わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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事前準備はとても大切 その3

「こうやって寝るの久しぶりだね」

「まだ三ヶ月も経ってないのに」

「そんなにシルヴィアと離れたの初めてだもん」

 

 暗い静かな部屋に二人きり。

 成人男性でもゆったり使えるサイズのベッドはシルヴィアたちを余裕で支えてくれるけれど、ベッドをくっつけて寝ていたあの頃よりは距離が近い。

 というか、クレールが率先してくっついてくる。

 お互いに寝間着もつけない下着だけの姿。

 

 なお、ヴァッフェはリボン状態のままクローゼットの中に放り込んである。

 

「ほら、シルヴィア。もっとくっつかないとあったかくならないよ」

「パジャマくらい貸してくれてもいいのに」

「たまにはいいじゃない、こういうのも」

 

 身の危険は不思議と感じなかった。

 危険だと認識できないからだ。クレールにそうされるのなら別に構わない、と、シルヴィア自身が思ってしまっている。

 自分たちにはまだ早いとも思うのだけれど。

 大好きな瞳。明るく優しい声。前よりも逞しくなり、それでも柔らかな身体。

 安心するクレールのにおい。

 

「もう」

 

 と、文句を言いつつも身を委ねてしまう。

 

「シルヴィア、ちょっと大きくなったよね」

「そう? 自分ではよくわからないけど」

「身長じゃないよ? こっち」

「む」

 

 動きやすそうな(※配慮した表現)クレールの胸が押し付けられる。

 

「それは、わたしも成長期だもん」

「あたしも同い歳なのになあ。身長ばっかり伸びるのはなんでだろ」

「もしかしたらシチュー効果かなあ」

 

 迷信を信じるなら胸だけじゃなくて身長も伸びるはずなのだけれど。

 

「年頃かあ。……今度卒業したら、あたしたち適齢期なんだよね」

「結婚はいや?」

「嫌だよ。結婚するなら好きな人とがいい」

 

 この国では女同士で結婚できない。

 それ以前に、貴族は政略で結婚するのが普通だ。

 だからシルヴィアは多くを語らず「そうだね」とだけ答えた。

 

「大丈夫だよ、きっと」

 

 戦略家にしろ騎士にしろ、すぐに結婚しろとは言われない。

 無限に逃げられるわけではないとしても。

 

「無理やり結婚させられる、なんてないほうがいいよね」

 

 クレールの呟きに「うん」と答えた。

 

「絶対、殿下には諦めてもらわなくちゃ」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「いかがでしょうか? 着慣れない衣装なので不安なのですけれど」

「とても似合っています。乗馬用の服ですか?」

「ええ。自分では乗らないのですけれど、殿方から誘われることもあるだろう……と」

 

 休日。

 訓練の場に現れたリゼット・プレヴェール公爵令嬢は珍しいパンツルックに身を包んでいた。

 男装、と呼ぶには女性のボディラインに沿っている。それでいて可愛らしさよりも凛々しさを重視された中性的な魅力ある衣装。

 由来というか持っていた理由を語る少女の顔には苦笑が浮かんで。

 

「あいにく、今までそういった機会はありませんでした」

 

 自分で乗れないのに乗馬に行く。

 相乗りを承諾するも同然だし、断るのも無理はない。

 

「じゃあ、今度あたしが乗せてあげましょうか?」

 

 他の面々は基本的にパンツルックは慣れっこだ。

 聖女見習いであるアンジェだけは普段通り巫女の衣だけれど、クレールたち騎士見習い組はグレードアップされた訓練着、正規騎士であるラシェルも見習い時代の使い古しを着ている。

 シルヴィアは騎士学校時代の私物。

 

「エルミート様は乗馬ができるのですか?」

「敬語なんてなしでいいですよ。乗馬は学校で習ったのでみんなできますよ。ね、シルヴィア?」

「む。クレール。わたしが苦手なの知ってて言ってるでしょ?」

「大丈夫です、シルヴィアさん。私も馬はあまり得意じゃありませんから」

「イズは乗馬が苦手なんじゃなくて馬が苦手なだけじゃない」

 

 要するに大きな動物が怖いタイプ。

 シルヴィアは運動神経がなくて乗りこなせないほうだ。

 まあ、お互い、自動車なら乗りこなせそうではある。

 

