね!」

 

 即席ではあるものの、リゼットとシルヴィアが手伝ったのもあって飛行船用の造船所(兼ドック)は立派な仕上がりである。

 船体部分の骨組みは大まかな形を構築し始めており、全体像を窺い知ることができる。

 

「エルフの国には海がないんですよね?」

「ええ。だから船を見るのはほとんど初めてよ」

「ほとんど?」

「一月くらいこっそり家出して他の国を見に行ったことが何度かあるから」

 

 人間に換算すると一週間足らずでひょっこり帰ってきたことになるが──仮にも王女の娘がそれでいいのか。

 

「ねえ、これはどうやって飛ぶの?」

「あら、随分と興味津々ですわね、レーナ様」

「そりゃそうよ。面白いもの。むしろ食いつかないほうが不思議だわ」

 

 確かにこれは精神が若い。年下であるリゼットのほうがよほど落ち着いて見える。

 母親であるレティエはさすがの落ち着きぶりだったものの、飛行船には興味があるようで。

 

「わたくしもお教えいただきたいです。エルフの国にはない物ですから」

「もちろんです。それじゃあ、説明はリゼット様に」

「わ、わたくしですか?」

「リゼット様が一番、全体像に詳しいでしょう?」

 

 言い出しっぺのシルヴィアも基本的には把握しているが、魔法部分の理論については理解が怪しい。

 母親と姉の前で緊張しているのか、国で有数の魔法使いである少女はこくりと頷いて、

 

「では、わたくしがご説明いたします」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「なるほど。船体そのものを浮かすわけでも、上の袋状の部分で風を受けるわけでもなく、浮く力を持つ気体を袋に満たすと……」

 

 話を聞き終えたレティエは深々と頷き、感嘆のため息。

 

「我々の国にはない発想ですね。なにもかもが新鮮です」

「我が国をはるかに超える魔法技術をもってしても飛行船は前代未聞ですのね?」

「飛べない者を運ぶ必要性をあまり感じませんので、大きな乗り物を浮かすという発想がありません」

 

 飛べないなら飛べるようになればいいじゃない、という考え方。

 人間の魔法使いが苦労しまくっている領域を「自転車の練習」くらいのノリで踏み越えていくため、逆に飛べない人間の気持ちがわからないわけだ。

 

「加えて、エルフの国では木材が貴重です」

「森林大国でしたわよね?」

「森を大事にしているからよ。森を手入れする感覚で木を切るから、こんなにどーんと木材を使ったりしないわ」

「燃料はどうされているんですか?」

「? 魔石と魔法があれば十分じゃない。なんなら石炭もあるし」

 

 魔力が万能資源すぎる。

 

「魔法に頼りすぎているのもエルフの弱点かもしれませんね。自然現象を補助に使うという発想もわたくしにはありませんでした」

「逆に言うと、魔法についてはお詳しいのでしょう?」

「皆様の知識をお貸しいただけたらより良い船が出来上がると思うのですが……」

 

 リゼットの控えめなお願いにレーナが真っ先に反応。

 

「もちろんやるわ! こんな楽しそうなこと放っておけないもの!」

「わたくしもご協力いたします。我が国にとっても大いに参考になるでしょうし」

 

 技術を持ち帰られることは織り込み済み。

 当面、エルフの国と争うことは考えていないし、レティエたちが持ち帰った技術を自国に伝達し、実用化するまでにはそれなりの年月が必要なはずだ。

 エルフは寿命的に考え方が悠長だし、木材調達にも難儀する。シルヴィアたちと違い日本の書籍を手に入れられるわけでもない。

 それだけの期間があれば人間の国では複数の飛行船を実用化し、次世代に技術を伝えていける。

 

「お互いにとって有意義な研究にいたしましょう」

 

 こうして、レーナを筆頭に数名のエルフが飛行船開発に協力、主に魔法面において思いもよらないアイデアを複数披露し、飛行船の性能は大きくアップすることになった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 その夜、シルヴィアの部屋にレーナが訪ねてきた。

 夜着とはいえかなりの軽装。文化の違いかと感心しつつ、見目麗しい少女の飾らない姿にどきっとする。

 と、そこへさらなる追い打ちが。

 

「ねえ、シルヴィア? 今晩一緒に寝てもいいかしら?」

「な」

 

 動揺しつつ「なにかお困りですか?」と尋ねると、

 

