わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「だいぶ出来上がってきたじゃない! こうして見ると壮観だわ!」
ドックにて、いよいよ形が仕上がってきた飛行船の姿にレーナが歓声を上げた。
船体と、その上に取り付けられたバルーン。
シルヴィアとしても「ここまで来たか」と感慨深い。なにしろファンタジー世界で飛行船だ。RPGとかだと終盤に手に入ることの多いアイテムである。
「レーナ様、レティエ様のお力添えのお陰です。それがなかったらまだ試行錯誤していたかもしれません」
「そんなことないわよ。私たちなんていくつか提案したり手伝ったくらいじゃない」
「それが重要なんです。別の視点からの意見は重要ですからね」
あれ以来、レーナは積極的に飛行船開発に協力してくれている。
レティエはイザベルの弓を直すほうもあるので様子を見ながらだが、この好奇心旺盛なエルフの少女だけでも正直百人力だった。
なにしろエルフは魔法が得意なうえに魔力も有り余っている。
試しに小さな模型を作って飛ばしてみるような実験が格段にやりやすくなった。
実験により、飛行船の形には修正が加えられた。
移動する際の空気抵抗を減らすため、船体に追加のパーツが取り付けられたのだ。
一隻目は作りかけだったためこのような形だが、二隻目以降は最初から織り込み済みで造れる。
飛行船にかける魔法についてもあれこれ調整を実施。
船体とバルーンを強化する魔法は全体的にブラッシュアップされ、効果がアップ。
補助として機能する浮遊魔法も効率が良くなり、浮かんだ後の移動で使う横方向への風魔法についてはほとんどレーナの作である。
「これは飛行船開発史にレーナ様の名前を残さなくてはなりませんね」
「あら、光栄ね。でもそんな記録わざわざ残すの?」
「資料は重要ですよ。人間は世代交代が激しいですし、文字媒体で残っていれば広く伝えることも簡単になります」
「確かにね。私なんか『別にいつでもいいかー』って記録とかサボりがちだし」
ちなみに飛行船には防衛用の機構も取り付けられた。
神聖文字によるお守りめいた守りに加え、いざという時に手動で展開する防壁魔法。
それから、飛行型の魔物を撃ち落とすために計六門装備された雷魔法の魔道具。
撃つ時に手動照準する必要がある、いわば搭載火器。慣れないとなかなか当たらないのがネックだけれど、物に引かれる雷の性質が若干ながら補ってくれる。
ワイバーンとかに襲われてもこれで撃ち落とせる……はずだ。
駄目だったらクレールとかシルヴィアとかが艦載機のごとく発進してどうにかすることになる。
「新しい畑も作り始めたのよね?」
「ええ。公爵様の許可を得て、公爵領の一角に土地をお借りしました」
植物研究所で生育の実験や品種改良を行い、ある程度目処が立ったものについては公爵領で量産するという手はず。
隣国産の野菜や香辛料については土地の開墾が済み次第量産体制に入る予定だし、ゆくゆくは吸血種やエルフの国の作物も育てたい。
そして目指すは日本酒、醤油、カレーライス。
夢は広がる一方である。
新しい物を作ればそれを売って、また新しい物を作るための資金にする。
この分だと当分はやりたいことが終わりそうにない。
「ねえ、シルヴィア?」
レーナが肩の触れ合うくらい近くに来て、囁くように尋ねてくる。
「飛行船、あとどれくらいで完成するかしら?」
「そうですね。あと一、二ヶ月もあれば飛べるようになるかと。完成式は三ヶ月後くらいを予定しております」
「たしか、結婚式と同時にやるのよね?」
「ええ。それが一番盛大で、かつ思い出に残るかな、と」
飛行船事業については国王も大きな関心を寄せており、無事に完成した暁には都を挙げて宴を開くと言ってくれている。
となれば、むしろもう、都中を会場にしてしまうのはどうだろう?
