わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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偉い人も意外と大人げない

 次の休日、貴族学校に物々しい一団が現れた。

 金属製の肌着の上からジャケット、マントを羽織り剣を刷いた街中における任務仕様。若手四名で構成された男性騎士を率いるのは一般騎士より数段豪華な装いのベテラン騎士だ。

 歳は今年で四十五。

 生徒たちに遠巻きにされる中、彼はさっと進み出ると一人の少女の前に跪いた。

 

「ご無沙汰しております、リゼット・プレヴェール公爵令嬢」

「ええ。騎士団長様もお元気そうで何よりです」

 

 答えたリゼットは普段よりも飾り気を抑えた動きやすいドレスに日よけ用の帽子という格好。

 中年メイドがさらにそれを日傘で守っており、どこからどう見ても「お出かけするお嬢様」だ。

 

 ──まさか、こんなに大事になるなんて。

 

 巫女の衣に身を包んだシルヴィアはリゼットの斜め後ろで深く一礼しながら内心呟いた。

 騎士団長。言うまでもなくめちゃくちゃ偉い人物である。

 ラシェルにとっては上司にあたるし、騎士学校の運営に関しても発言力を持っている。

 彼がなぜこんなところまで来たかと言えば、

 

「本日は私以下、この四名で護衛を務めさせていただきます」

「お忙しい中、わざわざありがとうございます」

「よく来てくれたな、団長。例の件もよろしく頼むぞ」

「無論です。当日までに殿下の剣術指導にもお付き合いしたいところですな」

 

 リゼットと騎士団長、そして人垣の中から現れたクロヴィスが説明してくれた。

 

「さて。其方が新しい戦略家の卵か」

「はい。シルヴィア・トーと申します。お目にかかれて光栄です、騎士団長閣下」

「うむ。先のゴブリン討伐の件は聞いている。なかなかの連携、其方の指揮の賜物であろう」

 

 緊張で喉がからからになるのを感じながら、シルヴィアは「滅相もございません」と答えた。

 

「試合の際はどうかお手柔らかにお願いいたします」

「ははは。無論、若い娘を全力で叩き潰すつもりはない。……我々としても力を見せぬわけにもいかないが、な」

 

 シルヴィアの銀髪をぽん、と叩いた彼はにっと笑うと、リゼットと今日の予定について確認を始めた。

 いやもう、本当、話が大きくなりすぎである。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 リゼットの結婚をかけた代理決闘。

 吹っ掛けた側であるクロヴィスは細かい条件設定をシルヴィアたちに委ねた。

 人数、使用可能な武器、戦場の広さなどなど。

 戦いに詳しくないリゼットに代わり、シルヴィアがこれを決めることになり、

 

『では、六対六の集団戦でお願いいたします』

『ふむ。ゴブリン討伐のメンバーを呼ぶつもりか? ……であれば、お前自身も戦闘に参加するのか』

『わたしがリゼット様から委ねられたのですから、引き下がるわけにはいきません』

『なるほど、面白い。ならば俺も参加するとしよう』

 

 面白がったクロヴィスは自身の参戦を決定した。

 

『互いの大将が討ち取られた時点で敗北でどうだ?』

『構いません。武器は刃を潰した訓練用のもので、殺傷力の低い魔法も使用可でお願いします』

『お前達には神聖魔法があるからな』

 

 ここでまさかのリゼットが口を挟み、

 

『でしたら、シルヴィア様。わたくしにもお手伝いさせていただけませんか?』

『リゼット様も戦うのですか?』

『人任せにするだけではわたくしの戦いとは呼べません。魔法を使えるのであればお役に立てるはずです』

『ならば七対七だな。こちらはそうだな、騎士団長でも呼ぶとしよう』

 

 大人げないにも程があるぞこの王子様。

 年齢的な衰えはあれど鍛えられた肉体、経験に裏打ちされた技術、卓越した指揮能力を持つ国内最高レベルの戦力。

 王族のコネを使えば呼べるだろうし、そうなると他のメンバーも騎士団員で固めてくるだろうけれど。

 ガチで叩き潰しに来るつもりか、と思いきや。

 ある程度のルールを決めたあと、決闘の日取りを約一か月後に定めた王子は人払いをした別室へと場を移して、

 

