わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「皆さま、ベッドの寝心地はいかがでしたか?」
「ええ。おかげさまで心地良い夜を過ごさせていただきました」
暗に「リゼットとはうまく話せたのか」と尋ねると、レティエは笑顔でそう返してきた。
リゼットも微笑んで頷いているため、母娘の語らいは穏やかに進んだらしい。
ほっとしたところでレーナが笑って、
「私もシルヴィアととっても仲良くなったわ! 昨夜は一緒のベッドで眠ったのよ?」
これに、昨夜屋敷に泊まったエリザベートが「ぐぬぬ」という顔をする。
「エルフの国では同衾は珍しくないことですの?」
「ん? そんなことないわ。親しい人じゃなきゃやらないわよ、もちろん」
「……シルヴィアとは会ったばかりでしょうに」
「だから仲良くなったの。シルヴィアはまだまだ面白いことを隠していそうだわ」
エリザベートがさらに「ぐぬぬ」顔になった。
レティエが苦笑して、
「私たちの国には『男性』がおりません。ですので、人々の距離はより近くなる傾向にあります」
「そのあたりは伺ってみたいと思っておりました。その、同性との結婚が当然なのでしょう? それでも距離が近くなるものなのでしょうか?」
これに関しては前世の知識も役に立たない。
同性との間で出産が可能で、男のいない世界。想像することはできても具体的な理解は難しい。
本を読んでもなかなかわからない事柄。人間の国とエルフの国を知るレティエなら答えてくれるだろうか。
「そうですね。我々は『個体ごとの差異』が人間よりも少ないため、その点で連帯感・親近感を強く抱く傾向にあります」
同性になら裸を見せられる、という感覚があるのは、相手も似たようなものを知っているという理由も大きい。
男から見た女は違うものなのでそれは興味も湧くが、女同士でいちいちまじまじと見たりはしない。
「人間も、異性愛が常識だからといって異性すべてに性愛を抱くわけでも、魅力的な異性を見た時に必ず意識するわけではないでしょう?」
「確かにそうですね。……そうすると、女子校に近いのかな?」
「女子校? なんですの、それは?」
「女の子だけの学校だよ。そういうのがあったらそんな感じかな、っていう話」
生徒同士の恋愛が当たり前の女子校なんて物語の中でしか見たことがないけれど。
エリザベートはふむ、と食事の手を止めて、
「男女混合よりも利点が多そうですわね?」
「難しいところもあるよ。男慣れしてない子が量産されるから、かえって後で苦労するとか」
「なるほど。少なくとも騎士は混合のほうがいいかもしれませんわね。貴族学校にしても、結婚相手を見つける意味もあるわけですし」
「コネ作りの意味でも異性と接触できないのは不利かも。なかなか難しいね」
「人間もいろいろ大変なのね。リゼットは苦労していない?」
「そうですね。苦労もありましたけれど、おかげでシルヴィア様や皆様に会うことができましたので」
穏やかに微笑むリゼットは、もう完全に、籠の鳥だった頃の彼女とは違う。レティエに会えたことも彼女の心のつかえを取ってくれたはずだ。
「ところで、母様とリゼットは一緒に寝たの?」
「な、ななな、なにを……!?」
と、思ったらリゼットが真っ赤になった。
レーナのことなのでどこまで想定して言っているのかはわからない。シルヴィアと昨夜同衾した際も「シルヴィアは温かいのね」と抱きついてきただけで後は普通に寝たし。
「だってリゼットは美人だし、母様の好きだった人によく似てるんでしょう? だったら手を出したくなるかもしれないじゃない」
「いえ、わかっていてその質問なんですの……!?」
エルフは長命でのんびりとした気質もあって個体数が人間ほどは多くない。近親で結ばれるケースもその分発生しやすいらしいが、特に子供に障害が残ることはないようだ、と、文献には書かれていた。
進化の過程で改善されたのか、子供を作る魔法のほうに秘密があるのか。
「い、いえ、その、わたくしはシルヴィア様と結婚しておりますので……」
「エルフの国では重婚もできるわよ?」
「……それは、お互いに、ということですわね?」
「もちろん。四人とか、みんなで仲良くして暮らしている家とか。便利だから人間も真似したらどうかしら」
「それは、なかなか難しい提案ですわね」
どうしても男女の関係で考えてしまうので「すごくドロドロしそう」としか思えないのだが、友愛や親愛、家族愛に恋愛の境界が曖昧になりがちな同性愛ではそういうのもありなのかもしれない。
というかシルヴィアの結婚相手にもマルグリットとサラがいるわけで。
「もうちょっと同性愛が広がったら提案してもいいかもしれないね?」
「そうですわね。まあ、普通の人間は女同士で子供を作れないのですけれど」
「お母様から魔法を教わりましたので、人間用に改良してみようとは思いますけれど、習得も実用も難しいかもしれませんね……」
そういえば、天使の神聖魔法を真似するまでもなく、エルフ本家の魔法を伝授してもらえたのか。
「あの、リゼット様? その魔法っていったいどうやって……?」
「術の構成を確認しただけでやましいことはなにもございません……!!」
「あはは、シルヴィアとリゼットは仲がいいのね。……うん、やっぱり、この屋敷は居心地がいいわ。向こうにいるのとそんなに変わらないのに、面白いことがたくさんだもの」
「レーナ様? そんなふうに言っていると、シルヴィアの嫁にされてしまいますわよ?」
そんな、人を「可愛い女の子と見たら見境のない人間」みたいに──うん、だいたい事実だった。
しかしレーナはけろっとした顔で。
「それも悪くないかも。こっちに残って人間の魔法とか、あと飛行船を研究するの!」
「レーナ。またそんな勝手なことを……」
「あら。母様が人間のお后さまと子供作ったのに比べたら大したことないじゃない」
「……それは」
うん。そのせいでこっちはいろいろ大変だったわけで。
セルジュの件といい、カトレアの件といい、恋愛絡みは本当に理性的に話が進まなくなりやすい。
「とりあえず、しばらくは帰りたくないわ。シルヴィアのお酒作りにも協力することになったし」
「お酒というとアレですの? もうレーナ様にお出ししたなんて……わたくしは知り合って何年も経ってから……」
エリザベートと会った頃はまだ子供だったし、日本酒が出せるなんてしらなかったわけなのだけれど。
「お酒、ですか? 人間の国で飲まれているものとも違うのでしょうか?」
「すごいのよ! すっきりしていて飲みやすいのに、酒としてもかなり強いの!」
「今のところ神聖魔法でしか作り出せないものなのです。今度、レティエ様にもお出しいたしますね」
「まあ。では、今度は皆さまでお酒を楽しみたいです」
数日後、レティエも日本酒をいたく気に入り、本格的に「新しい食の探求」がエルフと共に始まったのだった。