披露宴のごとき昔ながらの結婚式ではなく、空飛ぶ船とそれに乗る花嫁たちをみんなが思い思いに眺める、そんな式。
クレールたちにも相談してみたけれど、誰からもノーは出なかった。
落ちないか心配、みたいな声こそ上がったものの、空での式というアイデアに関してはみんな楽しそうと言ってくれている。
やっぱり人にとって空への憧れは共通らしい。
「……ね? それって何人くらい参加するの?」
「え? ええっと。わたし、クレール、エリザベート、イズ、ラシェル先輩、リゼット様、イリス様、アンジェ様、アンジェリカ様、マルグリット先輩、サラ先輩にそれから……」
プルプル、ヴァッフェとティーア、妻という扱いにはならないけれどゼリエとスリスも同乗するし、シャッテも乗る予定だ。
指折り数えてみるとあらためてすごい人数だ。飛行船の定員にはいかないまでも……いや、各人のメイドまで加えるとオーバーする。
給仕等に関してはシルヴィアのメイドたちに任せてもらうしかない。
「あと、ステファニー様も乗る予定なんですよね。陛下も『絶対に乗る』と言って聞かなかったのですが、王妃様から『自重なさい』と言われてしぶしぶ断念されて……」
「ふうん。……それで、まだ席は空いているのかしら?」
腕を取られ、服の上から円を描くようにくすぐられる。
「あの、レーナ様? ……この流れで尋ねられますと、まるで花嫁に立候補しているように聞こえるのですが」
「立候補してるのよ。私と結婚するのは嫌かしら?」
「嫌ではありません。むしろ嬉しいですけれど……いずれは故郷に戻られるのでは?」
「当分は戻らないわよ。畑のほうは一年二年じゃ十分な成果出ないでしょ? シルヴィアの娘も可愛いし、これからもまだ生まれるらしいじゃない」
「レティエ様は最長五年ほどで戻られる予定だそうですが……」
「言ったでしょ? エルフが当分って言ったら長いわよ? そうね、二、三十年くらいはこっちにいようかしら」
「子供が生まれて成人する余裕がありますよ……!?」
例によって人間換算だと無難な年数に落ち着くわけではあるけれど。
「だからそう言ってるんじゃない。……エルフと天使のハーフってどんな感じになるのかしら?」
「あの。わたしとで、本当にいいんですか?」
「いいわよ。シルヴィアとなら退屈しないでしょうし」
近くから見つめてくる瞳にからかいの色はない。
躊躇いなく身体を触れさせてくる様子からも親しみを感じた。
レーナたちを迎えてから朝晩の食事は屋敷でとることが多く、そのぶん顔も合わせているし、シルヴィアとしても素直に「友人」と言える相手である。
ときどき、あれ以降も「一緒に寝たい」とねだってもきている。
相変わらず、普通に話をして文字通り寝るだけだけれど。
「私、正直いやらしいことって良く知らないのよ。恋愛もまだぴんと来てないし。……一緒にいたいと思う人と結婚するものだっていうなら、シルヴィアかなって」
「エルフって性欲も薄いものなんですね……?」
「そうね。だから母様は変わってるの。母様と人間の間に生まれたリゼットもそうかもね?」
確かにリゼットは初々しくはあったものの、その辺りの機微に無知・無自覚ではなかった。むしろちゃんと求めてくれ──もとい。
「いいんですね? ……そんなこと言われたらわたし、本気にしますよ?」
客人として迎え、ある程度の対価を受け取ってもてなすのにも限度がある。
ならば、長期滞在するレーナは「家族」になってもらったほうが都合も良い。
王女の娘、という立場であるレーナは王族でこそあるものの重要度としてはあまり高くない。エルフの国は隣国のように王族不足でもないっぽいし。
レティエが女王になる日が来てようやく王女、そうなったとしても、次期王位継承者には他の姉妹がなってもいいし、レーナが継ぐとしても時期は百年後とかかもしれない。
だから、少女はくすりと笑って。
「いいわよ。でも、そのうち一緒に私の故郷にも行きましょうね?」
「それはもちろん。リゼット様にも見せてあげたいですし」
そんなふうにして。
ある意味、今までで一番幼い話し合いによって、エルフの少女がシルヴィアの家族に加わることになった。