「すごいのね。……わたくしも少し練習してみようかしら」

「シルヴィア様とご一緒であればよろしいかと」

 

 中年メイドが釘を刺したのは一人だと男が寄ってくるからだ。

 

「わたしももう少し練習したほうがいいですし、いつでもお付き合いします」

「ありがとうございます、シルヴィア様」

「むう。あたしたちには普通に話してくれるようになったのに、シルヴィアには敬語なんだ」

「当然でしょう。騎士相手と貴族同士では全く別だもの」

 

 ふん、と、鼻で笑ったのはエリザベート。

 

「公爵家同士とはいえ、わたくしは国と民に仕える身。どうぞ気軽に呼び捨ててくださいませ、リゼット様」

「ありがとう、エリザベート。あなたたちが騎士になった暁には是非護衛をお願いしたいわ」

 

 ふっと笑ったラシェルが「信頼というのは良いものだね」と頷いて、

 

「それで? シルヴィア、訓練の方針は固まっているのかい?」

「やはり実戦形式で行うのでしょうか……?」

 

 リゼット同様、争いには慣れていないアンジェが不安そうに視線を送ってくる。

 当然のようにシルヴィアが指導役になっているのは良いのか悪いのか。

 

「そうですね。戦いに慣れるためにも三対三の模擬戦をしてみようと思っています」

 

 あらかじめ考えておいたプランをシルヴィアは口にしたのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「シルヴィア様は参加なさらないのですね?」

「はい。わたしは正直戦力外ですし、みんなの動きを観察するほうが良いかと」

「構いませんわ。その分、作戦立案で役に立ってもらいましょう」

 

 と、いうわけで。

 貴族学校内、運動や大規模なお茶会などに使われる多目的グラウンドにて少女たちが向かいあい、手加減を加えつつも実際にぶつかり合った。

 クレール、イザベル、リゼット組vsエリザベート、ラシェル、アンジェ組。

 その結果は、

 

「あたし一人でエリザベートとラシェル先輩の相手はきついよ!」

「エリザベート様相手だと矢がぜんぜん当たりません……」

「魔法を命中させる以前に気迫に押されてしまいます……」

「本当にクレールは厄介ですわ。わたくしの動きの癖を読んで苦手な行動を取ってくるのですから」

「んー、ボクも思うように動けてないな。乱戦にならないと本領発揮できないし」

「神聖魔法を用いるタイミングも測り切れていません……」

 

 地面に座り込んで休む者二名、立ってはいるものの肩で息をする者二名、メイドやシルヴィアの手を借りて身体を支える者が二名という状態。

 

「皆さま、お疲れ様です」

 

 メイドたちがあらかじめ用意しておいたタオルや飲み物を配り、休憩と補給を行わせる。

 

「うん。リゼット様とアンジェ様は体力づくりから始めたほうがいいかもしれません。身体を動かすことにも慣れていらっしゃらないようですので」

「そのようですね。正直、武器を持って迫ってくる人間がここまで恐ろしいとは」

「私もお祈りや魔法の練習ばかりでは、聖女になってから困ることになりそうです」

「あはは。まあ、シルヴィアなんて六年訓練しても苦手なんだけどね」

「ラシェル先輩、それは言わないでください……」

 

 確かに、男子から切りかかられる日々を送っていてもゴブリン退治はものすごく怖かった。

 模擬戦とはいえクレールたちの実力はゴブリンの比じゃないわけだし。

 

「ゴブリンかあ……」

「シルヴィア様? さすがに訓練のためとはいえ、聖女様から許可が下りないかと」

「うん、そうだよね」

 

 ゴブリンを出して集団戦の練習、はさすがにだめだった。

 

「シルヴィアさん。私たちには何かありませんか?」

「うん。みんなの戦い方も気になるところがあったけど……一番はイズの武器かなあ」

「? この弓ですか?」

 

 イザベルが自分の弓を持ち上げて首を傾げる。

 上級学校に上がるにあたって購入したらしいそれ。

 

「値段の割に質が良くて気に入っているんですが……だめですか?」

「駄目ではないけれど、もっといいのを使いなさいってわたくしもいつも言っているでしょう? そういうことですわよね、シルヴィア?」

「うん」

 

 イザベルの恩恵は『放置型シューティングゲーム』。

 弓のバージョンアップは戦果をアップさせるための重要な要素だ。

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