わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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またしても無茶振りがやってくる

「リゼット様にもご迷惑をおかけしました。お陰さまでカトレア様と仲直りができました」

「わたくしはなにもしておりません。大事なく事を収めることができ、本当に良かったと思います」

 

 ハーフエルフの公爵令嬢とお茶をするのもこれで何度目だろう。

 王族寮の守衛にも顔を覚えられてしまった。「リゼット様への面会ですか?」と普通に尋ねられるあたり、信用を得られたと同時に「またか」と思われている節がある。

 今回の用件はカトレアの件の報告とお礼。

 お詫びの品はシルヴィアでなければ用意できない特別な菓子──芋羊羹。神聖魔法で生み出したそれを箱詰めして贈るとリゼットは目を輝かせ、毒見を担当した中年メイドが「これはなかなか……」と感嘆の吐息を漏らす。

 

「美味しいのかしら?」

「ええ。飲み物が欲しくなる味ですね。少し苦味のある紅茶のほうが合うかもしれません」

 

 用意された紅茶は芋羊羹によく合った。

 個人的には緑茶、あるいはコーヒーだけれど紅茶でも美味しい。和菓子の中では比較的、洋菓子に近いテイストなのも良かっただろう。

 リゼットは芋羊羹を半分ほど食し、喉を潤したところで再び口を開いて、

 

「ですが、カトレア様の協力者には知らぬふりを通されてしまったようですね」

「そうですね……。そもそも、実害が出たわけではありませんし」

 

 衣をワインで汚された程度で、それもカトレアの仕業だ。

 

「声を大にすれば十分、大事にできると思いますけれど……。それがシルヴィア様の魅力なのかもしれませんね」

「そんな。ただ、悪意を向けるのも向けられるのも避けたいだけで」

「だとしても、まっすぐに対話を求める姿勢は評価されるべきものです」

 

 紫の瞳がどこか楽しげに揺れて、

 

「潜在的な支持者は増えていると思います。おそらく、シルヴィア様を『平民上がり』と罵る声は今までより抑えられるでしょう」

 

 良く言えば「貴族社会に認められた」と言うことか。

 

「わたしには野心なんてないので、そっとしておいてくれればいいんですけど」

「あなたに期待している人がいる以上は皆も放っておかないでしょうね」

 

 少女の言葉はまるで「わたくしもその一人だ」と言っているかのようだった。

 

「シルヴィア様はなにを目指していらっしゃるのですか?」

 

 似たような意味合いの話は前にもしたことがある。

 その時は女性の地位向上だと答えたのだけれど。

 

「……本当に、大したことじゃなくて。わたしはただ、わたしが好きな人と一緒にいられる場所を作りたい。ただそれだけなんです」

「では、将来を共にしたい殿方がいらっしゃるのですか?」

「男の人じゃありません。一緒に戦って、仲良くなった、大切な人たちで」

 

 友人、と誤魔化すことはできなかった。

 単なる仲良しで終わりたいとは思っていない。いや、終わりたくない。

 ぴろんぴろん。

 

「女性が生き方を選べない社会にも本当は変わって欲しいんです。……リゼット様が産まれだけで差別されるのだって、おかしいでしょう?」

 

 ぴろんぴろんぴろん。

 立て続けに鳴る効果音がちょっとうるさい。

 慣れてきて普段は無視することが増えているので気になりだすとなおさらだ。ついつい好感度表示を睨みつけるとリゼットに怪訝そうな顔をされてしまった。

 こほん。表情を戻すと変な空気は散って、

 

「わたくしの母──人間のお母さまも批判をされることが多くあります」

「陛下に対する不敬という意味では仕方ないのかもしれません。でも、女性同士だからだめ、というのはおかしいですよね?」

「そうですね。……ですが、そう思う人間はこの国では少数でしょう」

 

 人は同性同士で子を成せない。

 子孫を残せない以上、同性愛が推奨されないのは仕方ない。

 教育によって「男女で子を成すのが当たり前」とされるのも。

 

「エルフは女同士で子供を作れます。シルヴィア様、どのような方法が用いられているかご存じですか?」

「魔法の力を使って、ということくらいは」

「その通りです。特殊な魔法で互いの血を交わらせ、一方の胎に子を宿させます」

 

 正確にはおそらく遺伝子的な操作か。

 言い方的に「男性器を生やす」とかではなさそうで安心したような、逆に想像が追いつかなくなったような。

 ここでシルヴィアは「あれ?」と思った。

 エルフは件の魔法が使える。それは相手が人間でも構わないらしい。では、

 

