わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
イザベルと夜を越えるのも、もちろん初めてではないのだけれど。
今までは『銀百合』本拠内の部屋を使うことが多かった。
今日は、レティエたちを屋敷に泊めていることもあり、シルヴィアの私室に招くことに。
実家にあまり余裕のないイザベルは自分に割り当てられた屋敷の部屋を、寮に次ぐ第二の部屋として利用しており、普段あまり使わないものを置いたり、休暇の際にゆっくり休むために使っている。
そのため、騎士としての活動では使わないドレスなどもこちらに置かれていた。
既に結婚を済ませ、子爵夫人となっている彼女には、メイドたちも手厚い世話をしてくれたようで。
「……お待たせしました、シルヴィアさん」
夜、部屋を訪れたイザベルは夜会にでも赴くかのように着飾っていた。
夜会の時と違うのは、肌にまだ熱が残っていること。
ほんのりと紅潮した白い肌がとても艶めかしい。
女盛りを迎え、もはや少女ではなく女性となった彼女がゆっくりと歩いてきて。
シルヴィアからも一歩、踏み出して迎えた。
肩を軽く抱きとめると、彼女自身のにおいに混じってほのかな香水のにおい。入浴剤やシャンプーの香りもこのためだけに調整したのか、嫌な香りになることなく、むしろ調和して複雑な香りを演出。
「イズ。今日は一段と綺麗」
「……恥ずかしいです。エリザベート様やリゼット様を見なれているシルヴィアさんですから」
「わたしは、イズのことずっと綺麗だと思ってたよ?」
鼓動がいつもより少し早い。
すぐにことを始めてしまいたいような、このままじゃれ合うように言葉を交わしたいような。
だいいち、こんなに着飾った彼女をすぐに脱がせてしまうなんてもったいない。
こういう時、男はどうするんだろうか。
少なくともシルヴィアにとって、行為は欲を満たすためだけのものでも、子供を作るためだけのものでもなくて。
じれったいような、心地いいような会話をしばらく交わした後、
「シルヴィアさん。あの、具体的にはどうしたらいいのでしょう?」
「イズはなにも心配しなくていいよ。わたしが全部やるから、普通にしててくれれば大丈夫」
「ふ、普通って、私、どんなふうでしたか……?」
確かに、これからすることは平静な状態ではできないので、頭で考えるとよくわからなくなりそうだけれど。
「ほら、目をつむって」
「………んっ」
愛しい女性の唇に優しくキスをし、その呼吸をしばし奪ってから、シルヴィアは彼女をベッドへと導いた。
◇ ◇ ◇
「ふふっ。それでめでたく懐妊ですのね? おめでとう、イズ」
「あ、ありがとうございます、エリザベート様」
翌日。
シルヴィアたちは再び騎士団で集まった。もちろん、結果報告をするためである。ついでにレーナたちを案内するためである。
昨日、交流の一環としてエルフの騎士と騎士団員との模擬戦も行われた。
細身のようでいて人間以上の身体能力を持ち、強大な魔力を誇るエルフはさすがに強敵で、腕の立つ騎士団員でも苦戦。
嬉々としてクレール、そしてプルプルが参戦を表明し、カオスな事態になった。
で、一日では全員と手合わせするなんてとてもではないけど無理ということで、合同訓練はこれから長い目で行っていくことに。
「結果的にはイズに譲って良かったのかな、これ」
あっけらかんと言うクレールをエリザベートがジト目で睨んで、
「昨日さんざん文句を言ったのは誰だったかしら?」
「ごめん、ごめんってば。……本当におめでとう、イザベル。良かったね」
「クレールさん……。はいっ、ありがとうございますっ」
幸せそうに、うっとりと女性の顔でお腹に手を当てるイザベル。
今は服に隠れているものの、そこには一種の聖紋が浮かんでいる。もちろん持ち主を強化したり進化するものではなく、神聖魔法が機能している証だ。
