わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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食の探求 2

 『無垢なる穀物』こと米が日本酒の原料になる、と聞いたレーナは大喜びした。

 

「これがあればあのお酒を作れるようになるのね?」

「ええ。ですが、さすがに生育可能な状態で持ってきてはいらっしゃいませんよね……?」

「それに、育てるのにも時間がかかるわ。さらに製法を確立する必要もあるのでしょう?」

 

 年若いエルフの肩があからさまに落ちて、

 

「そっか、そうよね。……でも! ないよりはずっといいわ!」

 

 米は加工した状態も含めて持ってきていないものの、故郷に行けば手に入れることは可能だとのこと。

 

「あまり流通していない作物なのですか?」

「森や畑とは別の環境で育つ作物ですので、エルフの文化にはあまりなじまなかったのです」

「なるほど……。では、別の地域なら大々的に生産している可能性がありますの?」

 

 あるとしても異種族の領域だろうが。

 

「もともとは、かつて天使から伝えられたものだと言われています。現状、広く栽培している可能性があるとすれば、天使か、あるいは狐人でしょうか」

「狐人……獣人の一種ですよね? 特に珍しく、警戒心の強い種族だとか」

「その通りです。他の獣人とも交わらず、独自の文化を築いております。そして、狐人の領域に位置する山には天使の最大集落があるのです」

「私も会ったことはないけど、たしか狐人も神聖魔法が得意なのよね」

 

 昔の天使が食べたくて米を出し、それが栽培されるようになって、少数ながら他の種族にも伝わったわけか。

 上位種はかつて人から枝分かれした種。

 過去の文化を比較的今に伝えているため、影響が大きいのだろう。

 

「天使は争いを嫌い、多くが山に逃れました。ですので、平地に住む狐人のほうが可能性としては高いでしょう」

 

 この国にある天使の集落でも米は育てていなかった。

 彼女たちは食べたくなれば出せるのだから無理をする必要もなかったのだろう。

 

「狐人かあ……。さらに他の種族と交流することになっちゃうね」

「あら、そのために飛行船を開発しているのでしょう?」

「それもそうか」

 

 むしろ、軍事利用するつもりとかさらさらない。

 隣国に赴いた時のように緊急の場合は仕方ない、というかまさにあそこで飛行船が欲しかったけれど。

 

「ねえ、母様。本国と連絡を取って取り寄せられないかな?」

「到着したばかりだもの。追加で必要なものがまとまってからになさい。ひとまず、『畑の肉』は生のものがあるでしょう? そちらを育ててみてはどうかしら?」

「そうね。他にもいろいろシルヴィアに渡したらなにかおもしろいものができそう」

 

 トー家の庭と植物研究所、後はイリスの屋敷の庭くらいなら自由に使えるけれど、それで足りるだろうか。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 さらに、エルフたちが薬として持ち込んだ物の中にもお宝があった。

 

「このにおい……もしかして」

 

 実のところそれだけを直接嗅いだことはないかもしれない。けれど、はっきり「それ」だとわかる。

 

「あの、こちらを分けていただくことはできませんか!?」

「構いませんが、それをどうされるのですか? なにか特別な薬でも?」

「いいえ。これも調味料として使います。これがあれば、また新しい料理が作れるかもしれません。もしかしたら世界を変えかねない強力な料理が」

「なにそれ。これってそんなに重要なの? 私に、においも味もあんまり好きじゃないんだけど」

 

 もちろん苦手な人もいるけれど、料理として出されるとかなりの人間がハマる。

 見つけた品は、シルヴィアの前世で言うウコン。

 カレーの材料として重要なターメリックを作るために必要な作物である。

 

「こんなこともあろうかと、天使の里で作り方をメモしてきたんだよね」

「神聖語のメモですのね。これはわたくしたちには読めませんわ」

「ねえねえ、シルヴィア? その料理はいつ食べられるの?」

「試行錯誤が必要ですので、これもすぐには難しいですね。厳密に言うと料理に必要なのはこれの根の部分ですし」

 

 飛行船の資料を調べる際についでに──というか、脱線している際に本で読んで知ったことだけれど、ウコンとターメリックは厳密に言うと別というか、使われている部位が異なるらしい。

