わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「お目にかかることができ光栄ですわ、イリス第六王女殿下」
「こちらこそ、エリザベート様のお噂はかねがね」
週末、イリスとエリザベートの会合が実施された。
場所は貴族学校内のお茶会室。
メンバーはシルヴィア、リゼット、エリザベート、それからイリス。
クロヴィスも参加を表明したものの、イリスが「男子禁制です」とそれを退けた。
お茶はイリスが用意、お茶菓子はシルヴィアが芋羊羹を持ってきた。お茶会室の手配はリゼットが行ってくれている。
そしてエリザベートは今回の主賓だ。
「ラシェル先輩は来られなかったんだね」
「ええ。彼女は現騎士団員でもあるし、あまり目立った行動はしないほうがいいでしょう。一年目の新人は特に忙しい身の上だもの」
「それって、わざと雑用を押し付けられたりしてない?」
「ふふっ。シルヴィア様は歯に衣着せぬ物言いをいたしますね」
「シルヴィア……。口に出さないほうがいいことも世の中にはありますわよ? 特に、味方以外も居合わせる場では」
紅の瞳をジト目にするエリザベート。
イリスはより一層くすくすと笑って、
「私としては味方として扱っていただきたいのですけれど。……まずは現状確認から行ったほうがいいでしょうか、エリザベート様?」
「そうですわね。イリス殿下、効率を優先し、少々砕けた説明をお許しいただけますか?」
「もちろん。手っ取り早い話はとても好みです」
王女の了承が得られたので、まずはエリザベートがざっくりと状況を説明してくれる。
「シルヴィアへの手紙にも書いた通り、新騎士団に国からの資金援助が下りないことになったの」
「理由は?」
「騎士団上層部の妨害、でしょうか?」
「その通りですわ。現副団長、および先代の団長・副団長の連名で陛下に抗議が行われたの。新騎士団に資金を提供することで騎士団の資金が減るのはおかしいと」
リゼットの推測にエリザベートが頷く。
「でも、女性騎士をこっちで引き受けるんだから人数がけっこう減るよね? 運営資金も少なくて済むんじゃない?」
「ならば騎士団を二つに分ける必要はない──いっそのこと新騎士団設立自体を取りやめてはどうか、と来たのよ」
「今更にも程がある提案ですね……」
「けれど、理がないわけではない。強硬に反対しすぎて陛下からの心証を悪くするのも下策だと、お父様はこの提案を飲んだわ」
騎士団長はエリザベートだけれど、彼女はまだ成人していないただの見習い騎士。
主な手続きは父である公爵を通して行われている。
おかげで公爵家の威光を借りることもできていたのだけれど、もともと「お嬢様のわがまま」という体で通した提案のため、いくら公爵でもできることには限りがある。
と、イリスが初めて食べる芋羊羹に表情を緩めながら、
「けれど、デュヴァリエ公爵家もただで納得したわけではないのでしょう?」
「もちろんです。当家からの騎士団への寄付金を大幅に減額することにいたしました」
うちの娘の組織に金を渡さないつもりなら我が家が直接援助する、と言ったわけだ。
寄付金は各家からの善意で成り立っているわけなので強く批判もできない。寄付をゼロにしたわけではないのもポイントだ。
「さすがに国からの資金に比べれば額が下がりますけれど、当面は問題ありません」
「現騎士団も結果的に収入減となり、多少の痛手を負うことになりますね」
イリスはお茶を飲んでほう、と息を吐き、
「けれど、相手もさらなる嫌がらせを用意していました」
「え、そうなの?」
「ええ。これは手紙の後に起こった出来事。……半年後、現騎士団長が辞任することが決定しました」
「そんな」
現騎士団長とは顔を合わせたことがある。
強く、たくましく、理性的で、戦っていない時はなんというか、気のいい親戚のおじちゃん的な親しみやすさがあった。
新騎士団にも理解を示してくれていたのに。
「エリザベート様。名目は、先の決闘の敗北ですか?」
「……リゼット様。残念ながらその通りですわ」