「あの、リゼット様。ハーフエルフもその魔法を扱えるのでしょうか」

 

 見た目はシルヴィアと大きく変わらない──本当はもっと長く生きている少女は少し大人びた笑みを浮かべて、

 

「使い方さえ教われば、ハーフエルフも同性で子を成せるそうです」

「それは」

「ハーフエルフと人間の子供では魔力が少なくなりすぎて不可能のようですが、人の可能性、と言えるのかもしれません」

 

 この世界において一般種族と上位種族を分けるのは「女同士で子供を作れるかどうか」。

 エルフとの混血によりハーフエルフを増やすことは種族的な進化を促すブレイクスルーになりえる。

 例えば、人間の中で特に魔力の多い者とハーフエルフの子供なら? ハーフエルフとハーフエルフの子供なら? エルフの血が混じる人間同士の子に隔世遺伝が起こったら?

 

 指が震える。

 

 リゼットが隔離されている理由はなにも「珍しいから」とか「国際的な問題」だけではなかったのだ。

 ハーフエルフの婚姻は国が管理しなければ、人という種族の在り方が根本から変わってしまいかねない。

 

「リゼット様は、エルフの魔法が使えるのでしょうか?」

 

 少女は「いいえ」と首を振り、黄緑色の髪を揺らした。

 

()()()()()、わたくしが物心つくより早く母は帰国してしまいました。魔法を教わる機会はとてもありません」

「そう、ですか」

 

 平静を装って答えながら、シルヴィアはそっと胸を押さえた。

 鼓動が早い。

 

 ()()()()()

 

 別に告白されたなどとは思っていない。ただ、今の言葉は限られた相手にしか伝えられない。人づてに王家の耳に入ろうものなら最悪、処刑されてもおかしくない。

 約一ヶ月、短い間に少女からの信頼が重く大きくなっていることを実感する。

 リゼット様は女性がお好きなのですか。

 喉まで出かかった問いはギリギリで呑み込んだ。あまりにもデリケートすぎるし「あなたはどうなのですか?」と問い返されても困る。

 そっと目で窺ったリゼット様の頭上──好感度の数値は『75』を示していた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 入学から一ヶ月が過ぎ、カトレアの問題も解決したことで貴族学校での生活は落ち着きを見せた。

 新しい生活リズムに慣れてくれば余裕も生まれる。

 

 友人たち──主にエリザベートと手紙をやり取りして調べものを代行したりもできるようになった。ちなみにクレールは手紙を書こうとしては「ああもう、面倒くさい!」とペンを投げ出しているらしい。そして「週に一回は会えるんだから直接話せばいいじゃん」と落ち着くのだとか。

 後は運動がてら剣を振っては王子や男子生徒から「おもしれー女」扱いされたり。

 暇を見つけて神殿に顔を出せばアンジェ、それから聖女のアンジェリカまでもが歓迎してくれる。いつの間にか神聖魔法の腕でも一目置かれているらしく他の巫女や聖職者からも顔を覚えられていた。

 

 一方、他の一年生や上級生からお茶会に誘われることも増えて。

 余裕が生まれれば新しい用事が詰め込まれるのは前世でも今世でも変わらないらしい。

 卒業したら今度は戦略家としてあくせく働くことになるわけで。

 ひょっとして貴族社会というのはブラック企業なのでは……?

 妙な悟りを開き始めた頃、シルヴィアとしても無関係ではいられないイベントが起こって。

 

「申し訳ありません、クロヴィス殿下。……何度求められてもわたくしの返事は変わりません」

 

 カトレアとシルヴィアの一件が過去になり始めたある日。

 夕食時の食堂に公爵令嬢の柔らかい、けれどきっぱりとした声が響いた。

 

「殿下には他の女性もいらっしゃるのですから、わたくしにこだわらなくてもよろしいのでは?」

 

 直後、食堂内に決して小さくないざわめきが発生。

 みんな「いつもとは様子が違うぞ」と感じ取ったからだ。

 普段のリゼットならばやんわりと、波風を立てない程度の断り文句でクロヴィスの誘いを受け流す。

 だからこそ王子が反省しないとも言えるけれど、だからこそ大きな問題になることなくこれまでやってこれたとも言える。

 今までにない強い言葉を向けられたクロヴィスも「むっ」と言葉に詰まって、

 