 自分の知識だけで数多の料理を再現してきた転生者たちには頭が上がらない。

 シルヴィアは文献の助けを借りたうえで、料理の専門家を頼らないと作れる気がしない。

 

 気の長い話にレーナが悲鳴を上げる──かと思いきや、

 

「いいわ。五年でも十年でも待ってあげる」

「あら。レーナ様はもっと気の短いほうかと思いましたわ」

「気の長いほうだとは思わないけれど、五年とか十年とかわりとすぐじゃない?」

 

 寿命の長い種族は言うことが違う。

 

「好物が出来上がるのを待つ時間というのは確かに、短く感じられるものですね」

「そうそう、わかってるじゃないリゼット!」

 

 王族と公爵令嬢──出来上がりを待つまでもなく「できたら呼ばれる」身分の二人だけれど、意外と庶民的なところもあるのか。

 ……リゼットのほうはシルヴィアたちに付き合わせてあちこち行ったせいな気がする。

 

「じゃあ、これの栽培方法も教えないとね。……うーん、なんだか本当にあっという間に時間が過ぎそう」

「そうね。本当に、わたくしたちにこれだけの自由が与えられるなんて、以前とは別の国のよう」

「わたくしたちに関してはある種、治外法権と言いますか、陛下から大目に見られている部分がありますので」

 

 おかげで苦労もさせられているけれど、そこはまあ、お互い様かもしれない。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 とりあえず、煎った大豆があるならときな粉を作ってみた。

 豆を粉にするだけなので簡単。

 

「シルヴィア? これ、粉っぽくて絶対むせるわよ? 水にでも溶かすの?」

「いいえ。シェフにお願いして、これを美味しい料理に変えてもらいます」

 

 パンを揚げて、砂糖ときな粉をたっぷりまぶして。

 

「揚げパンです」

「パンを揚げる……ドーナツのようなものですの?」

「近いけど、ちょっと違うかな。これはこれで美味しいと思うよ」

 

 前世で小学生だった頃は手づかみで行ったものだけれど、今回は平皿に載せてもらってナイフとフォークでいただく。

 みんなが揚げパンを注視しつつ口に運んで、

 

「! 美味しい、美味しいわ! これはデザート? それとも主食なのかしら?」

「強いて言えばおやつですが、主食にもなると思います。たくさん食べると太ってしまいますが……」

「素敵ですね。豆の粉の風味が揚げたパン、それから砂糖とよく合っています。特に子供には喜ばれるのではないでしょうか」

「子供に食べさせる時は気管に粉が入らないように気をつけないといけないですね。対策としては──」

「み、水! 水をちょうだい!」

「こんな感じです」

 

 難点としては、前世では「余ったパンを美味しく活用する」から始まったはずの揚げパンが、こっちでは十分ご馳走だということか。

 パンを作り、砂糖をたっぷりまぶし、さらに豆の粉まで必要とする。

 ドーナツと同様、庶民に気軽に食べてもらえるほどにはならない。

 

「あ、でも、油を取れるようになれば油はもう少し気軽に使えるようになるかな。イリスにお願いして売ってもらって──」

「売るって、シルヴィアは商売もするのね?」

「ええ。使うばかりではお金が減ってしまいますので」

 

 金策をして収入を得ていかなければならない。

 

「でも、大量に作るとなると土地が足りないなあ。そろそろ都の周りに増設するのも限界だろうし」

「陛下にお願いしてみればいいんじゃありませんの? 領地を与えてくださいって」

「本当にもらえそうだから困るんだけど」

 

 とはいえせっかくなので「領地をください」ではなく「借りられる土地はありませんか?」と相談してみたところ、

 

「ならばデュヴァリエ公爵領に頼めば良かろう」

 

 エリザベート経由で公爵に話したら快諾された。

 もちろん中間マージンを持っていかれるし、公爵領特産として話題にもなるのだが。

 

「なんかエリザベートにいいようにしてやられた気がする」

「あら。わたくしとお父様が得をしてシルヴィアがなにか困るんですの?」

 

 うん、確かに特に困らない。

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