わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「本当に女ばっかり。この感じ、とっても落ち着くわ!」
『銀百合』にもレティエとレーナを招待した。
邪魔になるつもりはなかったものの、みんなエルフが物珍しいのか、訓練を中断して近寄ってくる。
シルヴィアたちの主導ならそんなに畏まらなくても問題ないだろう、と思われている節がある。そしてだいたい合っている。
レーナも、女しかいない空間にきらきらと目を輝かせた。
「レーナ様の好奇心は男には向かないのですわね?」
「そういうわけじゃないけど、男ってなんだか私たちに非友好的じゃない。じっくり観察とかさせてくれなさそうだもの」
さもありなん。
男から見たら「女だけで生殖している生き物」なんて理解の外だ。なにしろ自分の存在する余地がない。
そのうえ、魔法の力において人間をはるかに上回っており、寿命のおかげで深い知識をも蓄えている。
本当なら面と向かって否定したい、と思う者もぐっと堪えているはずだ。
半端な実力行使は身を滅ぼすとシルヴィアやプルプル相手に実演した者がいるうえ、レティエたちの訪問はほとんど単なる観光。「邪魔だから滅ぼそう」と言われないためにも「人間の国もなかなか面白い」と思ってもらったほうがいい。
「それで、トー子爵? こちらの方々がエルフの大使なのですよね?」
「お話を伺ってもよろしいのでしょうか?」
「しかし、ここの者達は物怖じしませんわね」
「そりゃ、みんなシルヴィアやアンジェで慣れてるもん」
「その通り。今さらエルフが出てきた程度で恐怖を覚えるものか」
「クレール。それにプルプルも」
「……いえ、まあ。なんと申しますか。あなたたちが言うことではありませんわよね?」
エリザベートと同様、通常の騎士団業務から外れたクレールだけれど、彼女に関してはあれからも元気に剣を振っている。
基本、遠出する任務には参加しないものの、訓練は積極的に行っており、プルプルともども有り余った体力で他の騎士たちに稽古をつける日々。
半竜と竜を相手に技を磨ける環境は成長にはとても良いけれど「誰もがエルミート様のようになれると思わないでください!」という悲鳴も。
「クレールさんたちですから仕方ありません」
「あら、イズ。あなたもいたんですのね?」
「弓を射るにはここが一番ですから」
答えて、愛用の弓を掲げるイザベル。
レーナが騎士たちに囲まれて楽しげに歓談し始めたので、シルヴィアたちはレティエを連れて少し離れたところに。
「暇ができたのですから、休んでもいいのではなくて? ……今のうちに子供を作るのもいいですわよ?」
イザベルも、クレールたちとは別の意味で重宝されている。
弓を用いて大戦果を挙げてきた特異な騎士。
遠距離武器を得意とする後輩騎士にとっては希望の星。彼女に教えを請いたいという者もたくさんいるのだ。
男爵家出身の騎士としては異例の出世である。
ただ、そのせいで自分の時間が持てていない疑惑もあり、
「エリザベート様。そんなに私の子供の顔が見たいんですか?」
「見たいに決まっているでしょう? わたくしの大事なイズの娘なんて絶対に愛らしいのですから」
「っ」
はっきりと言われたイザベルの頬が朱に染まった。
「確かに、いい頃合いかもしれません。……実はこの弓にも、少し違和感を感じていまして」
「弓、ですか? それはエルフの作った弓でしょう?」
ここで、呟きを拾ったレティエが穏やかに口を挟んだ。
イザベルは「ご挨拶が遅れました」と一礼してから、彼女に弓を見せる。
「はい。偶然手に入れた品ですが、エルフの手によって作り出された弓だと」
「ええ。木の質感と用いられている術式を見ればわかります。作り手の腕が良かったことも、丁寧に手入れされてきたことも──短い間に激しい戦いをくぐり抜けてきたことも」
「っ。そこまで、おわかりになるのですか?」
「木と弓に関してはエルフに一日の長があります。まして我々の魔法が施されているとなれば、これはわたくしどものほうが専門でしょう」
武器というのはいつか壊れる。
クレールのアロンダイトやエリザベートのオートクレールは丈夫になるようシルヴィアが造ったけれど、それでも不朽とまではおそらく言えない。
某有名ファンタジーSLGにおいて武器に耐久度が設定されていたように、イザベルの弓も、毎日のようにたくさんの矢を放って疲れてしまったのか。
弓を慈しむように見つめ、なにかを考えるようにしたレティエは「いかがでしょう?」と口を開いて、
「よろしければ、わたくしにこの弓の修復をさせていただけませんか?」
「えっ……!?」
「見たところ、作られたのは百年以上前。とても良い出来ですが、本格的な手入れも必要でしょう。それから、術式も改良の余地があります」
「イズの弓がさらに強くなるんですの?」
「この弓と、これからも戦えるんですか……っ!?」
珍しく勢いこんで尋ねるイザベル。
藍色の瞳はどこか潤んでいて、
「この弓は、思い出の品なんです。何年も使い込んで手に馴染んだ、最高の弓です。これからも使っていけるなら、それが一番……っ」
「ええ、もちろんです。わたくしも、使い手に大事にされてきた弓に、もう一度元気になって欲しい」
彼女の想いに応えるように、レティエもまたしっかりと頷いた。
「ですが、それには弓を預けていただく必要があります。時間をかけて少しずつ取り組みますので、半年以上はかかってしまうかもしれません」
「弓を補修するんですの? それは確かに時間がかかるというか……時間をかければ直ることが驚きですわね?」
「木を癒やす、と言いますか、もう一度成長させるのです。そうして自分からより強く、元気な姿になってもらう、といったところでしょうか?」
イザベルが「シルヴィアさんにもできますか?」と尋ねてくるものの、もちろんちんぷんかんぷんである。首を振って「無理」と言うしかない。
心をこめて弓を癒やしたら直るかもしれないが、これはレティエに任せるべきか。
「ちょうどいいよ。イズ、少し休んだら? 今までずっと戦い通しで、本を読む時間もあんまりなかったでしょ?」
「……シルヴィアさん」
人のままの身であるイザベルには残された時間が少ない。というかそれが当たり前なのだけれど──あまり戦いばかりさせていてはあっという間に時間がなくなってしまう。
修復に時間がかかる、ということにして休んでもらうのも必要かもしれない。ひょっとしたらレティエはそこまで考えて……?
と、ここでリゼットが「あの」と声を上げ。
「お母様。わたくしにもお手伝いさせてくださいませ。そうすれば次に修復を行うことになっても安心かと」
「なるほど……。そうね、そうしましょうか。シルヴィア様、リゼットをしばらくお借りしてもよろしいですか? もちろん飛行船のほうも協力させていただきますので」
「もちろんです。飛行船に関しては船体にも時間がかかりますし、レーナ様も率先して手伝ってくださるでしょうし」
イザベルの手からレティエの手に弓が渡される。
リゼットが傍についていてくれれば「万が一、弓を害されたら」という心配もぐっと減る。
長い間、連れ添ってきた相棒をイザベルはじっと見つめてから、
「あの、シルヴィアさん」
くい、と、小さくシルヴィアの袖を引いてきた。
「どうしたの、イズ?」
「……その、そんなに時間が空くのでしたら、いっそのこと、と思うのですが」
「え。えっと、それって」
こくん、と、遠慮がちに頷きが返ってきて。
「……子供、作りたいです」
囁きが耳にそっと届けられた。