「リゼット・プレヴェール公爵令嬢。いくらなんでも失礼ではありませんこと?」

「悪いが、カトレア。お前は黙っていろ」

「カトレア・カステル伯爵令嬢。わたくしはクロヴィス殿下とお話をしております」

 

 抗議しようとしたカトレアが二人から一蹴された。

 助けを求めるように見られても困る。それはまあ、シルヴィアはたまたまリゼットと同席したので近くにいるけれど、王子と公爵令嬢の会話に割って入れるはずがない。

 と思ったら、あろうことかクロヴィスが寄ってきて耳うちしてきた。

 

「おい。お前が『神殿に繋がりを持つ』なんて選択肢を吹き込んだせいじゃないのか」

 

 こっちに振るんじゃない。

 

「恐れ入りますが、殿下。浮気性の男性を夫にするのはなかなか勇気のいることではないかと」

「つまりカトレアと別れればいいということか?」

「殿下、それではお話が違うではありませんか!?」

 

 そういうところだぞ俺様王子。

 似たようなことを思ったのか、リゼットはため息を吐いて、

 

「失礼を申し上げました、大変申し訳ございません。……ですが、わたくしには殿下に対する恋情が存在しないのです。どうかご理解いただけませんか?」

「だが、愛着など後からついてくるのが貴族の恋愛だろう?」

「幸い、わたくしには時間がございます。愛以外の条件を鑑みるのであればなおさら、今決断する必要はないかと」

「……おい、シルヴィア・トー。なんとかしろ」

 

 だからこっちに振るなと言うのに。

 

「申し訳ありません。わたしはリゼット様の味方です。ハーフエルフの寿命は人の倍以上あるのでしょう?」

 

 人の適齢期が16だとして32までは少なくとも問題ない。

 実際は老化の遅い種族なのでまだまだぜんぜん余裕だ。むしろ早めに出産しても子供の老衰を見守る羽目になりかねない。

 と、クロヴィスは「ぐぬぬ」とでも言いたげな表情を浮かべて、

 

「そこまで言うのであれば俺を納得させる覚悟があるのだろうな」

 

 いいから諦めろと内心思っていたら、彼の目が半分シルヴィアを向いていたのでさすがに寒気がした。

 それはまあ「わたしは無関係」とは言えないのだけれど。

 

「殿下、どうあろうとリゼット様を娶ろうと仰るのですか?」

「そうではない。だが、俺のプライドにかけてタダで退くわけにはいかん」

 

 多くの女を陥落させてきた遊び人のプライドなんて捨ててしまえばいいのに。

 にやりと笑った王子はシルヴィアを見て、

 

「婚約を代理決闘で呑ませようとした男がいたらしいな?」

「……その、負けて対価を支払わされていましたが」

 

 シルヴィアは微妙な顔をした。カトレアも微妙な顔をしていた。

 それはそうだ。思いっきりシルヴィアたちの知り合いである。

 まさかダミアンも王子様にネタにされるとは思っていなかっただろう。

 というか、注目がどんどん集まり始めているのだけれど。

 

「どうだ、リゼット。決闘でこちらが勝てば今後一切求婚はしない。その代わり、こちらが勝ったら俺の嫁になれ」

 

 まさに横暴な問いにリゼットは顔をしかめた。

 

「殿下。わたくしに騎士の伝手などないことをご存じでしょう?」

「伝手ならあるではないか。ほら、そこに」

 

 水を向けられたシルヴィアは若干顔をそむけたくなりながらも拳を握った。

 そういうことか。

 ついでにこちらにも嫌がらせをしたいのだろう。もちろん、こんなの受ける必要はないけれど。

 微笑んでリゼットを見る。

 

「もし必要であればわたしの力、リゼット様のために振るわせてください」

「シルヴィア様」

 

 かつてシルヴィアは親友を「わたしの騎士」に仕立て上げた。

 まさか今度は騎士役を務めることになるとは。

 それにこの話にはメリットもある。もし、第五王子の用意した相手を打ち負かすことができれば、今後の求婚を抑止することも可能だろう。

 なにしろ今度はこちらから「では決闘で決めましょう」と言えるのだから。

 

「わたしには伝手があります。設立予定の新騎士団。そのメンバーが力をお貸しします」

「……シルヴィア様。そうですね、わかりました」

 

 決然と頷いたリゼットは、まっすぐに王子を見て答えた。

 

「その決闘、お受けします。今回で決着をつけましょう、クロヴィス殿下」

 

 食堂内は大いに沸き、この話はあっという間に学校中に広まった。

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