わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
飛行船が完成、運用可能になったことで、シルヴィアたちの行動範囲は大きく広がった。
遠方での魔物討伐、国内各地での土地浄化、特産品の調査などが今までよりも手軽に行えるようになったのはかなり大きい。
燃料やバルーンを満たす気体生成も魔法に頼っているため、運用コストもだいぶ抑えられる。
もちろん、どこか壊れたら都度かなりの資材が必要になるのだけれど。
「これで国をもっと安定させられますね」
「わたしやアンジェ様も少し気軽に遠出できそうです」
土地を浄化すれば魔物の出現率を抑えられ、強い魔物が出にくくなる。
騎士や兵士、冒険者の被害が減れば、結果的に国内の戦闘要員を温存することにもつながる。
各地への神像設置や祈りの習慣づけを並行して行っていけば、シルヴィアやアンジェが浄化する手順さえも簡略化、頻度を減らしていける。
そのうち街道整備プロジェクトのほうも進んで地上路の安定も進むだろうから、移動はこれからもっと便利になる。
「セルジュ殿下とクリステル殿下──いえ、陛下との結婚式にも出席できそうですわね」
クリステルと結婚して即位する、という話だったセルジュだけれど、実を言うとまだ王様になれていない。
結婚するのは構わないが、さすがにまだ若すぎるのでもう少し待ってはどうか、という話が出たからだ。確かに、貴族学校さえ卒業していない歳では威厳が圧倒的に足りない。
というわけで、場繋ぎ的にクリステルがいったん即位、臨時の王となっている。
「でもさ、これ、世界初の女王を取られちゃったよね?」
「神託を受けた女王、という意味ではステファニー様が未だ初ですけど」
初の女王、というネームバリューを持っていく狙いもあったのかもしれない。
とはいえ仮初の女王である。
後継者教育を受けていたとはいえ若く、隣国についての知識も足りていないセルジュを助けるための措置。セルジュが適齢期に達し、結婚式を行ったらすぐに王位を譲ると公言している。
というわけで、結婚式の順序がいろいろ前後してしまった。
ちなみに、ダミアンの結婚式はシルヴィアたちよりも前に行われて無事出席できた。
式の後半で彼が男泣きしていたのが印象的だったけれど、あれはどういう涙だったのか。もうやんちゃはできない、という悔し涙も入っていそうな気がする。
あとゼリエは嬉し涙を流していた。カトレアは「昔の男が幸せになるのは嬉しいものですわね」とか言っていた。
で、この国がステファニーを次期後継者にし、セルジュが隣国の次期国王となったことで、とある問題が浮上してきた。
「我の代は問題ないが、ステファニーに王位を継がせるにあたって後宮の妃たちをどうするべきか、意見が分かれている」
言うまでもなく、第十王女ステファニーは女の子である。
人間同士、女同士では子供を作れない。
王の子を増やすためのシステムである側室がこのままでは機能しない。
この問題は当初から挙がっていたのだけれど、セルジュがすぐに王位を継がなかったのもあっていったん棚上げというか様子見になっていた。
「そもそも、側室の皆様はセルジュ殿下に嫁ぐつもりでいたのですものね」
「うむ。妃たちにも心の準備がある。突然相手が変わったうえ、それが女では、な」
子供を産まなくていいんだ、ラッキー、という王妃も中にはいるかもしれないけれど、王妃というのは王の子を産むのが役目、世継ぎを産めれば最高の幸せ、と教育される。
中にはセルジュに本気で惚れている者もいるかもしれない。
「こちらの都合だけで言えば、そのままセルジュの側室とするのが無難ではある」
「我が国の血統が一気に隣国へ流れ込みますからね……」
両国が完全に親戚関係となり、協力関係もより強固なものとなる。
「それだけに、向こうの王族が拒否してもおかしくはないな」
「先方の貴族もセルジュ殿下に側室をあてがいたいでしょうね」
「妻が多いというのはそれはそれで良いものではあるがな」
同意していいのか悪いのか。
そもそも、並の男にはきつい回数制限があるだろう。二、三人ならともかく、国王は多すぎだ。とっかえひっかえできるほど体力余るのだろうか。
「いっそのこと其方が何人かもらってくれるか?」
「ご冗談を。……しかし、そうですね。エルフから教わった魔法が用いられればいいのですが」
「難しいか?」
「あの魔法は、術者と対象の間に子を成すものですので」
ステファニー自身が魔法を使いこなさなければいけない。
そして、現状の魔法はエルフ用だ。
「ハーフエルフであるリゼット様が元の魔法を扱えていますから、改良によって負担を抑えられれば、ステファニー様ならあるいは」
王族はおおむね魔力量が多い。ステファニーの魔力も公爵令嬢であるエリザベートを超えている。……そのエリザベートは吸血種になって魔力量を増してしまったけれど。
「ふむ。ステファニーには魔法の勉強をしてもらわねばな」
勉強はどっちにしても必要なので無駄にはならない。
「さて。そうこうしている間にステファニーが『恩恵』を得る段が来てしまいそうだな」
「わたしが儀式を担当してよろしいのでしょうか?」
「其方以外に適任者がいるか? そもそも、あの子も其方を希望するであろう」
もう完全にステファニーの後ろ盾である。いいけど。
「儀式の担当者は『恩恵』の内容に関係ないと言われている。が、其方が関わるとまた大きな何かが起こりそうな気がするな」
「そうなったとしても、わたしではなくステファニー様の素養でしょう」
側室の取り扱いについては本人たちの希望も聞いたうえで隣国に打診する、ということでいったん落ち着いた。
セルジュの妻になるという意味では隣国行きが妥当。王妃になれるのだから話が違うということもないけれど、国が違えば勝手も違う。
こっちの国にいるほうがいい、という側室もいるだろうし、そういう者は、現国王と添い遂げるのか、清い結婚になる可能性を残してステファニーに嫁ぐのか、それとも貴族籍を得るのか決めてもらうことになる。
「魔法の開発も継続いたします。いずれにせよ、必要になる時が来るでしょうから」
「頼む。これに関してはエルフの血の入った者に頼る他ない」
そうして、そこから数ヶ月が経って。
年末と新年のあれこそが終わり、シルヴィア・トー、二十歳の一月、第十王女にして次期王位継承者であるステファニーは十歳を迎えた。
聞き取りの結果、王女が希望したのはシルヴィアによる儀式。
王位継承が内定しているため、儀式は多くの者が見守る中、広間で行われることになった。
本来、王が位置する場に立ち、朗々と儀式を進行。
──果たして、王女の前に紡がれた輝く文字列は。
あ、これまた波乱が起こるやつだ。
一行目を読んだ時点でシルヴィアはそれを察した。
ちらり、と国王&スザンナに目配せ。
当然のように「当たり障りのない範囲で誤魔化せ」と目で指示されたので、
「ステファニー様には、新たな時代を切り開くに相応しい『恩恵』が与えられました」
いやまあ、シルヴィアに神文字が読めることはまだ一応、公式的には秘密なのだけれど。
偉い人はだいたい察しているうえに、今ならバレても一生拘束とか暗殺とかにはならない。
そのうえで、誤魔化すのももちろん問題ない。普通の聖職者もこんな感じで適当言って読めないのを誤魔化すのだから。
それにしても。
『あなたは百合内政SLGの主人公だ。あなたの目的は憧れのお姉様の心を射止めることであり、多くの女性を虜としてその協力を得ることである』
百合内政SLGの主人公ってなんだよ。誰が決めたんだそんなこと。
……って、この感覚もずいぶん久しぶりな気がする。