わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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決着はまた新しい始まりだった

 模擬剣が宙を舞い、そして音を立てて落ちる。

 丸腰になったシルヴィアはよろめくように一歩、右足を引いて。

 

「念のためだ、一撃入れさせてもらうぞ」

 

 鞘へ収められた剣先が真っすぐに襲ってきた。

 

 ──刹那、生まれる光。

 

 ()()()()()()()()から防御障壁が生まれ、攻撃を阻止。

 突かれるのに合わせて後ろに倒れ込んだシルヴィアは、この戦いの主役が右手を大きく突き出しているのを見た。

 

「風よ……!」

 

 突風。

 予想外の事態に意識を奪われていた王子に踏みとどまる余力はなかった。

 後ろへと弾き飛ばされた彼のポケットから魔道具の輝き。

 

「終了! ──勝者、リゼット・プレヴェール様!」

 

 前評判を覆しての勝利にギャラリーは大いに沸いた。

 特に喜んでいるのは令嬢で、男はどちらかというと面白くなさそうな顔をしている者が多い。

 良くも悪くも、これは新たな世代、新たな騎士団を象徴する出来事となる。

 期せずして「女だけの新騎士団」に乗り気な者も、この件を境に急増することになるのだった。

 それはともかく。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 戦いが終わった後は双方の負傷者について迅速な治療が行われた。

 聖女見習いアンジェの出番はむしろこちらだ。

 傷ついた者の傍に膝をついて聖なる魔法を行使する姿には「女ごときが」と悪態をついていた若手騎士でさえも気まずそうに目を逸らす。

 お手伝いで治療を行うシルヴィアはその様子を見て思わず笑ってしまった。

 

「はあ。……最後に吹き飛ばされたのは本当に驚いたぞ、リゼット」

 

 飛ばされた王子には幸い怪我がなかった。

 着衣は多少汚れたものの、彼に攻撃を加えたことは「決闘中のこと」として水に流される。

 とはいえ俺様なクロヴィスは若干納得がいかない様子で、

 

「お前がここまで頑なな女だとはな」

「二年以上、求婚をお断りしてまいりましたが──ようやくわかっていただけたようでなによりです」

 

 そんな彼の物言いをリゼットの晴れやかな笑顔が一刀両断した。

 

「お約束通り、わたくしとの結婚は諦めてくださいますね?」

「────」

 

 クロヴィスはすごく、ものすごく複雑そうな顔をした。

 女性に関しては面倒な性格をした男だ。

 嫌と言われるほど、駄目と言われるほど燃え上がるのだろう。強引にでも押し倒してやろうかと本気で考えていそうなひとときがあって、

 

「ふん。あなたのような乱暴な方は殿下に相応しくありませんわ。……そうでしょう、殿下?」

「お前が言うな、カトレア」

 

 今回ばかりは割って入ったカトレアがグッジョブだったかもしれない。

 苦笑した王子は髪をかるくかき上げて、

 

「まあ、そうだな。引き際を弁えるのも良い男の条件か」

 

 彼が良い男だとはシルヴィアにはとても思えないのだけれど。

 

「ところでシルヴィア・トー」

「は、はい?」

 

 急に声をかけられたシルヴィアはびくっと背筋を伸ばした。

 もし求婚されたら勝利のご褒美を消費してでも断ってやろうと思ったのだけれど、

 

「さっきの防壁はなんだ? あれは魔法の輝きだろう?」

「あ、はい。あれは一度きりの護身用魔道具です。念のためにと携帯しておりました」

 

 もちろん嘘である。

 リボンに化けたヴァッフェが手加減した防御魔法を使っただけ。いざという時の隠し玉になるだろうとあらかじめ打ち合わせをしておいた。

 同じ言い訳を二度使えそうにないのが少しばかり残念である。

 王子は「なるほどな」と苦笑して、

 

「俺はお前と対峙した時点で負けていたわけだ」

「でしょうな」

 

 治療を受けてひとまず動けるようになった騎士団長が王子の隣に歩いてくる。

 

「シルヴィア・トーには神聖魔法があります。剣を飛ばされた時点で聖光を浴びせることもできたはず。それを敢えてしなかったのは──」

「最後の一撃をリゼットにやらせるため、か」

「はい。完敗、と言っていいでしょう」

「そんな。たまたまうまくいっただけです。それに──」

 

 団長が本気で勝つつもりで人選、作戦立案をしていれば結果は違っていた。

 言ってしまえば台無しになると言葉を飲みこめば、

 

「騎士団が始動した暁には親善試合を行いたいものだ。……その時には私は引退しているかもしれないが」

「団長! 再戦にも是非私達をお使いください!」

「そうです! 今回はまぐれに過ぎません、もう一度戦えば必ず!」

「黙れ。一度の機会を掴めなければ本物の殺し合いでは死ぬのだぞ」

 

