わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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神殿の娘たち

 きゅー!

 

 神殿に行くとすぐ、白いふわふわがシルヴィアに群がってきた。

 本当に増えたなあ、と思いつつ、一匹一匹撫でて「こんにちは、みんな」と挨拶する。

 

 うさぎたちはすっかり神殿──どころか都のシンボルである。

 隣国の都でもけっこう増えているらしいし、勝手に馬車に乗り込んで他の村や街に行き、そこで数を増やしたりもしている。

 力を使いすぎると消えてしまう儚さも持ち合わせているので、国中に広がるにはまだ時間がかかりそうだけれど。

 

「神聖魔法の癒やしも、そのうち必要なくなっちゃうかもね?」

 

 実際、聖職者の仕事はかつてよりもかなり減っている。

 都内の病人・けが人が大きく減ったのと、国内の浄化によって魔物の発生が減っているからだ。

 その分、神殿は布教活動の強化や古い伝承の研究、伝統行事の復活に力を入れている。

 

 交通網の整備も進み、前より楽に移動できるようになったのもあり、小さな村にも小神殿を置いて聖職者を常駐させる動きまで生まれている。

 

 その分、神聖魔法を練習する機会は減っているのだけれど──。

 これに関しては今のところ、目立ったレベルの低下は置きていない。それどころかレベルは上がっているくらいだ。

 何故かと言えば、

 

「シルヴィア様、ようこそおいでくださいました」

「こんにちは、セラ。わざわざ出迎えに来てくれたの?」

「もちろんです。シルヴィア様ったら、なかなか顔を出してくださらないのですから」

 

 新しい世代の『聖女』たちの尽力が大きいだろう。

 

 シルヴィアの来訪を感覚で感じ取ったのか、()()()()()()()若い女性が入口近く、うさぎたちに足止めされたシルヴィアの元へと歩いてくる。

 セラ──かつてシルヴィアに憧れ、天使になることを志し、神殿に入った彼女は無事にその身を天使へと変じさせた。

 十八の時に天使化したので見た目はシルヴィアよりも年上だが、今でも変わらずシルヴィアのことを慕ってくれる。

 

 今では「セラフィーナ」と名を変えた彼女と共に奥へと歩きだしながら、

 

「聖女の仕事は順調?」

「ええ。アンジェリカ様の頃と違って、神殿内の業務はほとんど分業していますし。伝承の復活はとても楽しい作業ですので」

「本当大きくなったなあ。……やっぱりセラフィーナ様って呼んだほうが良くない?」

「やめてください。シルヴィア様にそんな風に呼ばれるなんて恐れ多いです」

 

 同じ天使なのに。なんなら『聖女』を兼任してる分だけセラ──セラフィーナのほうが上なのに。

 と、そこで彼女は苦笑して、

 

「ただ、後進の指導は少し大変かもしれません。少々、人数が多いもので」

「そうだよねぇ……。歴史上始まって以来の人数だもん」

 

 他人事のように言っているものの、原因の何割かはシルヴィアにあったりする。

 

「うちの子たちが迷惑かけてない?」

「いいえ、とてもいい子たちですよ。……いい子、などと言うのも恐れ多いですが」

「もう、みんな普通の子供だってば」

 

 『聖女』とその見習い専用の部屋として用いられていた『聖女の間』は、聖女クラスの人員が一気に増加したことにより手狭に。

 今は『聖女の間』に近いいくつかの部屋もまとめて聖女、および聖女見習い、そして『天使』専用として使われていて、

 

「いらっしゃいませ、お母様」

「ようこそおいでくださいました、シルヴィア様」

 

 二人の天使と四人の聖女見習い、そして一人の準聖女見習いがそこを利用している。

 シルヴィアは彼女たちに微笑みかけた後、白い衣を纏った聖女見習いに歩み寄って、

 

「もう、ジャンヌ。修行は早めに切り上げなさいって言ったでしょう?」

 