『言っておくが、これはお前達にとっても悪い話じゃないぞ』

『女性騎士対男性騎士の構図を作り出したいのかと思ったのですが……』

『逆に考えてみろ。騎士団長相手に善戦すればお前達の有用性を知らしめられるだろう』

『あ……』

 

 試合の中でなら騎士団長をぶん殴っても問題ないわけで。

 女性騎士もなかなかやるじゃないか、と思ってもらうにはもってこいだ。

 

『殿下、まさかそのために決闘を?』

『別にそれだけが理由ではないがな。そのくらいの利益がなければお前達も割に合わないだろう?』

 

 意外といろいろ考えているらしい。

 

『まさか騎士団長も全力は出すまい。そちらにも勝機はあるし、もしこちらが負けたとしても俺は女性騎士団設立に一枚噛める』

『やり口がちょっといやらしいです……』

『まあ、俺は我が儘だからな』

 

 と、いうわけで。

 エリザベートたちにはひとまず事情を手紙で伝えたうえ、次の休日に会って相談することになった。

 すると、これにリゼットが参加を希望。

 

『リゼット様、学校の敷地から出ても大丈夫なのですか?』

『正規の護衛を申請すれば問題ありません。要するに護衛というより監視なのですけれど……』

 

 で、護衛騎士を申請したところ「なら一緒に打ち合わせも済ませてしまおう」と相手方のリーダーである騎士団長が出張ってきた。

 おかげでいつもとは違い、馬車数台からなる物々しい雰囲気で新騎士団本部(仮)に移動することになり、

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「まさか、これほど早く実力を問われるとは思いませんでしたわ」

「ごめんね、エリザベート。わたしも売り言葉に買い言葉で」

「構いません。むしろいい機会かもしれませんし」

 

 到着した一団をいつものメンバー──エリザベートにラシェル、クレール、イザベル、アンジェが出迎えてくれる。

 少女たちからの挨拶をリゼットは微笑と共に受け、代表者であるエリザベートの手を取って「よろしくお願いいたさいます」と告げた。

 

「どうか、皆さまと共に戦わせてくださいませ」

「歓迎いたしますわ、プレヴェール公爵令嬢」

「リゼットで構いません。わたくしも皆さまの仲間なのですから」

 

 騎士団長にはラシェルが一礼して。

 

「騎士団長。こんな機会はなかなかありませんから、全力で戦わせていただきます」

「楽しみにしておこう。こちらとしても若手に経験を積ませるいい機会となる」

 

 王子側から打ち合わせに参加するのは騎士団長一人で、クロヴィスは不参加。

 残りの四人の騎士は同席こそするもののリゼットの護衛がメインであり、基本的に決定権はない。

 さほど広くはないテーブルに騎士団長、エリザベート、リゼット、それからシルヴィアがつき、残りのメンバーが背後に控えたところで。

 若手男性騎士の一人が苦笑と共に、

 

「一年目の新人一人に残りは学生とは。騎士団長、これでは弱い者いじめではありませんか」

 

 後から聞いたところ、この時クレールは「ぶん殴ってやろうかと思った」とのことである。

 騎士団長は「弱い者いじめか」と、肯定も否定もせずに呟いて、

 

「では、お前はゴブリンが相手でも弱い者いじめと笑うか?」

「いいえ。ゴブリンは害のある魔物ですから確実に駆除します」

「そうか。民に被害が出ては厄介だからな」

 

 騎士は褒められたと思ったのか「はい」と笑みと共に頷いた。

 シルヴィアには「敵を侮るな」という戒めに聞こえたのだけれど。

 エリザベートは頬をひくっと動かした後、何事もなかったように微笑を浮かべて、

 

「ゴブリンとは交戦経験がございます。皆さまは比較にならない強敵ではございますが、実戦に基づく連携で実力の差を埋められればと」

「ほう。これは思った以上に楽しめるかもしれんな」

 

