わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「お母様、お願いがあります」
「お願い?」
部屋にやってきた愛娘はとても真剣な表情をしていた。
複数の女性と子供を儲けてみてわかったこととして、天使の血には『相手の種族的特徴を強調する』性質があるらしい。
純血に比べると──例えば竜とのハーフであっても好戦的性格が和らぐ傾向はあるようだけれど、この性質のせいか、髪の色や目の色もシルヴィアではなく相手の色に似やすい。
というわけで、やってきた娘──リュミエールはクレールによく似た金髪と黄緑色の瞳を持っている。
性格は、やんちゃだったクレールの子供時代──いや、うん、ぶっちゃけ今もあんまり変わってないけど──よりもだいぶ落ち着いている。
髪も、母と同じポニーテールではなく、動きの邪魔にならない程度まで切って整えるほうを選んだ。戦っている時でも可愛さを忘れたくないらしい。
夢は「エリザベート様のような立派な騎士になること」。
実の母親はこれに不満を抱いており、
『なんであたしじゃなくてエリザベートを目標にするの!?』
と、娘に面と向かって文句を言っていた。
リュミエールはこれにしれっとした顔で、
『お母様の剣術は独特すぎて真似できる気がしません』
との主張。これに「うん、わたしもそう思う」と答えたら「どっちの味方なの!?」と泣きつかれたのもいい思い出である。
それはともかく。
彼女が折り入って相談と言うからには大事な話なのだろう。シルヴィアは書き物をしていた手を止めて娘に向き直った。
「どうしたの?」
「あ……。すみません、忙しかったですよね?」
「気にしなくていいわ。あなたたち以上に大事なものなんてないもの」
リュミエールはまだ十歳だというのに気遣いができる。これは確かにエリザベートを目指すほうがいいかもしれない。
いや、クレールが優しくないという意味ではないけれど。
クレールの場合、例えばシルヴィアが風邪を引いたら「どうしようどうしよう、とりあえず冷やせばいいんだよね!?」と慌てふためきだすので、気遣いとは別の理由で台無しになる。
その分、気兼ねもしなくて良かったので、良し悪しというか、個性の範疇だけれど。
「それで、どうしたの? なにか悩み事?」
「はい。あの、実は……」
半竜と天使のハーフであるリュミエール。
神託はどうなるかと思ったら、しっかりと『騎士』を授かった。
ハーフエルフであるリゼットには与えられなかったことを考えると、天使との混血はハーフよりも人間よりという判断なのか。
ハーフ自体の例がまだまだ少ないのでわからないことは多い。
……話が逸れた。
騎士学校の寮に入り、普段はあまり会えない彼女──まとまった休みに家に帰ってきた娘は、意を決したように拳を握って。
「剣の練習に付き合ってほしいんです!」
「……え?」
「え?」
なにそれこわい。……ではなく。
「なんだ、そんなこと? もっと大変な話かと思ったわ」
身構えすぎて肩が凝ってしまった。
「そのくらいならいくらでも付き合うわ。……いつがいいかしら? 今からでもいいけれど」
一方のリュミエールはぽかん、とシルヴィアを見て。
「いいんですか? ……お母様、忙しいのに?」
「あなたたちよりも大事なものなんてない、って言っているでしょう? ……だいたい、わたしは偉いんだから。少しくらい仕事が遅れても大丈夫なの」
なお、この国で一番偉い王様──もとい女王様は仕事の遅れが民の不幸に直結しかねない大変な役割なのだけれど。
彼女に関しても、シルヴィアたちが尽力して国を安定させたおかげで判断のための猶予はかなりあるし、相談できる相手もたくさんいる。
「でも、剣ならクレールのほうが適任だと思うけれど?」
すると、リュミエールは了承を得た安堵からかほっと息を吐きつつ「母様は駄目です」と言った。
「強すぎるうえに感覚的すぎて参考になりません」
「あー……」
なるほどよくわかった、と、シルヴィアは頷いて、
「木剣でいいのよね? 着替えたら中庭に行くから待っていてくれる?」