天使の「子供を作る」魔法は百発百中。
正確に言うとまだいろんなプロセスが終わっていないので「子供はできていない」のだけれど、今のところこれで子供ができなかったことはない。
同性では普通にやっても子供はできないので、タイミングをほぼ完全にコントロールできることになる。
なので、『順番』もはっきりするわけで。
『イザベルに先越されちゃう! ……うう、一番譲ることになるのかあ』
『一番って……。クレール? マルグリット先輩とサラ先輩を除いてもアンジェリカ様がすでに妊娠していますわよ?』
『あたしたちの中で一番ってこと! ……あ、もちろんイザベルが悪いわけじゃないんだけどね? あたしもこの際子供作ろうかなあ』
『そんなことを言って……。一年近く剣を振れなくなるのを忘れないでくださいませ?』
『それなんだよねえ。イズとあたしが同時に休んだら誰がシルヴィアを守るのってなるし』
『別にエリザベートもわらわも、リゼットもアンジェも、その他もろもろおるが』
『いいの! どうせシルヴィアのことだからまた変なのと戦うことになりそうだし』
『や、さすがにもうああいうのはしばらく勘弁なんだけど……』
昨日はわいわいと騒がしいことになった。
クレールとエリザベートは上位種になったことで子育てに焦らなくてよくなったので、そのあたりを長い目で見ている。
もちろんあんまりのんびりしているとご両親がお怒りになるだろうけれど、貴族の、というかこの世界の結婚は前世より基本早いので二人のご両親もまだまだお元気である。
みんなで多少タイミングをずらしていくことで負担が一度に集中せずにすみ、育児のノウハウを蓄積していける。
この調子でいけば数年後には屋敷はかなり賑やかなことになるだろう。
「イズ、無理しちゃ駄目だからね? 育児のまとめもしてあるから一緒に確認しようね?」
「ありがとうございます。でも、すぐに影響が現れるわけではないんですから、シルヴィアさんは気が早すぎです」
「イズだってすでにお母さん気分になっていそうですけれど」
「そ、それは仕方ないじゃないですか……! 将来の夢、のひとつだったんですから……」
「わたしだって、同世代が子供産むのは初めてなんだから、いろいろ心配になるよ」
「それも、わたくしたちの間で初めてなだけで、すでに出産を経験している者はいるのですけれど」
まあ、貴族学校の同期とか卒業直後に結婚、数カ月後には妊娠発覚、という子も確かにいるけれど。
「いいの! ……わたしだって人ごとじゃないだろうし」
「……ねえ、プルプル? 半竜って子供どうなるの?」
「卵を産む器官が備わっておらぬ以上、お主に『産ませる』のは無理じゃな」
「……そっかぁ。ちょっと残念」
「クレールさん、自分が産むの怖いから言ってませんか?」
「な、ななな、なに言ってるのイザベル!? そんなわけない、っていうか怖いのはみんな一緒でしょ?」
「みんな一緒だからこそ、一人だけ抜け駆けはずるい、という話ですわ」
いや、本当、シルヴィアが神聖魔法を使えるからまだ心配は少ないけれど、出産のたびに命がけとか、もうちょっとどうにかならないのかと思う。
「……そういえば上位種だと出産が楽になるのかどうかは聞いてなかったなぁ。どうなんだろ?」
「竜は身体が丈夫故、出産で死ぬ者は基本おらぬが」
「そこにいるレーナ様にも尋ねてみましょうか?」
「私だって知らないわよ! そんな経験ないんだから! ……まあでも、人間よりは楽なんじゃない?」
「ってことは、天使も同じかなあ。うう、考えるほど怖くなってくるなあ」
「そういう時は、好きな人の子供を産めるって考えるといいですよ、シルヴィアさん」
経験者は語る。確かに、そういう意味ではシルヴィアたちはとても恵まれているのだった。