わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
前方から武装した人間。十人以上がこっちへと向かって来ている。
「……うそ」
襲撃者たちの出どころは横合いにある森だ。
中から馬車の接近を観察して進路を塞ぐように飛び出してきたらしい。
森の中からは後続がさらに参戦中。
抜き身の刃物を携えている者、弓矢を構えている者。装備は統一されておらず、自警団や衛兵の類には見えない。
「シルヴィア様、一体何が……!?」
「賊です。たぶん野盗だと思います」
馬車の中へと答えながら剣に手をかける。
久しぶりの真剣。たまに素振りはしていたので「重くて持てない」ということはないけれど。
「シルヴィア! あなたはそのままリゼット様たちの護衛を!」
指示をくれたのは最後尾に位置するマルグリットだ。
既に剣を抜いており、前方と同時に後方を警戒している。
「エリザベート! ひとまず前の敵は任せる!」
「構いませんわ。別働隊が迂回してくるかもしれませんし」
先頭馬車にクレールたちが乗っていてよかった。
黄緑色の髪の見習い騎士は既に馬車から飛び降りて剣を引き抜いている。紅の瞳の公爵令嬢も剣を手に状況把握の最中。
さらに槍を手にした少女、もとい女性──正規騎士一年目のラシェル・アランブールが飛び出していく。
「ボクたちの馬車に手を出すなんて運がないのか考えなしなのかわからないね……っ!」
敵の練度はそこまで高くないようだ。
クレール、そして後に続いたラシェルは飛び来る矢を打ち払い、あるいはかわしながら接近していく。
御者台に陣取った藍色の髪の弓使い、イザベル・イスト男爵令嬢がしなやかなエルフの柔弓を手に敵の射手を優先的に射ていく。
「はっ。言っておくが、俺達は手を貸さないからな」
「野盗ごときに負傷するようならそれも報告するとしよう」
「……まったく、好き勝手に言ってくれますわね」
先頭馬車付近で待機したまま呟くエリザベート。
イザベルや御者の護衛として残った形か。ひとまず前の敵はクレールたちだけで大丈夫という判断なのだろうが。
さすがに数が多い。
かつてシルヴィアたちは自分たちの何倍もの数のゴブリンを倒したことがある。とはいえ人はゴブリンよりも強い。
戦闘訓練を受けておらず、恩恵も戦闘向きではない成人男性一人がゴブリンとだいたい互角の戦闘力。武器の扱いをある程度学んだ者ならば脅威度は一気に跳ね上がる。
馬車を襲うような輩が腕に覚えを持っていないとは思えない。
「それにしても……」
賊の構成に不可解な点がある。
女が多い。見える限り約半数が成人女性だ。
普通、こういう荒事を行うのは男が主だと思うのだけれど。
「なにか女の人がそうしないといけない理由があるのかな」
「シルヴィア様。女が流れ者や冒険者、荒くれになることはそう珍しくありませんよ」
答えたのはシルヴィアのメイドであるゼリエだった。
生まれは子爵家の令嬢、幼い頃に神殿に預けられ、いろいろあってグレたあげく犯罪を犯して借金のカタに労働中──という、なかなか壮絶な経歴の彼女は苦笑を浮かべて、
「なんらかの理由で家や仕事をなくした時、女が生きて行く術は多くありません。かつての知り合いにも、娼婦となることを嫌って賊に堕ちた者がいました」
グレていた頃の話か。
「それもやるせない話だね……」
言っている間にも戦いは進行していく。
射手を次々と無力化された野盗たちはやむなく接近戦を開始。数人がかりで襲いかかってくる敵をクレールたちがいなしていくも、その動きは少々鈍い。
「そっか、相手が人間だからだ」
ルールのある試合以外で人間と戦うのはこれで二度目。
一度目の相手であるゼリエは結局、神聖魔法でぶっとばしたので、武器で人を無力化しないといけないのはこれが初めてなのだ。