 低い声の一喝に若手騎士たちは押し黙った。

 

「貴様等は帰って今回の反省、その後鍛え直しだ。女如きと笑うのならば相応の実力を身に着けてみせろ」

「は、はっ!」

「了解いたしました、団長!」

 

 本当にわかってくれればいいのだけれど。

 団長が釘を刺してくれている限り男性騎士が大きく暴走することはないだろう。

 治療が終わったばかりだというのに片付けと撤収を始める彼らを「大変だなあ」と見つめて、

 

「本当にありがとうございました、シルヴィア様」

 

 エルフの血を引く公爵令嬢から頭を下げられる、という一大事に遭遇。

 

「皆さまのおかげでわたくしは自由を手にすることができました。……今後はきっと求婚の数が大きく減ることでしょう」

 

 決闘を行ってまで王子を袖にした女。少なくとも噂が風化しない限り求婚するのはなかなかのチャレンジである。

 もちろん、貴族学校に囚われ続けるのは変わらない。自由と言うには少し心もとないけれど。

 

「少しはお役に立てたでしょうか」

「ええ、とても」

 

 細い指がシルヴィアの右手を取って。

 

「わ」

「このように、わたくしの望みを叶えてくださった方はいませんでした。……本当に、感謝しております」

 

 ぴろんぴろんぴろん。

 一気に上がっていく好感度。待って待って、と思う間もなく『86/100(恋愛感情)』に。

 戦いの後だし綺麗とは言えないのに。

 構わず手の甲に触れた唇の感触は、一生忘れられないかもしれない。

 

「あなた様は紛れもなくわたくしの騎士でした。……いいえ、もしかしたら」

 

 続く言葉はシルヴィア(とおまけでヴァッフェ)にしか聞こえなかっただろう。

 

「おとぎ話の英雄、と呼んでも良いのかもしれません」

「でしたら、リゼット様もわたくしたちの騎士団にいらっしゃっては?」

 

 疲労を残してはいるものの、やはり問題なさそうなエリザベートが笑顔を浮かべて。

 

「魔法の得意な方も欲しかったところです。騎士団内なら監視の目も十分に確保できるでしょう?」

「なるほど。……そうですね、少しくらいなら我が儘を聞いてもらえるかもしれません」

 

 みんなで騎士団をやる。

 その夢がまた一歩、広がりを見せた。

 

「騎士団で功績を上げたら、他の国にも行けたりするのかな」

 

 なにげない呟きにリゼットが目を丸くし、とろけるような笑みを浮かべる。

 

「もしも叶ったら、とても素敵ですね」

「むしろそれくらい叶ってくれないと困るよ」

 

 と、シルヴィアの左腕ががっしりとホールドされて。

 

「クレール、もう大丈夫なの?」

「平気平気。アンジェに治してもらったし、団長もたぶん加減してくれたしね」

「あれで手加減されてたとかもうよくわかんないけど……」

 

 それにしても外国に興味があったとは。

 

「クレール、どこか行きたい国があるの?」

「あはは、ううん。あたしが興味あるのは強い奴のほう。どうせならすごい怪物とかやっつけてみたいじゃない?」

「ああ、うん。納得した」

 

 でも、それも悪くないかもしれない。

 魔物を退治して功績を上げて、いろんな国に行く。

 そんな風にできたらまるで、ゲームの中の出来事だ。

 

「そうだね。いつか、きっと」

 

 そのための歩みはもう、始まっている。

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

「公爵令嬢とその取り巻きどもが正規騎士を下した、か」

 

 報告を受けた男は、手にしていたグラスを床へ叩きつけた。

 飛び散る破片。

 お気に入りの美酒もまた少なくない量が床の染みに変わった。

 それでも、報告を終えたばかりの部下は眉一つ動かさない。片付けは彼の仕事ではない。人払いが解かれた後、メイドが行うことだ。

 重要なのは貴族学校で起こった一つの催しと、その結果。

 

「忌々しい。子供のお遊びで国を騒がせおって」

 

 第五王子とデュヴァリエの娘が主導した決闘。

 本当に、誰も彼も余計なことをしてくれる。別に女どもが負ける分には構わない。しかし、正規の騎士が破れたとなれば話は別だ。

 

「人は人。エルフはエルフ。何故、そんな簡単なことがわからない!?」

 

 少し腕の立つ女が数人集まったところで国は動かせない。

 むしろ、勘違いした馬鹿が不始末をしでかすほうが恐ろしい。

 現にゼリエ・デュクロが都を脅かしたばかりではないか。

 

「騎士団長には責任を取ってもらわねばならんな」

 

 せめてこの件を利用して騎士団を、そして国を改革する。

 

「女ごときが。少しは身の程を知ってもらうとしようか」

 

 部下に手を振って下がらせると、男は片付けのメイドを呼びつけながら各所へと送る手紙の文面について考え始めた。

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