わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
実のところ「誰と馬車に乗るか」でも若干揉めたのだけれど。
いっそのことシルヴィアは一人で乗ればいい、という案まで出た末、シルヴィアはクレール、エリザベート、イザベルと四人で乗ることになった。
確かに、「一人で乗る」も「全員で乗る」も選べないならこれが一番しっくりくる。
じゃんけんで選ぶのもなんというか、一回きりの事柄だと禍根が残りかねない。クレールとかが神速の後出しを始めかねないし。
「では、飛行船のドックまでお運びいたします」
「よろしくお願いします」
他のメンバーも三、四人ずつに分かれて別の馬車に乗り込み、走り出す。
パレードなので進みはゆっくり。ほとんど歩いているようなスピードだ。
馬車の護衛には『銀百合』の騎士たち、それから多くの兵士たちが駆り出されている。この状況でなにかに攻められたら大変だけれど、逆に言うと十分すぎる戦力が迎撃に出られる体制。
城の敷地内、居並ぶ兵士や騎士、執事やメイドに手を振り、貴族街に出ると、道に出て見物する者はさすがにほとんどいなかった。
貴族はそこまではしたないことはしない。
使用人が門のあたりまで出てきていたり、屋敷の入り口、あるいは窓から家人が覗いてくるくらいだ。
上部に大きなガラス窓のついたパレード用の馬車にて笑顔で手を振りつつ、シルヴィアたちは微妙に手持ち無沙汰。
雑談するくらいは問題ないので、
「まさか、パレードの主役になるとは思わなかったよ」
「あら。凱旋の時も注目を集めたではありませんの」
「新年も空飛んでたよね」
「神殿やお城での儀式もしてますよね?」
「ああいうのとはまた違うの! 今回はじっくり見られるし、馬車だし」
とにかく「思えば遠くに来たもんだ」というやつである。
「神殿で神託を受けた時はこんなことになるとは思わなかったよ」
「ああ、シルヴィアは神殿で受けたのですわね。わたくしは家でしたから、家族がうるさかったのを覚えていますわ」
「うるさかった? 公爵様はご不満だったのですか?」
「それはそうよ。愛娘が騎士だもの。……まあ、わたくしが成果を出してからは大喜びでしたけれど」
「公爵様、なにげにエリザベートのこと猫可愛がりしてるもんね」
仕事は仕事、プライベートはプライベート、という御仁に見えて子供に甘い。昔からあれこれ手助けしてくれたことからもそれがわかる。
「まあ、シルヴィアも義理の娘のようなものなのですけれど」
「どっちかというとエリザベートを奪った立場じゃない?」
「わたくしはいつでも里帰りできる契約ですし、娘は公爵家にやるのですから似たようなものでしょう? 『お養父さま』と呼んで差し上げるときっと喜びますわ」
「それはちょっと勇気がいるなあ……」
弱気になったシルヴィアを見て、クレールがくすっと笑い、
「あたしは家族みんな『ああ、やっぱりな……』みたいな反応だったなあ」
「ああ、よくわかります」
「イーザーベールー? どうせあたしはエリザベートやイザベルみたいにおしとやかじゃないですよー」
「エリザベートがおしとやか……?」
「シルヴィア? あなたも頬を引っ張られたいんですの?」
「やめて。珍しくお化粧してるんだからやめて」
美しく飾り立てられた状況では顔に触れるのも基本NGである。
寿命が伸びたおかげで玉の肌を維持できている身としては慣れないことこの上ないけれど、プロの化粧はすごい。
おかげでみんないつも以上の美しさだ。
その美しい状態でするのがこんな呑気な話でいいのか、という気もするけれど。
「でも、そうだよね。あたしもシルヴィアに会ったばっかりの頃は、竜と戦えるなんて思ってなかった」
「そこなんですのね……? いえ、まあ、わたくしもプルプルと渡り合ったのは自慢ですけれど」
「間違いなく三人ともこの国の歴史に残るよ。偉大な騎士だって」
「その場合、私たちを導いた天使様としてシルヴィアさんの名前が残りますね」
そんなだいそれたことは……結果的にやっているのだけれど。
「あの頃は天使になるなんて思ってなかったってば」
「そうですわね。ですけれど、神の寵愛があなたを導いたのでしょう」
「どうしたのエリザベート。信心深くなるのは歳を取った証拠って言うよ?」
「そういうつもりじゃありませんわ! ただ、この世界は神の意思に大きく影響を受けているのだと、あらためて思っただけです」
