わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「禍根を残したまま任務に出たくはありません。ここは一つ、私たちを『使う』だけの実力があるか示していただけないかしら?」
「望むところですわ。……では、外に出ましょうか?」
どっちが偉いか喧嘩で決めようぜ。上等じゃねえか表出ろよ。
「お嬢様同士なのにどうしてこうなるのかなあ」
「ごめんなさい。騎士って血の気の多い人種だから」
仲が良いのか悪いのか、連れ立って屋外へ出ていくエリザベートとマルグリット。
彼女らの後をゆっくりと追いながら呟けば、サラ上級騎士がそれに並びながら苦笑した。
シルヴィアは「?」と首を傾げて、
「サラ様はあまり怒っていらっしゃらないのですか?」
「サラでいいわ。私は平民出身だから。階級は騎士爵だし」
騎士爵は平民出身の騎士用に設けられた階級だ。
貴族ではないもののそれに準ずる扱いをする。シルヴィアがかつて与えられた『準男爵』よりも下の、ほとんど名前だけのもの。
現在『男爵』であるシルヴィアはサラよりも階級的に上ということになる。
「ですが、サラ様のほうが歳上ですし」
「本当は堅苦しいのは苦手なのよ。……それで、さっきの質問に答えると、私が嫌いなのはあの子であってあなたじゃないから」
「なるほど……」
お嬢様はいけ好かないけど、同じ平民出身のシルヴィアには親近感があると。
「マルグリット様はわたしたちばかりが目立っていることに怒っているんですよね?」
「そうね。『銀百合』設立自体は歓迎だけど、現騎士団で苦労している私たちを差し置いて子供が注目されるのはね」
「それはその通りだと思います」
本当ならば広く人材を使っていくべきだった。
とはいえ、決闘の時点で引っ張ってこれるメンバーとしてはあれがベストだったのも事実。
となるとこの諍いは起こるべくして起こったものであり──マルグリットたちにここで声をかけられたのは幸いだった。
◇ ◇ ◇
上級騎士学校の制服はそのままでも剣が振るえるようにデザインされている。
エリザベートは着替えを不要と宣言し、そのまま愛用の模擬剣を手にした。
「ドレスで来なかったのは褒めて差し上げます」
「わたくしは騎士ですわ。正装を纏う際も、戦う可能性は頭に入れております」
「騎士と言ってもまだ見習いでしょうに」
騎士団の訓練場はさほど混んでいなかったため、すぐに場所を確保することができた。
紅の瞳に戦意を宿すエリザベート。
向かい合うマルグリットが手にした得物は、
「……ハンマー!?」
「ああ、これはあの子、本気みたい」
クッション的なカバーを被せた木槌。
衝撃はだいぶ和らぐだろうし金属製よりはましだけれど、当たるとけっこう痛そうだ。シルヴィアなら一発でダウンするかもしれない。
マルグリットがハンマーの似合う体格──筋肉ゴリラかと言うとそんなことはない。長身だし、しなやかな筋肉がバランスよくついているけれど、ドレスを着てもそれなりに似合いそうだ。
そんな女性の手が木槌を軽々、片手で持ち上げて。
「私の武器は寸止めに向いておりません。ですので、どちらかが立ち上がれなくなるか負けを認めるまでの勝負、ということでよろしいでしょうか」
「構いませんわ。短期決着では実力を示したとは言えませんし」
これは止められそうにないな、と、サラと二人でため息をつく。
「マルグリット。ほどほどにしてくださいね」
「エリザベートも。仲良くするために来たんだからね?」
「わかってる」
「同じくですわ」
本当にわかっているのか。
「はあ……じゃあ、始め!」
サラの合図と共に激しい打ち合いが始まった。
打ち合い、というか、殴り合いだ。
「はっ!」
マルグリットの槌技は豪快かつ軽快だ。