決闘はクロヴィスからの求婚をリゼットが退けるために行われたものだ。
結果はシルヴィアたちリゼット側の勝利。
とはいえ騎士団も十分な戦いぶりを示したし、そもそも若手に経験を積ませる目的であって全力でもなかったのだけれど。
「要するに、お兄様のわがままが原因ですわね……」
「いえ、わたくしの責任です。騎士団長にはどれだけ謝っても足りないでしょう」
「リゼット様が謝る必要はありません。要は騎士団内の権力争いですもの」
騎士団も一枚岩ではない。
現騎士団長は女性騎士や新騎士団にも比較的理解を示してくれている柔軟なタイプ。けれど、体育会系の組織においては少数派だ。
素の身体能力で劣る女に大きな顔をされたくない、と思う男性騎士は多くいる。
敗北から学ばせる騎士団長のやり方も正直、若手からの支持を集めづらいだろう。
「表向きは加齢による肉体の衰え。そこに先の決闘での敗北を絡められた形ですわ。さすがに解任させるほどの理由ではありませんから、あくまでも辞任勧告」
「騎士団長はこれに応じましたが、引き継ぎ等を理由に半年の猶予を取り付けました」
「ですけれど、次の騎士団長はほぼ間違いなく副騎士団長派閥になるでしょう」
「組織のツートップって派閥が違うほうがバランスが取れると思うんだけど」
「権力を手にしたうえでそれを言えるのであれば、その方は十分に大人物ですわ」
要するに今の副団長は小物だったわけだ。
とはいえ、シルヴィアたちが一気に動きすぎたツケが回ってきたということでもある。
エリザベートはため息をついて、
「当家からの援助にも限りがありますわ。特に今は拠点の建設等で入り用な時期。早急に後援者を探すべきでしょう」
「そこで、私の出番というわけですね」
微笑むイリス。
「シルヴィア様にもお伝えいたしましたが、エリザベート様。私、および、将来私が設立する商会へ便宜を図っていただく代わりに新騎士団への資金提供を行う用意がございます」
「願ってもないお話ですけれど、イリス殿下? 新騎士団を殿下が私物化している、と見られる恐れがあるのでは?」
「公爵家および侯爵家が援助を行っている以上、伯爵に落ちる私の名はそこまで大きくはならないでしょう」
むしろ、公爵家の独断専行というイメージを払拭できるかもしれない。
「……良いお話すぎて怖いくらいですわね」
「あら、私も皆様を応援しているのですよ? 男が幅を利かせるよりも女が活躍するほうが心地良いですもの」
「なるほど。これは確かにクロヴィス殿下がいてはできない話ですね……」
リゼットが苦笑を浮かべて、
「エリザベート様。資金提供でしたらわたくしにも協力させてくださいませ」
「リゼット様が? プレヴェール公爵家がこちらについてくださると?」
「いいえ。そこまでは申し上げられませんが、わたくしの私財もそれなりの額がありますので」
十年以上に渡って貯めてきた家からのお小遣い、教師を手伝って得たお駄賃、研究成果を提供した対価などなど。
口にされた額は元平民のシルヴィアには「いっぱい」としか形容できないもので。
エリザベートは「助かりますわ」と目を伏せ、感慨深げにしばし黙った。
「けれど、その額すべてを受け取るわけにはいきませんわ。できる限り、わたくしたちで継続的に、資金を調達する方法を考えなければ」
今回の件のように、誰かからお金を出してもらうだけの関係はあっけなく潰えてしまう可能性がある。
イリスの提案のように持ちつ持たれつの関係ならば長続きするだろうし、もっと言えば騎士団自体がお金を生み出せるようになれば一番だ。
そのためには国に属するという立場がむしろ邪魔なわけだけれど、
「……あれ?」
そこでシルヴィアは疑問に思った。
「ねえ、エリザベート? 要するにわたしたちの騎士団って、国からはなんの保証もしてもらえなくなるんだよね?」
「そうですわね。ですから名ばかりの騎士団と言うことに……」
「だったら別に騎士団にこだわらなくてもよくない? 傭兵団でも冒険者ギルドでも」
「あ」
それは生粋のお嬢様からはあまり出てこない発想だったかもしれない。