わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「ご令嬢方、お揃いのようですね。本日はいい試合にしましょう」
開始前、騎士団長はそう言ってエリザベートと握手を交わした。
後ろに並ぶのは四人の若手男性騎士。
騎士たちは前に会った時と異なり部分的な金属鎧を装着している。非殺条件の決闘で全身鎧は無駄になる、ということだろう。
残りの相手戦力はクロヴィス第五王子と、
「カトレア様。本当に参加なさるおつもりですか?」
「ええ。私が殿下をお守りしてみせるわ」
乗馬服風の衣装に身を包んだカトレア・カステル伯爵令嬢。
いや、うん。女の子ばかりのシルヴィアたちが言えることでもないけれど、ただの貴族令嬢がわざわざ出てくる場でもないだろうに。
「土地持ちの公爵様ともなれば戦時には剣を取り戦うことになるでしょう? 愛人として私も同行する覚悟よ」
「立派なご覚悟だと思いますが……」
少し離れたところにいるクロヴィスは「説得しきれなかった」とでも言うように肩を竦めていた。
確かに、元王子の愛人で恋多き女、という風潮を薄めるには効果的──なのだろうか?
「危ないことはなさらないでくださいね? 怖くなったらいつでも戦線を離脱してください」
「あら。あなたたちが手心を加えてくれればいいじゃない」
「戦場に出る以上、怪我をする危険はいつでもありますよ」
騎士学校なら「敵に情けを期待してるんじゃない!」と拳骨を喰らわされているところだ。
「……意外と早くあの女を泣かせる機会が来ましたわね」
「エリザベート。作戦通りにお願いね?」
「わかっています。あくまで作戦を優先、そのうえでなら構わないでしょう?」
そううまく行けばいいけれど。
シルヴィアは再び騎士たちに視線を巡らせる。
騎士団長以下、全員得物は剣。サブを忍ばせていそうなのは団長だけだ。予想の範囲内。
と、そこで若手騎士たちと目が合う。
「手加減しますので安心してください、お嬢さん」
にっこりと笑顔を返しつつ「絶対勝とう」と思った。
上等なスーツ姿のクロヴィスが進み出てきて、
「確認するぞ。決闘は七対七。リーダーはこの魔道具をどこかに携帯する」
王子の手には小さな玉がある。
持ち主が一定以上の衝撃を受けると割れて光を発する仕組みだ。
「魔道具が光を放った時点でそちらの陣営の負けだ。いいな?」
「はい。……誰が持っているかは非公開でいいんですよね?」
「ああ。こちらは正々堂々と俺が持つがな」
言って実際にポケットへ入れてみせるクロヴィス。
これであれがダミー、本物は騎士団長が持っていました、とか言われたらクレーム確実だけれど。
「各々、不正なく真剣勝負を」
審判を命じられた王子の護衛役の声。
陣営ごとに分かれ、離れて向かい合う。バレーボールのコートよりは広い。中学の体育で男子がやっていたサッカーの試合がこれくらいの広さだろうか。
シルヴィアたちの陣形は平凡。
騎士+騎士見習い三人が扇状に立ち、その後ろに残りの三人が。シルヴィアとアンジェの間に立つのはリゼットだ。
「始め!」
号令がかかると同時、大きく動いたのはシルヴィアたちの側だった。
◇ ◇ ◇
「散開!」
エリザベートの声と共にクレールたちが左右にばらける。
剣を抜いて前進しようとしていた相手騎士たちが「ん?」と眉をひそめたところで、リゼットが前に一歩。
「風よ!」
イメージを高める詠唱と共に烈風を放った。
殺傷力はない。けれど、気合いを入れてなお吹き飛ばされそうな威力。場外に出た者は失格なのでうまく行けば一網打尽だけれど「面白い」。
進み出たのは騎士団長。模擬剣の一閃が鋭い風を生んで相殺する。
若手はそこでようやく我に返り、
「《聖なる光よ》!」
「防壁展開!」
シルヴィアとアンジェ、二人分の聖光が半透明の魔法防壁に弾かれた。
防ぎ切ると同時、四人がかりの防壁も消滅。
しかし、相手の顔に浮かんだのは余裕の笑みだ。
「打ち合わせ通りになったな」
「当たり前だろ。団長の予測だぞ?」
魔法は大きな影響が出やすいので乱戦になる前に使うのが効果的。
当然、狙うべきは開幕だ。
魔法の使い手が多いシルヴィアたちとしては鉄板の戦術だったのだけれど──さすがに騎士団長には読まれていたか。
目配せをしてリゼットを下がらせる。
アンジェと二人でガードに入ったところで、
「ならばお返しといこう。カトレア、やれるな?」
「もちろんです、クロヴィス殿下!」
王子と令嬢の手のひらから大きな火の玉が放たれた。
「《聖なる守りよ》」
直撃すればけっこうな火傷になっただろうそれは神聖魔法の防壁に受け止められて。
「さて。ここからは騎士同士の戦いだな、戦略家見習い殿?」
「はい。まだまだここからです、騎士団長」
団長のでかい声はともかく、シルヴィアの声は相手まで届かないけれど。
「行くよ! 同僚だからって手は抜かないからね!」
果たしてお互いの手札、どちらが先に尽きるか。
まずは相手に向けてこちらの斬りこみ隊長、ラシェルが突っ込んだ。
「一番の問題は前衛の数だよ」
事前に繰り返した相談の一幕。
「こっちは騎士以外が三人いるけど、向こうは五人か六人が騎士でしょ? クロヴィス殿下だって剣は使えるから、実質ほぼ全員接近戦が得意なの」
「私が弓使いなので、前衛の人数はほとんど半分ですね……」
「別にいいじゃない。一人で二人ずつ相手にすればいいんでしょ?」
「本当に脳筋ですわね。相手はゴブリンではないのですから、そこまでの実力差がつくわけないでしょう」
エリザベートの指摘にシルヴィアはこくんと頷いて、
「だから一人で全員をかきまわしてもらおう。こっちには適任がいるから」
全員の視線が一人に集まった。
「大人数を相手の稽古なんてなかなかできないから助かるよ!」
「うおっ、いきなり突っ込んでくるなんて!」
様子見を考えないラシェルの急接近に相手がどよめく。
突き出された槍がそのまま横薙ぎにされ、引かれたかと思えば上から、斜めから、真正面から変幻自在に攻めてくる。
当人のステップを交えることでさらに軌道が読みづらくなり、
四人の若手騎士はやむなくばらけて距離を取る。
間合いさえ取ってしまえば回避、あるいは防御が楽になる。一人が引きつけて防いでいるうちに、
「四人を相手に勝てると思っているのか!?」
「くっ」
三方向から残りの騎士が襲いかかる。
リーチの差を活かせば簡単にはやられないものの、さすが相手も正規騎士。ラシェルはあっという間に追い詰められていく。
騎士団長は──。
お手並み拝見、とばかりに王子と令嬢を護衛している。おそらく先まで見通しているのだろうけれど、開幕で活躍したのでここは様子見といったところだろうか。
ならば、頃合いだ。
「イズ!」
「心得ています!」
突っ込んできた恐れ知らずに意識が集中した今。
イザベルの新しい弓──しなやかで強いエルフの弓から訓練用の木の矢が飛び出していく。
「何!? 飛び道具か!」
「かなり威力があるぞ、女の癖に!」
散開した後、イザベルは戦場の端に陣取って射界を広く確保している。
敵がラシェル一人に集中したことで狙い放題。都度移動するのではなく固定砲台と化すのが本領の彼女にとって、このフィールド全体が狩場だ。
「そう。イズの矢はすごいんだよ」