わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
【番外編】胸の成長と下着の話
「シルヴィア様。この機会に下着を新調なさいませんか?」
とうとうこの時が来てしまったか。
決闘から数日後の朝。シルヴィアは専属メイド──ゼリエのやんわりとした助言にため息を返した。
「わかってるんだけど、胸を支える下着って苦しいんだよね」
事の発端は他でもないシルヴィア自身の成長である。
今まで彼女はカップ付きのキャミソールに近い下着を使っていた。
騎士学校時代はまだ幼かったし、ぶっちゃけ下着のせいで動きに支障が出ようと出まいと「学年で一番鈍くさい」という称号は変わらなかったのだけれど。
騎士見習いとしての最後の一年、それから貴族学校での二ヶ月ちょっとで本格的に身体が成長しだした。
膨らんできた胸の影響は顕著。
運動のために剣を振りに出た時とか、この間の決闘とか。ぶっちゃけちょっと動くたびに下着がズレて痛痒かった。
前世なら本格的なブラとスポブラを使い分けるべき頃合いだ。
シルヴィアもそれは重々承知しているのだけれど、
「ああ。人間の下着って窮屈なのよね。骨組みのせいで」
「そう、それ」
魔族であるヴァッフェの言葉に大いに共感。
この世界、というかこの国の下着はわりと洗練されていて、形状自体は前世とそれほど変わらないものがある。
ただしゴムはない。プラスチックもない。
金属か、あるいは生き物の骨で作られたワイヤー入りのブラで身体を締め付け胸を収めることになるのでぶっちゃけ苦しい。ものすごく苦しい。
逆に(?)コルセットで胸の下を締め上げ、寄せ上げた胸自体はやんわり保護する手もあるけれど、これも結局苦しいし運動にも向いていない。
ちなみに魔族はどうしているのかと言うと、
「私たちは服も身体の一部として形成できるし、そもそも加齢で垂れるとかもないのよね」
「……羨ましすぎる」
「これだから上位種族は」
生き物としてのスペックが違いすぎる奴の話はいったん置くとして。
「下着の機能を二つに分けるという方法もあるようですよ」
「というと?」
「擦れては困る部分を保護するものと、胸全体を保護するもの。二重に着用するのです」
つまり、簡易ブラの下にマイクロビキニをつけるってことか。
確かにそれなら乳首は保護されるけれど、なんだろう。なにもおかしくはないのにえっちな気がして若干気が引ける。
「もう少し柔軟な素材のブラがあればいいのに」
「それは間違いなくかなりの高級品になるかと」
男爵ごときじゃおいそれとは手が出ないか。
ゼリエがこのタイミングで言い出したのには第五王子から決闘のご褒美が入る=懐にも余裕ができるというのもあるのだけれど、とはいえあまり贅沢はできない。
間違っても男性であるクロヴィスに「下着をください」とか言えないし。
「もうしばらくはあんまり締め付けのない奴でいいんじゃないかな」
「いけません。せっかく大きくなられているのですからきちんと保護しなければ」
「そうよ。人間の巨乳にはロマンがあるわ」
むっとしたゼリエがリボン状態のヴァッフェを両手でねじった。
「痛いわね、もう少し丁寧に扱いなさいよ。……あ。それならシルヴィア、いい方法があるわよ?」
「? どういうの?」
「私があなたの下着になればいいのよ」
「ヴァッフェが」
「シルヴィア様の下着に?」
今となってはただのリボンだけれど、元のヴァッフェは妖艶な美女。
本来の姿の彼女が両手でシルヴィアの胸と下半身を隠す様を想像して──。
「ああ、そっか。ヴァッフェなら形も材質も自由自在なんだ」
「そういうこと。あなたの望みのブラに変身してあげる」
「わたしの理想のブラ……?」
財布を気にしなくていいのなら希望はたくさんある。
ノンワイヤーで、フィット感がよくて。運動してもズレなくて、ついでに蒸れにくくて、その日の服装に合わせてデザインを変えられて。
変身能力を持つヴァッフェならその全てを叶えられる……?
「天才じゃない?」
「いえ、あの、シルヴィア様がお望みならば構いませんが、この女が素肌に密着することになりませんか」
「なによ。今だって似たようなものじゃない」
「……確かに」
制服の時は服の上からだけれど、訓練着の時は素肌や髪にそのまま巻き付いてもらっている。
「それにこの前『使い切りの魔道具』って紹介されちゃったし、目立たないほうがいいじゃない?」
「リボンの振りしてる分には大丈夫だと思うけど……」
「念を入れるに越したことはありませんね」
なかなか悪くない案かもしれない。
「ヴァッフェ、わたしに変なこととかしない?」
「神聖魔法で禁じられてるのにどうやって悪戯するのよ。まあ、匂い嗅ぐくらいはさせてもらうけど」
「うん、まあ。それくらいなら今更って言うか……」
せっかくなので試しにやってみてもらった。
形も材質も自由自在だけあってシルヴィアの体型にジャストフィット。
動いてもズレないし蒸れにくい。あまりの心地良さに涙さえ浮かんできた。
「胸が大きくなっても買い替える必要ないし、心臓を貫かれても守ってあげられるわ」
「あれ、いいことづくめじゃない?」
「魔族に心臓を委ねる人間、ですか。……シルヴィア様が聖女様と同列に扱われるのも頷ける気がいたしますね」
「ヴァッフェと仲良くなれたのはただのなりゆきだよ」
誓約による縛りがなくなったら即心臓を貫かれるかもしれない。
そう考えると物語の主人公のような波乱万丈の人生を送っているのかも。
「心配しなくても、今の環境に不満はないわよ。どうせ百年もしたら自由になるんだし」
人生のスケールが違いすぎる。
「ありがとう、ヴァッフェ。これからもよろしくね」
「ええ。あなたが誰かに下着を脱がされる時が来ても、ちゃんと守ってあげるわ」
「え。……あ、そっか。そういうところまで見られちゃうんだ」
「極限の状況でも助けに入れるという意味では貴重な存在ですが……。シルヴィア様、下着は服やベッドの下に隠すようにした方がいいかもしれませんね」
「ちょっと! それじゃ美味しい場面が見られないじゃない!」
ちなみに女しかいない種族であるヴァッフェは男との絡みには興味がないらしい。
まあ、そもそも誰かとベッドを共にする予定なんてぜんぜんないのだけれど。