わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
ゲームの弓使いは正確で迅速だ。
一の矢が真っすぐに飛ぶだけじゃない。続く二の矢、三の矢を同じ間隔で、同じように飛ばし続けられる。
結果、どうなるか。
「っ、この矢!」
「ぽんぽん好き勝手飛ばしてくれる!」
当たらなくとも「矢を警戒させる」ことそのものが敵の勢いを削ぐ。
イザベルからすれば少し狙いを変えるだけ。それだけで矢が飛んでくる場所が変わる。次は自分が狙われるかもしれない、と思えばそちらに意識を向けざるをえず、
「ほらほら、ボクもいるんだけどっ!?」
暴れまわるラシェルが勢いを増す。
四人の中心に一人。敵への命中率は単純に四倍だし、ラシェルは男性騎士たちを壁にできるのでなおさら矢を受けづらい。
まして、今のイザベルならそうそう誤射などしない。
よくしなるエルフの弓は伸びやかな矢を放ち、うまく利用すれば次の矢をつがえるのにも弾みがつく。
移動も、死角からの被弾も考えなくていい状況ならさらに。
男性騎士たちは舌打ちし、態勢を立て直そうとする。
単純に考えて状況を打破するには、
「馬鹿正直に相手するのは止めだ、後衛を狙うぞ!」
「馬鹿者! 無策に突っ込めばただの的だぞ!」
半数である二人がラシェルから離れようとしたところで、騎士団長からの一喝。
「残念。……いつでも撃てるように準備してたのに」
四人がかりで防いだ聖光を果たして二人でどうにかできたか。
やれやれ、とばかりに団長が息を吐き、
「そろそろ遊んでくださいますか、騎士団長様?」
「そう来るだろうな。ああ、相手になろう、エリザベート・デュ・デュヴァリエ」
一対一における最強戦力が戦場を回り込む形で敵の主力へと肉薄した。
「騎士団長をいかに抑えるかも問題ですわ」
「普通に考えてクレールたちより強いもんね。でも、やりようはあるんじゃないかと思う」
「どういうことですの?」
「団長は部下を育てるほうを第一目的にするはずだってこと」
これもまた相談の中でのやりとり。
エリザベートの懸念にシルヴィアはそう答えた。
「自分が出張って一気に勝っちゃうようなことはしてこないよ。もちろん、王子を攻撃しようとしたら動くだろうけど」
「じゃあ、やっぱり対策がいるじゃない」
「そこは、一騎打ちならエリザベートにも勝ち目があるんじゃないかな」
「お願い、エリザベート。ラシェル先輩」
──戦術コマンド『不撓不屈』。
敵のスキルや地形などによるデメリットを打ち消し、相手のクリティカル率を下げるのが主な効果。
現実に使うと恐怖や疲労を和らげる意味もあるはず。
ここはなんとか維持するべき状況。
「よしっ! じゃあ、本気で行くよ!」
──『無双モード』発動。
一瞬、ぐっと力を溜めたラシェルがさらなる勢いで槍を振り回し始める。
「聞きしに勝る勇猛ぶりですね」
「それはなにかのおまじないですか、シルヴィア様?」
「あはは、はい。そんなところです」
これが大規模戦なら雑兵がばんばんなぎ倒されていたことだろう。
そうして若手騎士が引きつけられている間に、
「出し惜しみはなしで行きますわっ!」
エリザベートが剣を構えて突進。
渾身の突きを見た騎士団長は「むっ」と眉をひそめ、回避を防御に変更。
跳ねのけるように押し戻されたお嬢様は舌打ちする。かわされていればそのまま後ろに抜けてクロヴィスを討つプランもあった。
「加勢するぞ、団長」
「なりません、殿下。不意を打たれるかもしれません」
返しの一撃をエリザベートはガード──しつつ、動きを止めずに足をはね上げる。
ガードキャンセル。
防御と同時に技を繰り出すことで本来発生する隙をキャンセルする技術、あるいはシステムだ。