 ふにふにの頬を右手で摘まんだ。

 少女はさすがに「う」という顔をしたものの、

 

「で、ですがお母様。もう少しでちょうど一冊、文献の現代語訳が終わるのです」

「直近で必要な研究ではないでしょう。ほら、帰る支度をしなさい」

「……かしこまりました」

 

 口論の後、しぶしぶ荷物をまとめに部屋に戻っていった。

 

「もう、あの子は。少し頑張り過ぎだと思うのだけれど」

「お母様に似たのではないのでしょうか」

「ジャンヌお姉様にはわたしたちからも申し上げたのですが、気持ちはわかりますのであまり強くは言えず……」

「ううん。ありがとう、ラファエラ、ルシエラ」

 

 二人の天使はシルヴィアとアンジェの間に生まれた子だ。

 例によって(?)産みの母親が違う双子のような存在。

 天使と天使の間に生まれた子は天使になる。

 生まれた時から翼と聖紋を備えていた彼女たちは、自然と神殿で多くの時間を過ごすようになった。

 貴族令嬢としての資格も持っているので成長したら貴族学校に通うことになるけれど、ジャンヌよりも年下なのでまだ少し先の話である。

 

「そうだ、二人も一緒に来る? みんな大歓迎だと思うけど」

「いいえ、私たちは遠慮しておきます」

「家族水入らずを邪魔してはいけませんから」

「二人だって家族なのに」

 

 アンジェとシルヴィアが良く似ていることもあり、本当にそっくりな二人は顔を見合わせると「それはそれ、これはこれ、です」と答えた。

 うん。礼儀作法はきちんと習っているのに、ときどき妙にラフな言動が出るのもシルヴィアのせいだろう。

 

「家族水入らずでしたら、そのうち母様も交えてお話をしたいです」

「その時はレナスも呼びませんか? それからアンジェリカ様も」

 

 レナスはアンジェリカとの間に生まれた娘だ。

 マルグリットとサラの娘は特別なので、便宜上、シルヴィアの長女ということになっている。

 残念ながらいまここにはいないものの、これは天使の里に滞在しているからだ。

 天使と聖女の子であるレナスは生まれながらに聖紋を宿していた。

 

 聖紋の力は十歳の時には制御が可能になり──シルヴィアとアンジェリカは相談の上、レナス本人に選択を委ねた。

 結果、彼女はある程度身体が出来上がってからの天使化を希望。

 今は立派な翼を持ち、国内六人目の天使となった。なお、三人目から五人目まではセラとラファエラとルシエラ。

 ……多いな天使?

 

 あらためて情勢の変化をしみじみ実感していると、四人の聖女見習いたちがくすくすと笑みをこぼした。

 

「シルヴィア様とお話されているのを聞いていると、ラファエラ様もルシエラ様も、ジャンヌ様も私たちと変わらないのだな、と実感します」

「当然でしょう? 人も天使も、親から生まれて成長していく生き物なのだから」

 

 聖女見習いたちは年齢にバラつきこそあるものの、みなモチベーションが高く、神聖魔法の素養にも優れている。

 セラ(現セラフィーナ)と同様、天使の出現によって神殿や聖女に親しみを持ち、その影響で『神託』を受けた者たちだ。

 四人のうち最年長の少女はそろそろいい年齢に差し掛かっているので、セラフィーナは聖女業務の継承や進路の確認を検討し始めているらしい。

 

 さすがに聖女見習い全員が、あっさり天使になるとはシルヴィアもセラフィーナも思っていない。

 むしろ全員が聖女のままを希望してもおかしくないだろう。

 もちろんそれでもいいし、そうなったとしても神殿としてはかつてない大豊作だ。

 ゆくゆくは国内第二の都市にも『聖女』を置けるかもしれないし、同盟国となった隣国に行ってもらうこともできるかもしれない。

 

 夢も希望も、未来への展望も、次々と新しく生まれていく。

 願わくば少しでも、人々にとって幸せな未来を。

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