わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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『吸血令嬢』と『天使』の娘

「いらっしゃいませ、お母様。お待ち申し上げておりました」

 

 デュヴァリエ公爵家へ久しぶりに訪問すると、公爵家の使用人たちと共に一人の少女が出迎えてくれた。

 母親譲りの金髪に、紅の瞳。

 シルヴィアは微笑み、しばらくぶりに会った娘をぎゅっと抱きしめる。

 

「久しぶり、カミュラ。元気そうで良かった」

「ん……っ。お母様、このように玄関で、恥ずかしいですわ」

 

 言いながらも大した抵抗をしてこないのが可愛らしい。

 十二歳。今度、貴族学校へ入学する歳ではあるものの、まだまだ甘えたい年頃である。

 もう一人の母親は、ちょっと厳しいところがあるし。

 

「エリザベートは一緒じゃないの?」

 

 尋ねると、「あら、そんなにわたくしに会いたかったんですの?」と、少し離れた場所から声がした。

 歩いて来るのは、美しい真紅のドレスを纏った美女だ。

 着飾った姿を何度も見ているはずのシルヴィアでさえつい見惚れてしまう美しさ。

 カミュラは、はあ、とため息をついて額に手を当て、

 

「母様ったら、お母様がいらっしゃるからとお洒落に『これでもか』と時間をかけておりまして」

「カミュラ。それは言わない約束でしょう?」

「見ればわかるではありませんか。……しかも、そこまでしておきながら『真打ちは少し遅れて登場するのが美しいのですわ』と、わざわざ遅れてくる始末で」

「……カミュラ。後で覚えておきなさい?」

「エリザベート……。実の娘を脅さないでよ」

 

 ジト目を送ると、さすがに形勢不利を察したのか、エリザベートは視線をそらした。

 

「ともかく、ようこそシルヴィア。愛人(わたくし)の実家へ」

「うん。でも、なんかその言い方だと悪いことしてるみたいだなあ……」

 

 苦笑するシルヴィア。

 妻、ではなく愛人、なのは結局、エリザベートとはこの国の制度で言うところの『結婚』はしなかったからである。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「良く来てくれたな、シルヴィア。ぜひゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます、公爵様。お元気そうでなによりです」

「ははは。位は息子に譲ったのだから、私はもう公爵ではない。どうか別の呼び方をしてくれないか」

「う。ええと……失礼いたしました、()()()()

「うむ。うむうむ。実にいい。娘が嫁に行くどころか、可愛い娘が増えるとは素晴らしいな」

 

 デュヴァリエ公爵──公爵位を息子、つまりエリザベートの兄に譲ったため現在は『前公爵』──との交渉により、シルヴィアとエリザベートの間に産まれた第一子は公爵家の預かりと決まった。

 その約束通り、二人の長女であるカミュラは公爵家の一員として育てられている。

 

「まったくもう。娘が結婚もせず愛人に甘んじていることを喜ぶ父親がどこにいますの」

「仕方なかろう。娘を嫁にやりたい父親など世界のどこを探してもいないのだ」

「お祖父様、さすがに言い過ぎでは?」

「いいや、いない。その辺りの男親の機微は、カミュラの母親達にはわからないかもしれないが」

 

 エリザベートと正式な婚姻を結ばなかったのは、結婚したうえで娘を公爵家に預けるといろいろややこしいからだ。

 ぶっちゃけエリザベートとしても『複数人いる子爵夫人の一人』より『公爵令嬢』のほうが権力を振るいやすい。

 かといって公爵家にシルヴィアが婿入り(?)するのも他の結婚相手からブーイングが来る。

 

『なら、わたくしは愛人で構いませんわ。少なくとも、旧制度における建前上は』

 

 結婚式は挙げたし子供もいる。仲も睦まじく、そのうえでデュヴァリエ姓を名乗るというのは内縁の妻というか夫婦別姓と言うか、要するにそんな感じだ。

 ただ、さすがに国王も「女は結婚して相手方の家に入る」のが普通のこの世界で夫婦別姓を承認してはくれなかった。

(子爵に嫁いだのに公爵令嬢を名乗るとかがまかり通るとなんかチートくさいことになる)

 なので表向きというか、現状の制度上は愛人ということになっているのである。

 

「両親が婚姻を結んでいないことを、カミュラが周囲から揶揄されないか、その点については心配で仕方ないがな」

「あら。そのような輩は確認次第潰しますので問題ありませんわ」

「母様のお手を煩わせずとも、わたくしが自分で黙らせますけれど」

「二人とも何を言う。お前達より先に私が手を回すとも」

「デュヴァリエ家の血族はみんな逞しいですね……?」

 