両手持ちの木槌が片手でぶんぶん振り回され、敵を襲うと同時に反撃を許さない。
感覚的にはラシェルの槍がそのままハンマーに変わったようなもの。
なんというか、あまりにもわかりやすい暴力。
『ゴブリンくらいならぷちぷち潰せそうね』
ゴブリンも決して「ぷちぷち」で潰していい相手ではないのだけれど。
「お、マルグリットが暴れてやがる」
「相手はまだ子供じゃないか。全く、ひどいことをする」
名物的な光景なのか周りの騎士まで見学に来た。
「あの、マルグリット様はいつもハンマーを使われるのですか?」
「ああ。試合なんかの時はさすがに別のを使うけどな。実戦やそれに近い時は基本あの手の武器だ」
「『銀百合』の件で来たんだろう? 俺達騎士団の本当の実力、少しは知っておくといい」
「恐縮です」
団長の連れてきた若手が『要成長』の者ばかりだったのはわかっていた。
わかってはいたけれど、上級騎士がこれほどとは。
まあ、考えてみると騎士団長だって全盛期はとっくに過ぎているのにリゼットの突風魔法をぶった斬り、クレールと真っ向から切り結んでいたわけで。
ゴブリンをぷちぷち潰せるくらいで驚いてはいけないのかも。
「それにしても驚きだよな、あの怪力」
「これも恩恵の力なんだろうな」
同僚からしても驚きだった。
ともあれ、やっぱり恩恵が関わっているのか。
「大丈夫かな、あの子」
嫌いと言っていたくせにサラまで心配モードである。
「……くっ」
エリザベートはというと。
あまり経験のないタイプの相手に少々攻めあぐねていた。
一対一のスペシャリストとはいえ、剣とハンマーでは武器の『重さ』が違う。
ついでに言うと有効打の範囲も段違いなので迂闊には攻め込めない。
さらに、エリザベートの本領は自分なりの『型』を組み合わせた流麗な攻撃。
荒々しい暴力の嵐に差し込み、かつ有効打にできるかと言うと──。
「このっ!」
「あらあら、怖い」
案の定、鋭い突きが攻撃の隙間に見事差し込まれたものの、マルグリットは武器を持っていないほうの手でそれをガード。
もちろん痛いはずだけれど、刃の入っていない剣なので致命打にはならない。実戦ならば手甲で弾いていたところだろう。
そして、攻撃すれば隙ができるため深追いができない。
向こうの攻撃は一発で大ダメージなのだから本当に困る。
──結果、戦いはちまちま削るエリザベート対一発を狙うマルグリットの構図になった。
でかいハンマーはスタミナも消耗するはずなのだけれど、どういうわけかマルグリットはけろっとした顔。
逆にハンマーを回避し続けるエリザベートのほうが肩で息をし始めてしまう。
戦略コマンドを使うか? いや、ここはエリザベートに任せるべきだ。絶対に勝たないといけない決闘でもないし、むしろ騎士の誇りに泥を塗ってしまう。
「そろそろ限界ですか?」
「まだまだ、ですわっ!」
ここでエリザベートは奥の手に出た。
かすかな魔力の輝き。その後から令嬢の動きが一気に良くなった。
どちらかというと戦い始めた当初に戻ったというべきか。
さらに、ハンマーが剣をかすめても体勢が崩れなくなった。
「身体強化を姿勢維持に利用したのね。……あの歳でそこまで」
彼女の恩恵は『2D格闘ゲームのキャラ』。
格ゲー風に言うならあれはスーパーアーマー。通常発生するよろめき等の不利な動作をキャンセルする能力だ。
決闘時に見せた「燃える剣」とは別の固有能力。
さらに、型にはまった動作をブーストする特性を「疲労に関係なく型をトレースする」手段として利用、疲れた身体を押してさらなる猛攻をかける。
「これは、なかなか面白いです……ねっ!」
マルグリットもまたそれに応じて勢いを増し、
「そこまで! 勝者──マルグリット!」
戦いが終わった時には、エリザベートは座り込む力も残っていないのか地面へ大の字に横になっていた。