わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「……疲れた。陛下への謁見なんてもう二度とやりたくないよ」
「なにを言っていますの。戦略家は御前に出る機会の多い役職ですわよ?」
「まあそうなんだけど……寿命が縮むよ」
「と言いますか、まだ城内なのですからしゃんとしてくださいませ。謁見の間ではあれだけしっかりしていたではありませんの」
国王への謁見を終えたシルヴィアは城から宛がわれた休憩室にいた。
城付きのメイド以外は身内ばかり──エリザベートにリゼット、イリスなので多少気を抜いても問題はない。
厳しいことを言うエリザベートもほっとひと安心といった様子だ。
なんだか変な頼まれごとをしてしまったけれど、
「あれって陛下が配慮してくださったんだよね?」
「でしょうね。わたくしたちに実績をつけさせようとしてくださったのでしょう」
小さなことでも「王からの依頼を達成した」となれば箔がつく。
資金の件で騒がせたお詫びなのかもしれない。
「ははは。まあ、騎士団が手一杯なのも事実なのだがな」
「あら、騎士団長様。ごきげんよう」
入室してきたのはそれなりの歳ながら足腰のしっかりとした男性だ。
城内で帯剣を許されているのは高い地位にいる証。
彼はシルヴィアたちを見ると「しばらくぶりだな」と笑った。
「団長様。このたびは大変なご迷惑を……。なんとお詫び申し上げてよいかわかりません」
「お気になさらないでください、リゼット公爵令嬢。私ももう歳です。ちょうどよい機会だと後進へ譲ることにしただけですよ」
リゼットの謝罪にも鷹揚に答えてくれる。
そのうえで難しげに眉をひそめて、
「とはいえ、其方らの力になってやれず申し訳ない限りだ」
「それこそご心配無用ですわ。成果くらい自分たちで挙げられなくてどうします」
「頼もしいな。……いっそそちらの相談役にでも雇って欲しいくらいだ」
「あら、いつでも歓迎でしてよ?」
笑って答えたエリザベートも、実現させるとなるといろいろ面倒なのは承知しているのだろう。
二人はさっさと話題を切り替える。
「陛下からの依頼、もしかすると多少厄介な案件かもしれん」
「そうなのですか? 太陽石の採取──方法を確立できればのちのちまで役立ちそうですけれど」
首を傾げて問うイリス。
もしかしなくても、その青い瞳の奥で「余分に取って帰れないか」とかなんとか考えているに違いない。
「採取量の減少、なんらかの原因があると見るべきです。人か、自然的な要因か、あるいは魔物か」
「戦闘になる可能性もある、ということですね」
「その通りだ、シルヴィア・トー」
はっきり原因がわかっていれば騎士団を動かせる。
脅威度がわからないからこそシルヴィアたちが派遣されるわけだけれど、それはつまり「すごく簡単」かもしれないし「めちゃくちゃ大変」かもしれないということだ。
「もっとも、其方らの戦闘力はかなりのものだ。そうそう遅れを取ることはあるまいが」
「騎士団長のお墨付きとなれば少しは誇っても良いかもしれませんわね」
ちょうどもうすぐ夏季休暇。
貴族学校も上級騎士学校も休みに入るため、採取および調査はそこを利用して行うことになった。
馬車や保存食など最低限の必要経費は国王持ちなので安心。
問題といえば、
「気をつけろよ。さすがにあからさまな妨害はしてこないだろうが、騎士団員の中には『銀百合』を快く思わない者もいる」
シルヴィアたちがきちんと仕事を達成するかどうか監視するために数名、男性騎士が同行するということだ。
◇ ◇ ◇
「へー。じゃあみんなで旅行できるんだ! しかも大きな湖なんて楽しそう! 時間が余ったら泳げるんじゃない?」
「クレールは本当に気楽でいいですわね……」
「難しいこと考えるのはエリザベートたちの役目だもん、ね、イザベル?」