 ついドン引き、もとい、気後れしてしまうシルヴィアであった。

 気持ちはわかるけれど、シルヴィアはいまだそういう実力行使には疎い。やるとしても神聖魔法で浄化ビームを撃ってから『お話し合い』をするくらいである。

 ……そのほうがある意味ひどいとか言ってはいけない。

 

「ところで、やっぱりジャンヌは一緒に来られなかったんですのね?」

「うん。神殿の修行がいいところだから、終わり次第こっちに来るって」

「残念ですわ。あの子ったら、お母様に似て頑張りすぎるところが玉にキズですわね」

「それはエリザベートに似たんじゃないかしら」

「どう考えてもシルヴィアですわ」

 

 ジャンヌはカミュラから見て『腹違いの双子の妹』である。

 産みの母が違う時点で正確には双子ではないのだけれど、作ったタイミングが一緒なので似たようなものである。

 生まれた日付もたったの一週間しか違わない。

 

 吸血種が子孫を残すやり方は、相手の血を吸った際に自身の『因子』を送り込むという方法だ。

 これを人間に使うと『眷属』化させて従属させることもできるし、お互いの子供を作ることもできる。

 人間の男性相手に通常の性行為で妊娠することもできるものの──吸血種の特性が強く受け継がれるのは吸血を介した方法のほう。

 

「ジャンヌは『従属派』の性質が濃く出てしまったのもありますわね。……まあ、シルヴィアの娘では無理もありませんけれど」

「わたしはそんなに世のため人のためとか考えてないよ?」

「お母様、まったく説得力がありませんわ」

 

 解せぬ。いや、もちろんみんな仲良くが一番ではあるけれど。

 どうやら、天使の血は混血しても強く発現しにくいものの──天使自身が相手種族の子を産んだ場合は比較的強く性質が受け継がれるらしい。

 天使の平和主義と、吸血種(従属派)の他者に尽くしたがる性質を持って生まれたジャンヌは『神託』を受けることなく自分から神殿入りを望んだ。

 吸血種の力を制御するためにも、神聖魔法を学ぶためにもそれが一番いい、と考えたのだ。

 そうして今は『聖女』となったセラの元で日々修行に励んでいる。

 神殿としても(吸血種の血は余計ではあるものの)天使の子であるジャンヌを歓迎しており、便宜上『聖女見習い』と同等の地位に置いている状態だ。

 

「『支配派』や『従属派』の性質って遺伝するわけではないんだよね。ちょっと不思議」

「あくまでも性格が両極端に振り切れやすい、という話なのでしょう? わたくしは特にどちらの派閥でもありませんし」

「え? 母様はどう見ても『支配派』でしょう?」

「わたくしは高貴なる者の務めとして民に尽くしておりますわ。そういう意味では『従属派』の性質も持っていますでしょう?」

 

 ね? とばかりに視線を向けられたシルヴィアは「そうだね」と微笑んで頷いた。

 実際、エリザベートは面倒見のいい親分肌である。

 ……親分と言えば。

 

「カミュラはエリザベートよりも『支配派』よりなのよね」

「そうですわね。デュヴァリエ家の者として節度は弁えているつもりですけれど、ついつい、下の者をいじめたくなってしまうことがあります」

「権力を振りかざすのはあまり良くないんじゃないかしら」

「わかっておりますわ。わたくしがいじめる相手はフィニスだけですからご安心くださいませ」

 

 突然名前を呼ばれたことで、部屋の隅に控えていたカミュラの専属メイドがびくっと震えた。

 歳はカミュラよりもいくつか上。

 デュヴァリエ公爵家のお仕着せが良く似合っている彼女は、シルヴィアとシャッテ──吸血種の王家の血統にしてトー家のメイドの一人──との間に生まれた娘だ。

 瞳に涙を浮かべながら怯え顔になった彼女の口からはかすかに、尖った牙が覗く。

 そして、瞳の涙とは対照的に頬は紅潮しており──単に怯えているのではなく、いじめられるのを彼女なりに愉しんでいることが伺える。

 

 彼女の母親も「踏んでください」とか真面目にお願いしてくるタイプなのだけれど、どうやらフィニスは母に似たらしく。

 

「カミュラにとってのフィニスは、わたくしにとってのイズみたいなものですわね」

 

 いや、それじゃエリザベートがイザベルをいじめてたみたいじゃん。

 子分といい関係を築けている、という意味では似たようなものかもしれないけれど。

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