「今日は楽しかったから眠れそうにないの。だから誰かと話したいんだけど、母様とリゼットの邪魔はできないでしょう」

「お優しいのですね、レーナ様は」

 

 夕食の後、二人は部屋でワインを飲む約束をしていた。

 ようやく実現した母娘の語らい。娘であり姉であるレーナなら邪魔にはならないと思うけれど。

 

「あら。私だって母熊の前で子熊を抱きしめたりしないわ」

「そういうことでしたら、喜んで」

 

 なお、この夜、シルヴィアの部屋を訪ねようとしたエリザベートが先を越されて仕方なく部屋に戻ったことをシルヴィアは後になって聞かされた。

 本人は「仕方ありませんわね」と納得していたものの、若干拗ねた様子もあったのでしっかり埋め合わせはさせてもらった。

 

「スリス。お酒と、なにかつまむものを用意してくれる?」

「かしこまりました」

「レーナ様はどんなお酒がお好みですか?」

「向こうだとお酒って言えば果実酒なの。一番多いのはワインだけど、りんごとか他の果物も使うわ」

「では、せっかくですから他のお酒も試してみてはいかがでしょう?」

「いいわね、是非飲んでみたいわ!」

 

 いろんな人と飲む機会があるので、トー家の屋敷にはいろんな酒が揃っている。

 エルフの国では珍しい酒に少女は目を輝かせた。

 

「これ、全部飲んでもいいの?」

「構いませんよ。ただ、飲み過ぎには注意してくださいね?」

「大丈夫よ。私、お酒はけっこう強いもの」

 

 アルコール度数高めのワインを常飲しているだけあって、確かにレーナは酒に強かった。

 とはいえ空きっ腹だと良くないのでつまみも積極的に食べてもらう。

 つまみもトー家は凝っている。なにしろ王都における食の最先端だ。今回、メインとして出したのは、

 

「これ、なにかしら? 野菜よね?」

「はい。きゅうりとナスの浅漬けです」

 

 ついでに野菜スティックも用意した。こちらにはマヨネーズとマスタード入りマヨネーズを別添え。

 さらにフライドポテト。

 

「人間って野菜だけでこんなにいろいろ作る種族だったの?」

「我が家が特別なのもありますが、夜ですから肉や魚は重いかと」

 

 まあ、浅漬けもマヨネーズも塩分は濃いし、ポテトもなかなかに罪深いが。それはそれ、である。

 いちおうシルヴィアは浅漬けのしょっぱさを生のままの野菜スティックで中和し、自分の分のフライドポテトにはレモンを絞った。

 

「揚げ芋にはレモンを使うの?」

「お好みですね。宗派の違いによっては喧嘩になることもありますので慎重にどうぞ」

 

 ポテトだとレモン派は少ない気がするが、これが唐揚げになると戦争が起こりかねない。

 レーナは「ふうん?」と首を傾げつつもつまみを口に運んで、

 

「!」

 

 ぱくぱくと食べ始めた。

 

「食べ過ぎると太ったり肌荒れの原因になりますので、適度に調整してくださいね」

「ええ。でも、この浅漬けというのは面白いわね。シンプルなのに味が良くて好きよ」

「お口にあって良かったです」

 

 エルフは凝った料理も食べるが、どちらかというとシンプルなもののほうが好きそうだ。外食と普段の食事で食べたいものの違いというか。

 肉や魚も食べるとは言っても野菜はやっぱり好きなのだろう。野菜オンリーにしたのは正解だ。

 

「お酒もいろいろあるのね。うーん、美味しいけど、もっとシンプルなお酒があればいいのに」

 

 エールは炭酸が邪魔、ウイスキーは独特の香りが余計に感じる。果実酒も飲み慣れてはいるが甘さが気になることもある、と。

 シルヴィアはふむ、と考えて、

 

「では、こちらはいかがですか?」

 

 日本酒はレーナの好みにぴったりだった。

 

「美味しい……! これよ、私の求めていたお酒は」

 

 透き通った酒をちびちびやりつつ浅漬けを食べるエルフ。なんだこれ。

 

「もうこの国に住みたくなってきたわ。ね、これどうやったら作れるの?」

「まず材料となる作物がみつかっていないのです」

「詳しく教えてよ。もしかしたら手がかりがあるかもしれないし」

 

 こうしてこの世界に米を求める者が一人増えた。

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