「いえ、あの、私は家格的にお呼びでないことが多いだけなので」
暗に「脳筋と一緒にするな」と言ったようなものである。
それはともかく。
城から帰ってきてしばらく。今はエリザベートの部屋に集まって作戦会議&結果報告中だ。
「でも、男性騎士が一緒なのは不安ですね……?」
「別ルートで入手した石を陛下に献上する、という手もありますもの。監視自体は真っ当だと思いますけれど、まあ面倒ですわね」
「で、どうするの、シルヴィア?」
「え、わたしがどうにかする前提なの!?」
「戦略家だし」
「戦略家ですしね」
「頑張ってくださいシルヴィアさん」
みんなが厳しい。
別に戦略家って作戦ならなんでも立てられるすごい奴でも、頭脳労働全般を担当する雑用でもない──いや、前者はともかく後者はそうかもしれない。
「うーん……って言っても『ついてくるな』って言うのは難しいよ」
むしろ存分に見てもらってしっかり報告してもらいたい。
「ちゃんと記録してくれないとか、事実を捻じ曲げて報告されるとか、なにか嫌がらせをしてくるとかのほうが心配かな」
「……シルヴィアさんってときどきすごく腹黒い発想をさらっとしますよね?」
「イズがそれ言うんだ!?」
「私、そんなにひどいこと言ってますか……!?」
「うん。言ってるよね、クレール?」
「うん。ときどき言葉のナイフが凄いよ」
「……そんな。私って」
ずーん、と、イザベルが落ち込んでしまった。
親分であるエリザベートは「そのうち復活するでしょう」とあっさりそれをスルーして、
「監視の監視を連れて行くというのはどうかしら?」
「信頼のおけるひとをさらに呼ぶってこと? でも、あんまりわたしたちと仲のいい人だと意味がないよ?」
「ですので、騎士には騎士ですわ」
「なるほど。それはありかも」
◇ ◇ ◇
というわけで。
「こうして顔を合わせるのは久しぶりですね、エリザベート・デュ・デュヴァリエ公爵令嬢?」
「ええ。お変わりないようでなによりです、マルグリット上級騎士。それからサラ上級騎士」
「はい。お目にかかれて光栄です、公爵令嬢」
騎士団に要請して女性騎士をつけてもらうことにした。
騎士団内で希望者を募り、選別が行われた結果、選ばれたのがマルグリットとサラという二人の上級騎士。
上級騎士、というのは単なる区分だ。
見習いから新人騎士、新人騎士から正規騎士、正規騎士から上級騎士と言ったところ。正規騎士と違うのは主に尊敬のされかたと給料の額。
それにしても。
『いきなり喧嘩腰ね、二人とも』
服の中から骨伝導みたいな要領で声がする。
魔道具による遠隔通話──ではなく、シルヴィアの下着に化けている者からの囁きだ。
下着である。
魔族ヴァッフェ。この世界における上位種族である魔族は形態変化を得意としている。訳あってシルヴィアと行動を共にしているヴァッフェは特に武器や衣類への変身が得意。それを活かして『超快適下着兼最強クラスの防具』をしてくれているのだ。
話がそれたが、確かに二人とも喧嘩腰である。
エリザベートが相手を上級騎士と呼んだのに対し、二人は公爵令嬢と呼んだ。これはつまり「騎士としてのあなたを認めていない」という意味だ。
「既にお聞き及びかと思いますが、わたくしたちは陛下の命により太陽石の採取に赴かなくてはなりません。お二人にはそれに同行していただきたいのです」
「ええ、もちろん構いませんわ」
「むしろ、ようやく私たちに出番が来たのかと」
つまり、こういうことだろう。
──『銀百合』設立も王子との決闘も見習いばかりで済ませやがって。
女性騎士は結婚・出産による引退が多い。
マルグリットとサラはそんな中で上級騎士に上り詰めた数少ない女性、つまり自分の経歴にも実力にも自信があり、それだけに子供が勝手にでしゃばるのが面白くないのだ。