わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「期待以上の腕前だったわ。失礼な態度を取ってごめんなさい、エリザベート」
「いいえ、わたくしのほうこそ目上の方への敬意が足りておりませんでした。申し訳ありません、マルグリット様」
喧嘩すると仲良くなるのは騎士も不良も変わらないのか。
戦いを終えて別室に移動した後、エリザベートとマルグリットは仲直りをしてくれた。
両者が身体に負った打撲痕はシルヴィアの神聖魔法によってすっきり消えている。
「治療ありがとう。やっぱり神聖魔法は便利ね」
「騎士団にも癒し手はいるんですよね?」
「神殿から毎日聖職者が派遣されてくるわ。ただ、魔力も有限だし希望者も多いから」
一定以上の怪我でないと利用できなかったり、手一杯ですぐには来てくれないこともあるらしい。
「『銀百合』にはわたしがいますし、アンジェ様も参加予定ですからもう少し気軽に利用できますよ」
「それはとても助かるわ。……三年後と言わず今すぐ始められないかしら」
「……マルグリット様? わたくしとシルヴィアでずいぶん対応が違いませんこと?」
「公爵家のご令嬢と平民からのし上がった子を区別するのは当然でしょう」
仲直りしても微妙に馬は合わないか。それともじゃれ合いの範疇だろうか。
「マルグリット様。サラさん。わたしたちの遠征にお付き合いいただけますか?」
あらためて尋ねると、二人の上級騎士は笑顔で頷きを返してくれた。
「ええ、もちろん。こちらこそよろしくお願いするわ」
「私たちの役目はあなたたちの手伝いと、男たちの監視ってことよね? 任せて」
やっぱり同性だと話をしやすい。
二人の頭に浮かぶ60台の好感度をちらりと見つつ、シルヴィアはほっと胸をなでおろした。
◇ ◇ ◇
話がまとまった後、せっかくなので四人で食事を取ることに。
街の料理店にてエリザベートの奢りである。
店の格としては高くもなく低くもなく。マルグリットが希望したのは肉料理の美味しい店で、どちらかというと男性向けである。
「お二人はよくこういった店に来られるのですか?」
「それなりに、かしら。サラがあまり乗り気ではないから頻繁には来られないわ」
「私にはこのあたりの店は高いもの。屋台で串焼きでも買ったほうが安いじゃない」
ここぞとばかりに骨付き肉のステーキを頬張りつつ答えるサラ。
「わかります。自分だけ美味しいもの食べてると家族に申し訳ない気がしますよね」
「そうそう。でも父も母も『いいから自分のために使いなさい』ってあんまりお金を受け取ってくれないのよ」
「うちもそうなんです」
どこもそういう悩みがあるんだな、と頷きあう。
「……家に恩を返すのはこれからの話だと思っていましたわ」
「私の父も、渡したお金は遠慮なく持っていくわ」
貴族組はシルヴィアたちのあるある話に不思議そうな顔。
ちなみに上級騎士マルグリットは侯爵家の分家筋。こちらも本来ならなかなかのお嬢様である。
「それにしても、まだ上級学校の一年生なのでしょう? その歳でその実力は少し妬けてしまうわ」
ため息をつくマルグリット。彼女も骨こそついていないものの、かなり分厚いステーキをナイフで切っては口に運んでいる。
「やっぱり恩恵の力? かなり独特の性質のようだけれど、発見した経緯はあるのかしら」
「申し訳ありませんが、さすがに軽々しく申し上げられる内容ではありません。……神に誓っていただけるとおっしゃるなら話は別ですけれど」
「なるほど。……そういうこと」
上級騎士二人の視線がシルヴィアに向く。
似たような話の流れはこれまでにも何度か経験がある。というか第一号がほかでもないエリザベートだったのだけれど。
プライドが高いマルグリットは少し悩む様子を見せてから「いいわ」と頷き、
「食べ終わったら場所を変えましょう。どこかいいところはあるかしら?」