悪党はなるべく捕らえて罪を償わせるのが騎士のやり方。
やりすぎて殺してしまわないよう手加減しつつ戦意を削いでいかないといけない。
さらに。
「おらおら! 命が惜しかったら大人しく身ぐるみ剥がされなぁ!?」
敵の先遣隊からだいぶ離れた位置、クレールたちを迂回してシルヴィアたちの横手から迫るように別働隊が現れた。
声を上げているのは三十歳くらいの大柄な女性。
手斧を手にした彼女は大声でこちらを恫喝しながら十名程度の部下と共に迫ってくる。
まだある程度の距離はあるけれど──。
戦えるほど本調子ではないリゼット、その傍についているアンジェを一度振り返ってから、
「《聖なる光よ》!」
「っ、神聖魔法だと!? お子様騎士の集団だと思ったら!」
とはいえ単調な飛び道具はそうそう当たらない。
頭らしき女性は部下を蛇行させながら近づいてきて、
「させませんわよ!」
「さすがにこれ以上、別働隊はなさそうね。なら私たちも」
「ええ、働かせてもらいましょう」
「思ったよりも手練れが多いね。こりゃあやきが回ったかね」
「あら、大人しく武器を捨てて降参なさいまして?」
「冗談。こっちはいつでも生きるか死ぬかなんだよ!」
飛び出した部下へ、ごっ! と鉄のハンマーが叩きつけられて、
「しまった、手加減が難しいわね」
メンバー最大の怪力を誇るマルグリットが怖いことを言う。
頭とはエリザベートが接敵。
「マルグリット様に比べればどうということはありませんわ」
「はっ、言ってくれるじゃないか──何!?」
振り回される手斧を軽快にかわした令嬢は鋭い動きで斧の柄を切り飛ばしてしまう。
金属部分を落とされた頭は拳を握って格闘戦に移ろうとするも──ひゅん、という音と部下の悲鳴を聞いて表情を歪めた。
「鞭、だって?」
片手に短めの剣を、もう一方の手にしなやかな鞭を握っているのは上級騎士サラだ。
鞭。
日本では映像でたまに見かける程度、いちばん身近なのがSMプレイかもしれないレベルの珍しいアイテムだったけれど、この世界でも武器としては決してメジャーではない。
けれど、サラが振るう鞭はしなって伸びて敵を打ち、びしぃっ! と聞くだけで痛いとわかる音を響かせている。
覚悟して野盗をやっているはずの者たちでさえこれにはついつい及び腰に。なにせ鞭は軌道もリーチも読みづらく、近づくだけでも怖い。
「うん、けっこう使えるかも。シルヴィアの助言のおかげかな」
サラが鞭を練習し始めたのは『恩恵』の影響。
あの時確認した彼女の恩恵文は要約するとこんな感じだった。
『あなたは釣りゲームの操作キャラクターである』
まさかの釣り。
正直、雑食性のシルヴィアも釣りジャンルのゲームには手を出したことがない。
オタクの大半はインドア派であり、釣りも生きた魚も縁遠い。ゲームで釣りして何が楽しいの? というか別ジャンルのゲームにミニゲームで釣りを入れるのやめて、と思っていた。
しかも戦闘には役に立ちそうにないし。
なんで騎士向きだと判定されたのかと神様に訴えたくなった時に思いついたのが「細くてしなるものを振るのが得意ってこと?」ということだ。
本来の使い方は野外で食料を調達する時くらいしか使えなさそうだけれど、もしかすると鞭に活かせるかもしれない。
その結果が、なにやら楽しそうにひゅんひゅんする鞭の音だ。
「なんなんだよ、あんたら!? 騎士団ってのはこんなに奇人変人の集まりだったかい!?」
本当にごめんなさい。
泣き言を言いつつも襲いかかってきた頭はエリザベートに殴る蹴るされて倒れ、部下たちもさんざんハンマーや鞭にいじめられた末に降参。
その頃には前方の賊も綺麗に片付いていた。
なんというか、その。
これをきっかけにサラが女王様に目覚めてしまったらどうしよう、と「サラにいじめられるマルグリット」を想像しながらシルヴィアは思った。