 騎士団長からの賛辞に男性騎士たちが顔をしかめる。

 とはいえ特にそれ以上の暴走はなく、打ち合わせは順調に進んだ。

 場所は貴族学校内の一角。

 (シルヴィアの感覚で言うと)サッカーコートほどの広さのフィールドが舞台に決まった。

 後の細かいレギュレーションはエリザベートにお任せ。シルヴィアたちが勝った場合はクロヴィスからリゼットがつき纏われなくなるのに加えて一人一つずつ望みの褒美がもらえることになった。

 

「では、シルヴィア様。わたくしは先に戻らせていただきます」

「よろしいのですか? もう少しみんなと話をしても」

「わたくしがいては騎士の皆さまも帰れませんので」

「お心遣い感謝いたします。……来週はわたくしたちが貴族学校を訪問したほうが良さそうですわね」

「そうですね。決闘の場を実際に見て訓練もできますので」

 

 次は決闘対策を行おうと約束して、リゼットは貴族学校に戻っていった。

 去り際、最初に失言をした男性騎士が、

 

「当日を楽しみにしておけよ」

「……あの男は剣の錆にしても問題なさそうですわね」

「エリザベート様。殺害は反則負けになってしまいます」

「わかっているわ。そのくらいの気持ちで臨むというだけよ」

 

 ため息をついた令嬢の言葉に、残ったメンバーは誰もノーと言わなかった。

 男性の横暴には慣れっことはいえ不満はある。

 

「みんな、突然のことで申し訳ないけど……力を貸してくれる?」

「なに言ってるの。当たり前でしょ?」

 

 シルヴィアの問いかけに黄緑色の髪の剣術少女が真っ先に答えた。

 

「またみんなと一緒に戦えるんだよ? 腕試しにもちょうどいいし、ぶっ飛ばしたい奴もできたし」

「そういうこと。こんな機会滅多にないし、思いっきり楽しめばいいんだよ」

「集団戦なら私の弓もお役に立てると思います」

「共にリゼット公爵令嬢をお守りしましょう、シルヴィア様」

「みんな……。うんっ、一緒に頑張ろう」

 

 他のみんなも、一言も文句を言わない。

 逆の立場だったらどうだろう。……うん、みんなのためならきっと、できる限りのことをしただろう。

 仲間で、友達で、戦友だから。

 

「でも、騎士団長まで出てくるんじゃかなり厳しいよね」

「……そうですわね。とはいえ、付け入る隙はあります」

 

 一つはさっきも言った連携。シルヴィアたちは気心の知れたメンバーが中心だが、向こうは歳の違う急造パーティ。息の合い方には差が出てくる。

 一つはやる気の差。騎士団長以外のメンバーがあんな調子では本当の力なんて発揮できない。

 そして最後に、

 

「こちらの恩恵も最大限に利用させていただきましょう」

 

 使用人たちに耳栓をさせたうえで、とっておきの相談。

 

「ゼリエとヴァッフェの一件で手ごたえを掴めました。このひと月と少し、もちろんさらなる飛躍のために鍛錬を行ってきました」

「あたしだって前よりもっと強くなったよ! 今なら騎士団長の剣も受けられるかも」

「うん。みんなの力をもっと伸ばす方法を考えよう。できれば新技も欲しいよね」

 

 経験と訓練によってエリザベートたちも恩恵への理解度が高まっている。

 今まで噛み砕いた説明しかしてこなかったけれど、もう少し踏み込んで教えてもいいかもしれない。

 こちら側にはシルヴィアとアンジェの神聖魔法、リゼットの魔法もある。

 正規騎士にも引けを取らないクレールたちの武力をうまくサポートしてやれば、きっと。

 

「戦うからには勝つつもりでやらないとね」

「シルヴィアさん、いつもより燃えてますね?」

「む。もしかしてあのリゼット様のこと、そんなに好きなの?」

「違うよ。……ううん、もちろんリゼット様のことは好きだけど。そうじゃなくて、あの人のことを助けてあげたいの」

「あはは。わかってる。前にも言ってたもんね」

 

 みんなで勝利をつかみ取ろう。

 そのためにも出来る限り自分を高めなければ。

 忙しい中、シルヴィアたちは時間を見繕って決闘の準備を始めた。

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