技の隙を減らすため、新たに教えて練習してもらった戦い方が役に立っている。
「これは、なかなかに面白いな。もしや恩恵の力か?」
「教える必要はありませんわっ!」
上段蹴りをギリギリでかわされた後は速攻の乱舞技。
やられる前にやればいい。敵の体勢を崩せれば硬直時間はカバーできる。ラシェルだけでなくエリザベートもまたそんな前のめりだ。
あらかじめ相談していたこととはいえ、きっと怖いはず。
戦術コマンドの助けがなければやっていられなかったかもしれない。
騎士団長はそれだけの相手だ。若手騎士四人だって決して雑魚と侮って良い相手じゃない。多少無理をしなければすぐに持っていかれる。
だけど。
「騎士団長は全く揺らいでいません。……さすがは国の要」
鍛え上げられた長身。剣は少女のものより二回りは大きく、そのぶん重い。
いくつもの剣を受けてなお体勢が崩れない。
経験? いや、それだけじゃない。スペックそのものも並外れている。
「やっぱり、騎士団長も恩恵を」
事前に集めた情報でもその可能性はわかっていた。
強者や天才はそのほとんどが自覚、無自覚問わず恩恵の影響を受けている。騎士団長ともなればなおさら。
けれど、わかったところでどうしようもない。
団長の恩恵文なんて手に入るわけがないのだ。伝聞から推測するのがやっと、
立てた推論としては、
「クレールと同系統、かな」
レベルアップで強くなるRPG系。
神文字を読まずに使えているあたり、ポイント割り振りではなくレベルアップ時に自動強化されるタイプか。
やっかいすぎる。
数十年分の経験値を得た前衛とかもはや化物である。かなり強力なモンスターとだって一騎打ちできるのではないか。
本気ではないのが唯一の救い。
大技を繰り出した後のエリザベートを深追いせず、団長は悠然と構えている。まるで「もっと打ってこい」と誘っているように。
大きい。
彼になら確かにこの国の騎士を任せられる。
むしろ引退が近いと噂されるのが痛いくらいだけれど。
対戦相手として見るとあまりにも厄介だ。
これを打開するにはなにかしらハプニングでもないと、
「エリザベート・デュ・デュヴァリエ! 隙だらけよ!」
「あ」
「何?」
これは団長ですらも予想外。
射線が開いたのを見た敵のお嬢様──カトレア・カステルがまたもや火球を放り込んだ。
接近戦の最中なのに。
下手したら味方に当たる。団長は一瞬悩んでから飛びのき、
「避けろ、エリザベート・デュ・デュヴァリエ!」
「心配には及びませんわ。……まだ見せるには早いと思っていましたけれど」
公爵令嬢は笑みと共に己の剣を輝かせた。
比喩ではない。
紅蓮の炎を纏った剣がカトレアの火球を断ち切り、周囲を赤く照らして見せたのだ。
これにはギャラリーも息を呑んでしまう。
無理もない。だって、これは。
「
物に魔法をこめて魔道具化するのが
今のように、戦いながら得物を魔剣と化すのは言うまでもなく高等技術。
「エンチャント・フレイム。わたくしのとっておきですわ」
格闘ゲームのキャラの中には独自のシステムを搭載している者がいる。
変身するとか。武器を出したりしまったりできるとか。消耗品をやりくりする代わりに技の威力が高いとか。
これはエリザベート用の特殊システム。
必殺技の一種と定義したうえ、使用時にかなりの魔力を消耗する代わりに高難度の短期魔法付与を確実に成功させる。
「……私、もしかして何かやってしまいました?」
「ああ。カトレア、お前は確実にあの令嬢の逆鱗に触れた」
「さあ、団長様! もう少しダンスに付き合っていただきますわ!」
この時、余裕だった騎士団長の表情が初めて僅かに歪んだ。
「惜しいな。……この才能を手離すのは本当に、惜しい」