わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
兄よりも明るい金髪に、目の醒めるような青色の瞳。
第六王女イリスはシルヴィアと同じ一年生だ。
ただし、その貫禄は同い年とはとても思えない。
シルヴィアは今、そんなイリスと共にリゼットの部屋にいた。
当然、部屋の主であるリゼット、それからイリスの兄クロヴィスも一緒だ。今年、王族寮を使っている生徒三人が勢揃いである。
ちなみに、それぞれの使用人もいるのでけっこうな人数だけれど、部屋が広いので狭苦しくは感じない。
イリスの頭上には横に長い
『55/100(友人)』
これはいわゆる好感度表示だ。この世界で一般的な現象──ではなく、シルヴィアの能力によって彼女にだけ見えているもの。
この世界における人間国家では五歳で向いている職業を神から教えられ、十歳で恩恵と呼ばれる能力を神から与えられる。
この恩恵がたいていヘンテコなものなのだけれど。
シルヴィアの場合は『百合ハーレムSLGの主人公』。ゲームの設定かなにかか、と言いたくなるような能力はけれど本物で、こうして
イリスの好感度は良くもなく悪くもなく。
そこまで悪いようにはならなさそうだけれど、彼女の兄は悪気なく人を口説いてくる輩なので油断はできない。
「あの、それで……どうしてわたしにエリザベートへの仲介を?」
「直接手紙を送っても構いませんけれど、順を追ってお話するほうが好印象でしょう?」
騎士団案件ならシルヴィアも他人事じゃない。知らないうちに話が進んでいた、というよりはよほど安心できる。
新騎士団はシルヴィアたちが作ろうとしている新しい組織だ。
既存の騎士団から女性騎士を移動させて独立させる。男性騎士と女性騎士は任務が別になりやすいし装備の仕様も変わるためそのほうが運用しやすい等々のメリットから国の承認を受けている。
「紹介するのはもちろん構いません。でも、正式稼働はまだ先なので護衛などでしたら──」
「いいえ、私がお願いしたいのは商談のためです」
「……商談」
言われて、シルヴィアは思い出した。
第六王女イリスの受けた神託──すなわち職業適性は。
「私が貴族学校卒業後、商人になるのはご存知でしょう?」
「はい」
王族に下る神託としてはかなり珍しい。
平民になってどこかの商会に入るのではなく、伯爵位を賜って貴族として商いをすることが決まっているものの、その道行きは決して平坦なものではないだろう。
ネームバリューで多少は売れても値段と質が良くなければ継続的な利益は出ない。
大企業の業績不振がニュース番組で三十秒くらいにまとめられる世界の出身としての実感だ。
「ですので、私に協力してくださる相手を募っているのです。それも、できれば既存の権力や経済に取り込まれていない方を」
「わたしたちは職人ではありませんが……」
「構いません。例えば魔物討伐で得た珍しい素材を優先的に譲ってくださるとか、そういった協力ができればと」
「なるほど」
シルヴィアは頷いた。
これはなかなかしっかりとした提案だ。行き当たりばったりではなくある程度考えたうえで話をもちかけてきている。
「こちらからは見返りとして騎士団への資金提供を行います。素材の高額買取という形をとるか、別の方法にするかは応相談ということで」
「そういうことでしたら、わたしから言うことはなにもありません。強いて言えば……」
普通にいい人、というか互いの利益を考えられる人のようなので、クロヴィスが心配していた理由がわからない。
彼のほうをちらりと見ると「ああ」と眉を寄せて、
「こいつは王族らしくないだろう? 金や取り引きに目がないせいで礼法を疎かにする癖がある」
「お兄様ったら。いずれ対等な立場になるのですから王女として振る舞うよりもお友達を増やす方が得策でしょう?」
「そこで得が先に来るのが心配なんだ。一歩間違えればお前だけ得な話になりかねない。……まあ、シルヴィア・トーにはイリスのやり方の方がわかりやすいのかもしれないが」
「そうですね、わたしは平民出身ですので」
用件から入ってくれるとわかりやすくて助かる。
「エリザベートに連絡しておきます。早ければ今週末にお会いできるかと」
「助かります。もしかするとあなた方にとっても早いほうがいいかもしれませんし」
「?」
首を傾げると「詳細はまだ秘密です」と微笑まれた。
なにか裏事情があるのか。まあ、それも含めてみんなで相談すればいい。
話のなりゆきを見守っていたリゼットがほう、と息を吐いて、
「穏やかにお話が終わってなによりです」
「場所を貸していただいてすみません、リゼット様」
「いいえ。お話の内容が気になりましたし、わたくしも騎士団の仲間ですから」
婚約をかけた決闘騒ぎでシルヴィアたちとの交流を深めたリゼットは国王に願い出て新騎士団の協力者になった。
中心メンバーにおける二人目の公爵令嬢。正直とても心強い。
和やかに言葉を交わすシルヴィアたちを見てイリスが微笑み、
「お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「ええ。シルヴィア様とは友人であり、共に学び合う関係なのです」
「とても良いことだと思います。利害の一致は商売の基本ですもの」
なるほど、これは商人向きだ。
神様の神託──職業診断はかなり正しいと言っていい。
ちなみにシルヴィア自身の受けた神託は『戦略家』である。貴族に取り立てられたのも貴族学校に入ったのもそもそもはこれが原因。
今は、将来設立される新騎士団の専属になるのが決まっている。
「リゼット様とイリス様は以前から面識があるのですよね?」
「ええ。リゼット様のお母様と私の母は同じ王の側室ですので」
「おいイリス」
「本当のことではありませんか。腫れ物のように扱うほうがよほど悪意を感じるかと」
「お気遣いありがとうございます、クロヴィス殿下。わたくしは気にしておりませんし、シルヴィア様も事情はご存知ですので」
王子は「ならいいが」とわざとらしく咳払いをした。
「お兄様? 振られた相手の前で気まずいのでしたら先にお帰りいただいても構いませんけれど」
「だから、お前のそういうところが苦手なのだ……!」
「まあ。ゆくゆくは兄妹のよしみでお兄様の領地からも特産品を購入したいと思っておりますのに」
なかなか愉快な兄妹かもしれない。
あのクロヴィスが女性に押されっぱなしなのも面白い。
あるいは彼の女性の好みが特殊なのはイリスをはじめとする王女にあれこれ影響を受けたせいなのか。
「お兄様に遠慮して私はあまり近づかないようにしておりましたが、もうその必要もありません。シルヴィア様、私とも仲良くしてくださいませ」
「はい、わたしでよければもちろん」
こうして、どういうわけかもう一人の王族とも交流ができて。
しばらく会話をしたあと、シルヴィアはエリザベートへと手紙を送った。
返事は翌日の夕方には返ってきて。
おそらく「直接会って話を」ということになると思っていたシルヴィアは手紙の中身を読んで声を上げてしまった。
「国からの資金援助が打ち切り!?」
いきなり予算がなくなるとか、ゲームだったら開発中止フラグである。
「他貴族からの横槍、なのでしょうね」
「だからってこんな……」
ゼリエはかつていろいろあったので人の悪意を知っている。
彼女の言葉には重みがあったが、だからと言って納得できるものでもない。
エリザベートも同じなのか筆跡が少し震えていた。
そのうえで、イリスには是非会いたいとの返事。
「もしかして、イリス様が言っていたのって」
「ええ。このことだったのかもしれません」
お金が足りなくなる危機に降ってわいた商談。
第六王女イリスはなかなか、いやかなりのやり手なのかもしれない。