わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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事前準備はとても大切 その2

「ここに来るのは初めてだなあ……」

 

 上級騎士学校は騎士学校に隣接するように存在している。

 といっても敷地の端の外壁同士が接しているだけで、たまに向こうから掛け声が聞こえてきたくらい。

 あらためて訪問するのは関りが薄くなってからになった。

 門番に用件を伝えると「話は聞いております」と軽く頷いて、

 

「何か身分を証明するものは……と言ってもその服自体が証明か」

「ありがとうございます」

 

 制服を着てきたのは正解だった。

 

「念のため、荒っぽい奴には気を付けてくださいよ、お嬢様」

「お気遣いありがとうございます」

 

 スカートを摘まんでの礼も少しは様になってきただろうか。

 後ろにゼリエを伴って門をくぐると、前後から視線が注がれるのを感じた。

 学校を訪れる貴族令嬢というのもそう多くはないのだろう。

 と。

 

「なんだ、誰かと思えばシルヴィアか」

「どこのお嬢様かと思った」

 

 程なく、自主練をしていた元同級生に見つかった。

 シルヴィアは頬を膨らませて、

 

「失礼な。わたし、これでも男爵なのですけれど?」

「全然お嬢様似合わないな、お前」

 

 ひどい。

 

「なに、シルヴィアが来たの?」

「そういえばクレールがやけにはしゃいでいたな」

 

 学校に在籍しているのは同学年~二学年上までの騎士見習い。

 ぶっちゃけ騎士学校時代の顔見知りばかりなのでさらに人が集まってくる。

 なんの用なのか、等々問い詰められて「これじゃ先に進めないな」と思ったところで。

 

「や、やあ。シルヴィア。もしかして僕に会いに来たのか?」

「そんなわけないじゃない、ダミアン」

 

 赤髪の子爵令息が出てきてあっさり撃沈した。

 

「……少しは社交辞令に付き合ってもらえないか」

「だって、ダミアンの幼馴染のせいでわたし大変だったんだよ」

「ああ。その件は、まあ、幼馴染が悪いことをした」

 

 思い込みの激しさで言えばわりとお似合いの二人なのだけれど。

 

「重ね重ね、世話になったな。……その、なかなかいいメイドを見つけたじゃないか」

「恐縮でございます。……デュクロ様」

 

 貴族ではなくなり、家からも追い出されたものの、ゼリエはダミアンの姉。

 弟の側にもそれなりの想いはあるようで、姉弟はほんの僅かな間、見つめ合って言葉のないままに交流を持った。

 一礼したゼリエに「参りましょう」と促され、シルヴィアはようやく歩き出して。

 

「シルヴィア、遅い!」

 

 寮の入り口が見えてきたところで、飛び出してきたクレールに抱きつかれた。

 訓練着姿でポニーテール。一度お風呂に入ったのかシャンプーのにおいがする。

 少女は「えへへ」と緩んだ笑みを浮かべて、

 

「いらっしゃい、シルヴィア」

「うん。お邪魔します」

「お邪魔って、シルヴィアもここの仲間みたいなものじゃない」

「みんなにもそう思ってもらえてたらいいんだけど」

「どうする? すぐに訓練する?」

「うーん。一回部屋で相談してからがいいかな」

 

 上級騎士学校の寮は一人部屋である。

 メイドを入れられるようになり、家ごとのしがらみが強くなったのも理由だ。

 クレールも家の使用人を連れてきているので内緒話にも当然、彼女が同席するのだけれど。

 シルヴィアは手を繋いだまま部屋まで案内を受けながら、

 

「ねえクレール? 貴族ってぜんぜん内緒話にならないよね?」

「そうなんだよね。実際、使用人から大事な話が漏れるとかよくあるらしいよ」

 

 駄目じゃん。

 いやまあ、前世の日本でさえ企業スパイとかいたくらいだし。

 

「かといって人払いをしすぎると危ないしね」

「みんなそういうのどうしてるんだろうね」

「シルヴィアの場合はあれがあるじゃない。神聖魔法」

「あんまりほいほい誓約するものでもないんだけどね、本当は」

 

