わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「陛下、およびステファニー殿下がお見えです」
一礼して出迎えると、国王は「楽にしてくれ」と鷹揚に応え、「結婚おめでとう」とシルヴィアたちに向けて告げた。
一緒に歩いてきたステファニーは小走りでシルヴィアたちの輪の中に入り、微笑む。
次期王位継承者となった幼い少女は特例として飛行船への同乗が決まっていたが、「みんなと一緒がいい」と希望、彼女の分の白いドレスも用意されている。
「ありがとうございます、陛下。このように城の一室まで用意していただいて……」
「なに。着飾った後の花嫁たちに我が近づくのも野暮であろう。着替えの前に挨拶するにはこれが一番良い。……それに、我が娘の晴れ舞台でもある」
イリスは伯爵の地位を得て王族から離れているけれど、血縁まで失われたわけではない。
花嫁ではないステファニーを数に含めると二人の王女が祝福されることになる。
……あるいは、リゼットも含めて三人の娘と思ってくれているのか。
「今回の形式はなかなかに良いかもしれんな。長々と挨拶を受ける必要もない」
「あはは……。前代未聞ではありますが、普通に執り行うには人数が多すぎますので」
「うむ。今日はめいっぱい楽しんでくれ。我も城から飛行船を眺めさせてもらう」
王が出ていったと思ったらクロヴィス含めた男性王族がやってきて、それぞれに祝いの言葉を述べた。
「……まったく。結局お前にリゼットを持っていかれるとはな。しかもさらにこれだけの数の綺麗所を。恨むぞ、シルヴィア・トー」
「ご冗談を。クロヴィス様にも素敵な女性がついていらっしゃるではありませんか」
「はあ。……女同士の諍いを収めるのも正直疲れるのだがな」
少し前、クロヴィスは長く空席だった正妻の座にようやく女性を迎えた。
侯爵令嬢であり『魔法使い』の神託を受けている彼女はクロヴィスの許可を得て、公爵領で大地の魔法を研究しつつ公爵夫人として働くという。
カトレアと異なり真面目な性格ではあるものの、そのせいで奔放な愛人と衝突することも多い様子。
基本的にはカトレアが悪いわけで、クロヴィスも妻の肩を持つことになるものの、性格的にじゃじゃ馬が好きという困った男でもあるため、あのお嬢様にあまり強く言えない。
「お前の結婚生活がうまく行くように祈っている」
「ありがとうございます。ですが、わたしたちはみな、それぞれにやりたいことをやっておりますので。そのうえですり合わせをしていくだけかと」
「そうだな。……目線を揃えられる、という意味で、お前達のやり方も一つの正解なのかもしれん」
男が全員退場して着替えが始まった後は王妃や王女たちが挨拶に来た。
シルヴィアたちはドレスに着替えたら外に出てしまうので今しか挨拶のチャンスがない。貴族連中からこぞって挨拶を受けるよりはずっと少ない人数でもあるのだけれど、王族だけで二桁人数いるのを考えると「これで楽になってるの!?」と言いたい気持ちもあった。
もちろん、祝ってもらえるのはとても幸せなことで。
挨拶が終わる頃には式への気持ちは最高潮に高まっていた。
「それにしても、全員違うデザインで全員白ベースだものね」
「職人も相当頭を捻っただろうね」
マルグリットとサラが良く似た白のドレスを纏いながら笑う。
「神に祝福されていると一目でわかりますので、私はとても良いと思います」
アンジェとシルヴィアのドレスは翼を出す関係上、デザインがかなり似ている。ざっくり背中側を開ける案もあったものの「扇情的になりすぎる」ということで最低限のスリットだけを入れて解決した。
クレールのドレスはフリルやレースを最低限にし、肩の部分を露出、長さの違う三重のスカートで動きやすさと華やかさを演出。
エリザベートのドレスは白いイメージを崩さない程度に赤色を加え、装飾もふんだんに施した、最も華やかなデザイン。
