わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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泣いても笑っても勝負は一度きりである 3

 数度の交錯の後、力尽きたのは──エリザベートのほうだった。

 

 燃え上がる剣は間違いなく強い。

 炎が間合いを見誤らせるし、刃を交わすたびに相手の刀身を熱が伝う。ついでに「燃える剣」とか絶対怖い。シルヴィアなら逃げだしたくなっている。

 若手騎士相手なら間違いなく逆転していた。

 ただし、あまりにも相手が悪すぎた。

 

 火の粉による軌跡を残しながらの流麗なる剣舞が、剛剣の一撃によって弾き飛ばされる。

 地面に倒されたエリザベートはすぐさま起き上がるも、肩は震え息も上がってしまっていた。

 

「……冷気を、手のひらから放出していましたのね」

「ああ。熱を相殺できれば、後はよく見ていなすだけのこと」

 

 口で言うほどに容易くはない。

 ちょうどいい魔法を行使しながら今まで通りに剣を振るい続ける。それがどれだけの練度を要するか。

 だから、相手が悪かったとしか言いようがない。

 

「剣を手離すといい。追い打ちをかけるのは忍びないからな」

「お生憎様。……と、言いたいところですけれど、剣を放り出すことになるのは避けたいですわね」

 

 ため息をついた公爵令嬢は自身の模擬剣を鞘に収めると膝をついた。

 戦闘放棄した者を攻撃する必要はない。まあ、厳密に言うと戦闘不能ではないので死んだふりとばかりに戦線復帰してもいいのだけれど、団長の手心を無にする行為は避けたいところだ。

 これでシルヴィアたちは一人減。

 

 さらに、四人がかりの猛攻を凌ぎ続けたラシェルもとうとう、

 

「あはは。さすがにもう無理、かな」

 

 こちらは槍を放り出して地面に尻もちをつく。

 苦笑を浮かべた彼女に騎士の一人が近づき、「ぐっ!?」金属板で補強されたつま先が十六歳の娘を地面へと蹴倒した。

 騎士はさらに倒れたラシェルを踏みつけようと足を持ち上げて、

 

「馬鹿者! 倒れた者を弄ぶのが騎士のする事か!?」

「ですが、団長。敵は根絶やしにすべしと日頃の訓練でも」

「敵が魔物であればな。だが、人を相手に『遊ぶ』のは魔物にも劣る蛮行だ」

「……さんざん手こずらされたんだからいいじゃないですか」

 

 なおも不満げな若手に団長はさらなる一喝を加えようとして、

 

「《聖なる光よ》!」

 

 二人がかりの聖光が四人の騎士を包み込んだ。

 物理的衝撃は可能な限り抑えている。削るのは相手の気力、戦意のみ。これなら限界まで戦ったラシェルにはほぼ影響がない。

 大切な仲間を痛めつけてくれたのだから少しくらいぶっ飛ばしてやりたいけれど。

 呆けたような表情で光に包み込まれた男たちは次々に倒れ、その意識を失った。

 

 気絶は文句なく戦闘不能。

 やれやれ、と肩を竦めた団長がこちらを見る。心なしか「よくやった」と言っているような気がする。

 

「さて。……私の次なる相手は其方か」

「はい。あたし、一度あなたと戦ってみたかったんです!」

 

 これで舞台は整った。

 五対三。ラシェルとエリザベートへ無理を強いた代わりに相手の前衛四人を倒し、騎士団長を消耗させた。

 

「ふむ。其方、名前は?」

「クレール・エルミート」

「そうか。エルミート。其方が私を倒せなかった場合、策はあるのか?」

「シルヴィアは『その時は神聖魔法をとにかく撃ちまくる』って言ってました」

 

 クレールはちょっと正直すぎないだろうか。

 まあ、ぶっちゃけそこは作戦とも言えないような破れかぶれなので構わない。

 後はこちらのエースに託すだけだ。

 

「やっちゃえ、クレール!」

 

 ──戦術コマンド『信頼』。

 