「っ。はいっ、ありがとうございます、お母様! やっぱりお母様は頼りになります!」
と、話がまとまったところで。
「ちょっと待った! それじゃあたしが頼りにならないみたいじゃん! これでも『純粋な戦闘力なら国一番』って言われてるのに!」
部屋に飛び込んできたもう一人の母親には生温かい視線を送って。
「あのねクレール。それは『総合力なら他に格上がいる』ってことだよ?」
「騎士には指揮能力も重要ですからエリザベートお母様のほうが役に立ちますし、集団を相手取るならイザベルお母様が一番ですよね」
「なんで二人してあたしをいじめるわけ!? そんなこと言ってると実家に帰ってやるから!」
「誰からその脅しを教わったのか知らないけど、むしろクレールはもう少し実家帰りなよ……?」
クレールが参加すると言って聞かないので仕方なくアドバイザーという形で同席してもらうことにした。
◇ ◇ ◇
「懐かしいなあ、この感じ。昔に戻ったみたい」
「あはは。シルヴィアは忙しいもんね。最近は剣も振ってなかったんじゃない?」
「天使の身体だと衰えも少ないからついついサボっちゃうんだよね……。もしかしたら半年ぶりくらいかも」
とはいえ、木剣を握る感触は覚えている。
天使に変わったことで感性が時間経過に強くなっているのだ。記憶力が上がり、身体に覚え込ませた内容も忘れにくくなっている。
人と同じリズムに身を置いていないとついついのんびりしたくなってしまう、という弊害もあるけれど、使い方によっては便利だ。
訓練着を身に着け、向かい合うように立つと、さすがに様になった様子で立ったリュミエールが、
「お母様も昔は毎日のように剣を振っていたんですよね?」
「ええ、そうよ。子どもの頃の話だけれど。自慢じゃないけれど、騎士学校では最劣等生だったの」
「嘘ばっかり。最優秀だったくせに」
「え? あの、どっちが本当ですか?」
前にも聞かせてやったことはあるのだが、あらためて言われると不安になるのか困惑する娘。
「最劣等生が正解よ。最優秀だったのは座学だけ」
「……あの、それは『ならすと平均』ということでは?」
「ちなみにクレールは実技で最優秀だったけれど、座学は最下位を争っていたわ」
「それは良く知っています」
「またそうやってあたしをいじめる!」
ともあれ、騎士学校生にして座学の重要性を知っているのは将来有望と言わざるをえない。
あの学校も教師が代替わりして『銀百合』出身者が入ったりしているのでそのあたりの影響もあるのだろうか。
「さて。それじゃあ、リュミエール? 本気でいくから覚悟しなさい?」
「え? あの、お母様。ある程度手加減していただけると……!?」
「わたしの腕じゃ本気でやってもあなたに勝てるかわからないもの……!」
というわけで、シルヴィアは十歳の娘相手に本気で打ちかかった。
結果は、
「はぁ……っ、はぁ……っ! あれ、わたしひょっとして、思ったよりは強い?」
半泣きになったリュミエールが親譲りの怪力と戦闘センスを発揮するも、木剣ではそれを活かしきれず、シルヴィアの勝利。
「いや、そりゃ天使になって身体能力上がってるし、観戦経験なら相当やばいじゃん」
「お母様、攻めは単調なのに守りは別人のようです。しかも時折驚くような精度であたしの隙を突いてくるので……」
「あはは。でも案外、リュミエールの相手にはちょうどいいんじゃない?」
「……母様、それは暗に自慢していますね?」
「そ、そういう意味じゃないけど! ……あ、そうだシルヴィア、たまにはあたしとも手合わせしてよ!」
「いいけど、わたしじゃクレールの相手にならないよ?」
「いいじゃない。なんなら神聖魔法使ってもいいから」
「いや、それじゃ実戦と変わらないし」
などと言いつつも、昔のように木剣で、打ち合わせた武器が折れないように、というレギュレーションで戦うと、意外と楽しめた。
「あははっ。こういうのもいいよね。これからもたまにやろうよ、シルヴィア」
「……ん。そうだね。こういうのもたまにはいいかも」
なお、三人だけで盛り上がったことを知ったシルヴィアたちの次女が後で拗ねて大変だったのだが、それはまた別の話である。