イザベルは白一色という色合い以外は参列者用のドレスを見間違えそうなシンプルなデザインだが、それが彼女の素朴な美しさとよくマッチしている。
イリスのドレスは見た目の豪華さこそエリザベートに劣るものの、見る人が見るとわかる最新技術をふんだんに盛り込んでいる。
繊細でさりげない飾り付けや細かい仕上げなど、元王女らしい気品を感じさせると共に、後追いで注文が入ることを見越した強かさが伺える。
「ふん。妾は服など面倒くさいだけなのじゃがな」
言いつつも、プルプルも一応ドレスを着てくれている。
イザベル以上にシンプルなデザインだが、戦闘時のパワーに反して見た目は美女なので、これが嫌味なくしっかりと似合ってしまう。
リゼットとレーナのデザインはエルフらしいすらりとした体型を魅せる細いシルエット。
髪飾りに生きた花をあしらったのが可愛らしくも清楚さを演出、一目で「姉妹だ」とわかる効果も産んでいる。
アンジェリカのドレスは「そろそろ白一色は年齢的にきついわ」と、聖女とは思えない本人の発言からグレーを織り交ぜることになった。
結果的にこれが大人の魅力を引き立て、一味違ったデザインに仕上がっている。
「ふふっ。今日はメイドたちも特別仕様なのよね」
「恐縮です」
「私たちの服にまでお金をかけるのは申し訳ないのですが……」
ゼリエやスリス、ヴァッフェやティーア、シャッテのメイド服も今日限りの純白仕様。
エプロンが一体になったデザインにすることで仕事着っぽさを和らげ、よりドレスに近い印象に仕上げてもらった。
こんなメイド喫茶があったら通う──じゃない、今日しか使われない衣装なのが勿体ないくらいの可愛らしさだ。
「私はどうでしょう? 綺麗に見えますか?」
「ええ、とてもお綺麗ですよ、ステファニー殿下」
「む、イリス姉さま。ちゃんとステフって呼んでください!」
「……ふふっ。ごめんなさい、ステフ。とっても可愛いわ」
幼いステファニーのドレスはさすがにシルヴィアたちとそっくり同じというわけにはいかなかったものの、その分、フリルやレースは盛り盛り。
綺麗というか可愛い。これでもかと可愛い。元がいいのもあって、人々の目に「次期国王」の姿がしっかりと焼き付くだろう。
「では、皆様。一箇所に集まっていただけますか?」
サポート役としてやってきてくれたアンがとある魔道具を手にみんなに声かけ。
なにをするかと言えば、いわゆる集合写真的なものである。
ただし、ただの集合写真ではなく、
「立体映像の魔道具──普通ならこれだけでも一財産ですよ?」
身を寄せ合うようにして集合したシルヴィアたちをまずは正面から撮り、角度を変えてさらに何度か撮影、それらを統合することによって360°どこからでも見られる立体的な映像の投影を可能にする。
試しに見てみると、まるでホログラムのような精度。こういうところはレンズだの記憶媒体だのでやっかいな科学よりも「姿を写し取る」で済んでしまう魔法が有利だなと感心した。
撮影した映像は後で使う。
「これを拡大して都の上空で披露するなんて、もうお祭りは間違いなしですよね」
「……ちょっと恥ずかしいのだけれど。ねえ、アン? これってスカートの中は大丈夫なのよね?」
「ご心配なく、シルヴィア様。下からの撮影はしておりませんので、見えてしまう心配はありません。なんでしたら今からでも撮影──」
「絶対にやめて」
そうして賑やかに撮影を終えれば、準備は万端。
「皆さま、準備はよろしいですか? よろしければ、そろそろ──」
「ええ。パレードに移りましょう」
ここからシルヴィアたちは馬車に乗って城から飛行船まで移動、道中みんなに手を振ったり笑顔を振りまき、それから空へと飛び立つことになる。
その間も馬車の上には立体映像が投影される予定で。
「──これ、もの凄く恥ずかしいよね?」
「なにを今更言っているんですの……」
いや、だって素に戻ったら駄目なやつじゃん、これ。