 好感度の一番高い味方ユニットだけを好感度の値に応じて超強化するコマンドだ。

 短時間での二度目の使用でシルヴィアの身体に疲労がのしかかる。とはいえ、このくらいで済むならみんなよりずっと楽。

 二本の足で立ったまま見据えた先で、長年のパートナーが笑って、

 

「あたしのお姫様に言われたら、頑張るしかないよねっ!」

「面白い。その力見せてみろ、クレール・エルミート!」

 

 騎士団長とクレールの戦いは激戦になった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「はああっ!」

「むっ……!?」

 

 ──特技『強撃』。

 

 一撃にさらなる威力を乗せるクレールの新たな技だ。

 使うと疲れるので常用は難しいものの、ただでさえ力の強い彼女が使うと馬鹿みたいに強力。

 受けた騎士団長が目を瞠り、渾身の力で押し返す。

 間髪入れずの二撃目は、

 

「軽い、だと?」

「使い分けるとさらに有効だよって言われたんです!」

 

 脳筋、とエリザベートにからかわれるクレールだけれど「思いっきり斬る」だけが能ではない。

 敢えて軽めの斬撃を素早く重ねることも器用にこなしてくる。というか、本人的にはあくまでスピードタイプの剣士らしい。

 素早いゴリラが弱いわけがなく。

 速く、重い一撃が徐々に団長を追い詰めていく。

 エリザベートの戦いは無駄じゃない。集中力と体力、魔力を削がれた騎士団長は出したくともフルの力を発揮できない。

 

「ふふっ、はははっ! ははははっ!!」

「ちょ、なに? なに笑ってるの!?」

「これが笑わずにいられるか! 女騎士達がここまでの戦いを見せてくれるとは! いっそお前達の団長に収まりたいくらいだ!」

 

 部下四人が気絶しているとはいえ、観衆の中でなかなかの発言である。

 愉しげに笑った団長は、どこに隠していたのか、さらなる力でクレールに拮抗して、

 

「興が乗った。もう少し付き合ってもらうぞ、エルミート」

「もちろん! 手を抜かれて勝っても嬉しくないしね!」

「いや、手を抜いてくださいお願いします」

「シルヴィア様……」

 

 傍にいるアンジェとリゼットから「締まらないなあ」という目で見られたものの、楽に勝てるならそのほうがいい。

 シルヴィアはバトルジャンキーではなくただのゲーマーである。

 果たして。

 

「っ。……もう、おじさんいったいどれだけしぶといのさ!?」

「ははは! 若い者にはまだまだ負けられぬさ!」

 

 次第にクレールは押し返されていった。

 戦いの中で相手の癖を学習する力。繰り返してきた戦いの中で体得された技術が若い勢いを凌駕したのだ。

 『強撃』も僅かな発動の癖を見抜かれて押し返される。

 やがてクレールの剣が大きく弾かれて、

 

「ここだ」

「ここだっ!」

 

 ──特技『カウンター』。

 

 恩恵の力を受けたクレールの身体が強引に動く。

 弾かれた剣を両手で握り、上段の構えに変えた少女は団長の追撃、横薙ぎの剣に身を晒しながら、最後にして渾身の一撃を放った。

 衝撃。

 強烈な二つの斬撃が破裂するような音を生み、観衆でさえも息を呑んで。

 

「見事だ」

 

 クレール・エルミートは倒れていた。

 死んではいない。血は出ていないし、投げ出された手は剣を探すように小さく動いている。

 対する騎士団長もまた膝をつき、剣は少し離れたところに放り出されている。

 

「申し訳ありません、殿下。私はここまでのようです」

「ああ。……いや、構わぬ。面白いものを見せてもらった」

 

 カトレアを残したまま進み出たクロヴィスは団長に「休め」と声をかけた後、手にした剣を構え直して。

 

「さて。決着をつけるとしようか。……言っておくが、俺も素人相手に負けるほど弱くはないぞ?」

 

 シルヴィアは息と共に唾を飲み込んだ。

 念のためにと持ってきていた剣を引き抜き、進み出る。

 

「シルヴィア様」

「大丈夫です、リゼット様。わたしにもあなたをお守りさせてください」

 

 以前、あっさり負けた相手との再戦が始まって──あっさり終わった。

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