「そうだね。わたしたちがここまで来られたのは『神託』と『恩恵』のおかげ」
「……同時に、『神託』や『恩恵』によって苦しむ人もいましたね」
『神託』を隠してまで争いを避けようとしたのに多くの死者を出してしまった隣国王族。
『恩恵』のせいで神殿から排斥され、悪の道に走ったゼリエ。
「神が全てを見通していらっしゃるのなら、苦しむ人をなくしてくださればいいのに」
「……うーん。たぶん、神様も全知全能じゃないんじゃないかな」
「それ、天使であるあなたが言っていいことなんですの?」
「天使だからこそだよ。聖なる力が身近だからこそ、わたしたちは神様を遠い存在とは考えられないんじゃないかと思う」
この国にある天使の里なんてペットボトルとか使ってるわけで。「あれ? 神様って意外と俗っぽいんじゃ?」となってもなんの不思議もない。
「もちろん、人間が神様の考えを全部推し量れるわけないんだけどね」
「うーん。めんどくさいなあ。直接会って聞いてきなよシルヴィア」
「やめようよクレール。そういうこと言うとだいたいやっかいごとを招くんだから」
それに、もし会えたとしても神の写し身とかになるんじゃないだろうか。
「というか、知らないほうがいいこともあると思うんだよね」
「どういうことですか?」
「神様はこの世界を作ったけど、導いたり運営してはいないかもしれないってこと」
例えば、人間がどんな『神託』や『恩恵』を得るかはシステムによって定められており、一つ一つ「この子はどうしようかなー」とか考えてはいないのではないか。
「わたしから見ると『恩恵』って大雑把というか、冗談で決めたんじゃないかと思うところがけっこうあるんだよ」
だから、かみ合わせを考慮したり未来予知をしたりまではしていないかもしれない。
「お気に入りの個体を優遇したりはしてくれてるかもだけどね」
「それ、神のお気に入りであるあなたが言うんですの?」
「だからそういうつもりじゃないってば!」
とかなんとか話しているうちに馬車が少しずつ進んで、下位の貴族家があるあたりにさしかかってきた。
このあたりになるとフランクな家が増えてくるようで、
「みんなで門まで来てくれてる家もあるね」
「というか、あれは我が家です……」
恥ずかしい、と、頬を染めるイザベルだけれど、嫁いだ娘が実家を「我が家」と呼べること、みんなで結婚を喜んでもらえることはとてもいいことだと思う。
なんだかほっこりした気分になっていると、馬車のまわりにたくさんのフェザーラビットが寄ってくる。
窓を開けて迎えると、きゅー♪ と嬉しそうに鳴いて一匹ずつシルヴィアたちの膝に乗った。
「あははっ。この子たちもお祝いしてくれてるのかな?」
「きっとそうですよ。……この子たち、ゼリエさんの『恩恵』が作ったんですよね?」
「そうだよ」
最初の一匹はシルヴィアが生み出したわけだけれど、ここまで増えたのは間違いなくゼリエの力だ。
「魔物も、もともとは人類の敵じゃなかったのかもしれない。……というか、この子たちも分類上は魔物なわけだから」
「『恩恵』も、その他の力も、使う者の意思次第。使い方によって良い方向にも悪い方向にも働くのかもしれない、ということですわね」
「うん。それをこれからどうしていくのかも、考えないといけないかもね」
日本語の読み書きを広め、『恩恵』の解読を可能にすることもできる。
例えば聖女だけは『恩恵』を読めるようにして、危険な使い方がされないよう導く体制を整えることもできる。
人間ごときが制御するなんて不遜だと、あえてなにもしないこともできる。
それを考えるのは、神の言葉を読めるシルヴィアの役目だ。
「手伝ってくれる、みんな?」
視線を送って尋ねると、三人は「なにを今更」という顔をした。
「そのための『銀翼』でしょうに」
「そうそう。必要ならどこにだって行くよ」
「はい。私たちはこれからも、シルヴィアさんと一緒です」
「……うんっ。ありがとう、みんな」
やがて飛行船へと到着した一同は、天駆ける船へと乗り込み、空へと舞い上がった。
都上空に、拡大された立体映像が投影される中、飛行船はゆっくりと都の周りを周回、民に空への夢と、平和の到来を印象づけた。
そして。
みんなと一緒にいるために始まった騎士団は、みんなの夢を乗せて世界へ広く羽ばたいていく。
「これからも、まだまだ一緒だよ!」
銀の輝きを纏う天使の伝説は、この国、いや、世界の歴史にしっかりと刻み込まれた。