「でしたら、神殿で部屋を貸してもらいましょう」
「さらっと神殿で個室を借りられるのもなかなかの特権よね……」
実際、いきなり行ったのに顔パスだった。
「では、これから話す内容を誰にも伝えないこと、わたしに危害を加えないことを約束してもらえますか?」
「そのくらいなら喜んで」
「私も」
神への契約が行われた後、二人の恩恵を見せてもらう。
それぞれの前に浮かび上がった光文字をじっと見つめて、
「もしかして、これは『そういうこと?』」
「ええ。シルヴィアは神の言葉を理解できる『恩恵』の持ち主なのですわ」
「それはまた……念には念を入れたのも頷けるかな」
シルヴィアの本当の恩恵は別なのだけれど、ややこしくなるので秘密にしている。エリザベートにも、クレールにさえ言っていない。
そして、
「まず、マルグリット様の恩恵なんですけど──これって」
「怪力の秘密が書いてありましたの?」
「怪力って。いえ、私も気になるけれど」
「うん。でも、これはちょっと予想外」
てっきり戦闘系のゲームだと思ったのだけれど。
『あなたは倉庫整理系パズルゲームの操作キャラクターだ』
めちゃくちゃ狭いジャンル指定じゃない……?
しかもパズルゲーム。
倉庫整理系と言うとつまりあれか。マップごとに決められた場所へ荷物を押して移動させていくタイプのパズル。
倉庫番を主人公にしたレトロゲームが有名だけれど、シンプルなルールなのに奥が深くやり込み甲斐がある。全然別ジャンルのゲームにミニゲームとしてついた挙げ句、めちゃくちゃこだわって作られていることもあったり。
「どうやらマルグリット様の恩恵は本来、荷物運びに有効なもののようです?」
「どういうこと?」
「一定までの重量物を動かす際の疲労を大幅に軽減できるのではないかと。心当たりはありませんか?」
「あるわ。遠征でも戦闘でも重宝してる」
「三人分くらいの荷物を持って平然としているものね」
「……本当にそれは人間ですの? クレールだってさすがに疲れはしますわよ?」
パズルゲームの操作キャラクターは疲れない。
平面ステージで描写する都合上の話だけれど、自分よりも大きな荷物をえんえんと押し続けられる。
「その『疲れずに運べる』っていう特性を戦いに応用したのがあのハンマー戦法だったんだよ」
「あれも反則じみていましたわね。あれだけの重量物をえんえんと振り回すのですから」
「なるほどね。私は本来、倉庫番でもするべきだったのかしら?」
「いえ、天職は騎士だったのですからこれでいいんじゃないかと」
能力についてあっさり言い当てたことで二人は信用してくれたらしい。
「じゃあ、私の恩恵をもっと活かす方法はないかしら?」
「そうですね……。屋外での戦闘なら岩や木も投げられるかもしれません」
エリザベートが「ゴリラか」という顔をしつつ口をつぐんだ。
「それは試したことがなかったわ」
「もしかすると固定されているものには効果がないかもしれませんが、先にハンマーで折ったり掘り起こせば使えるかと」
こうなると俄然わくわくし始めたのはサラだ。
「シルヴィア。それじゃあ私は? 私の恩恵はどうなの?」
「そうですね。サラ様の恩恵は──」
光文字を読み進めていったシルヴィアは「ううむ」と微妙な顔になった。
期待しているサラには悪いけれど、なんというか。
「使い所がかなり限られるうえ、戦闘に活かすのは難しいかもしれません」
「なにそれ。私だけそんな恩恵なの?」
納得いかないという顔をしているので説明すると、聞いた当人も「ええ……?」という顔になった。
「私、騎士より冒険者のほうが向いてたんじゃない?」
「そうかもしれませんね……。あ、でも、もしかしたら今回の遠征では役に立つかもしれません」
なにか良い使い方はないか、と考えているうちに思いついたこともあるので一緒に伝えておく。
なにはともあれ、女性陣とはこれでなんとか仲良くできそうだ。