 神聖魔法には神に誓わせることで約束を守らせるものがある。

 違反すると、どころか違反()()()()()()()()()激痛が走るという優れものではあるものの、だからこそ本来は特に重要な案件でしか用いられない。

 神様を便利に利用しすぎるのはよくないというのもあるし、単に神殿で魔法をかけてもらうと高いというのもある。

 ただまあ、

 

「大丈夫じゃない? シルヴィアの場合は」

 

 聖女であるアンジェリカからは「呪文を広めないこと」をお願いされてはいるものの、その他の使い方についてはかなり自由裁量を認められている。

 シルヴィアが自分のために使う分にはお金もかからないし。

 神様には「どうかお許しください」とお祈りをして、クレールのメイドに秘密の口外禁止を誓ってもらった。

 

「最初からこうしておけばよかったね」

「いや、誓わされるほうだってあんまりいい気分じゃないし」

「あたしはいくらでも誓えるよ? シルヴィアとずっと一緒にいます、とか」

 

 そんなこと誓ったら喧嘩別れするだけで激痛なんだけど、クレールはきょとんと「そんなことしないし」と言ってくる。

 伯爵家のメイドが苦笑を浮かべて、

 

「私としては誓約で縛っていただいたほうが面倒がなくて助かります」

「ありがとうございます。……もしかして、クレールのお世話で苦労されていませんか?」

「それはまあ、いろいろと。日常的に……」

「あ、二人ともひどい! っていうかシルヴィア、相談って?」

「うん。ほら、一人ずつみんなの強化プランを考えたいなって」

 

 今日はそのために放課後短い自由時間を使ってやってきた。

 休日は合同訓練に費やしたいのでなかなか重要だ。

 さっそくクレールには恩恵を表示してもらって、

 

「でも、いざとなったら泊まっていけばいいじゃない」

「まあ、いちおう外泊許可はもらってきたけど……」

「じゃあむしろ今日中に三人分相談済ませちゃえば?」

 

 夜更かし+外泊。

 年頃にさしかかった乙女的にそれもどうなのか。

 

「クレール? 前と違ってわたしの分のベッドないんだよ?」

「もしよろしければ空いている使用人部屋を──」

「一緒に寝ればいいじゃない。ベッド十分広いし」

「……なにもしない?」

「……ほっぺにキスくらいまではいいよね?」

 

 真顔で見つめられると照れてしまう。

 そっぽを向きながら「いいけど」と答えて、

 

「実を言うとクレールの強化プランは単純なんだよね」

「ああ、うん。ゴブリンを『挑発』した時みたいに新しい力を覚えればいいんでしょ?」

「そうそう」

 

 クレール・エルミート伯爵令嬢の恩恵は『RPGの戦士』だ。

 経験を積むとレベルアップしてステータスを割り振るできるほかに特技と呼ばれる特殊能力を覚えられる。

 敵を『挑発』して引き付けるのがひとつ。

 本来、囮役を務める重装型の戦士が覚えるべき特技だけれど、クレールはこれを「向こうから来てくれたら追っかけなくていいじゃない」と優先的に取得していた。

 あれからレベルアップして特技の取得枠が増えているので新しいものを取れる。というか今まで余らせていた分もあるのでぜんぜん余裕だ。

 

「わたしが使えそうな奴を説明するから、その中からクレールが選んでくれる? あ、もちろん合同訓練してからでもいいよ」

「シルヴィア。あたしがそんな面倒なこと憶えてられると思う?」

「……じゃあ、紙に書いておくから」

「私が保管しておけばよろしいですね」

 

 クレールのメイドさんがなかなか協力的で助かった。

 

「けっこういろいろあるんだねー。で、シルヴィアのおすすめはどれ?」

「そうだなあ……。『強撃』とかは使いやすいんじゃないかなあ」

 

 あれこれと話しこんでいたら結局、空が暗くなり始めてしまったので、シルヴィアは上級騎士学校寮の食堂で夕飯をご馳走になり、クレールの部屋に泊まった。

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