わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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思わぬ情報源

「まさかこんな形で再会するとは思いませんでした」

「こっちこそ。そんなお嬢様のメイドをやっているなんて、随分牙を抜かれたもんだね、ゼリエ」

「命を救っていただきましたので。……それと、シルヴィア様は平民出身ですよ」

「関係ないね。苦労知らずの恵まれた人間には違いないだろう」

 

 野盗の頭はゼリエの知人だった。戦闘中に少しだけ聞いた「グレていた時代に知り合った相手」だ。

 彼女は部下と共に縄でぐるぐる巻きにされて座っている。こんなこともあろうかと捕縛用の道具を多めに用意しておいてよかった。

 ただ、捕らえられても悪びれる様子はなくて。

 

「馬車への襲撃、略奪未遂。これだけでも捕らえるには十分な罪ですわ。反省してくださいます?」

「はっ。こっちはこうでもしないとやっていけないんだ。養わなきゃいけない部下もたくさんいるしね」

「では、誰かに命令されたわけではありませんのね?」

「ああ。そもそも、大人の騎士がこれだけいるって知ってりゃ手を出してないさ」

「はっ、馬鹿じゃねえか。そんな事言いながら結局注意が足りてねえ」

「戦ってもいない人間は黙っててくれる?」

「ぐっ……。この、マルグリット」

 

 いろんな意味で上級騎士を連れてきたのは正解だった。

 横から茶々だけ入れてくる男性騎士にはこのまま黙っていてもらうとして。

 

「なにか事情があるのではないでしょうか?」

 

 皆に声をかけたのは聖女見習いのアンジェだった。

 

「どうか話してください。事情によってはお力になれるかもしれません」

 

 次期聖女だけあって彼女は慈悲深い。

 野盗なんて問答無用で捕縛、移送の後に引き渡しでも問題ないのだけれど──余罪によっては重罪もありえる。シルヴィアとしてもあまりひどい目に遭われるのは気分が良くない。

 頭は「甘いね」と目を細めたうえで、

 

「あたしはこの先──湖のほとりにある街の出身でね。昔は普通に暮らしていたんだが、家族を病で亡くしたうえ、家業が立ち行かなくなってね」

 

 部下たちも(出身は違えど)なにかしらの理由で生活が苦しくなり、困っているところを拾われた者たちらしい。

 イザベルが藍色の瞳を揺らめかせて、

 

「今は戦時でもありませんし、国は安定していると思っていたんですけど」

「個人単位なら困っている人間なんて山程いるさね。お上が数字しか見ていないだけさ」

「貴様、陛下を侮辱するか!」

「だから黙ってなさいって言ってるでしょうに」

 

 日本だって戦後かなり経っているけれど困っている人はいた。

 普通に生活できている人間からはなかなかそれが見えないだけ。そういった人が寄り集まった結果、こういうはぐれ者の集団が生まれる。

 

「家業が立ち行かなくなった……もしかして、あなたの家は太陽石の採取を?」

 

 リゼットが尋ねると「ああ、そうさ」との返答。

 

「うちの親やその親は街の方針にずっと反対していた。なのにあの連中は聞きやしない」

「石が採れなくなってきた原因を知っているんですか?」

「ふん。あんたたちに教えてなにか得があるのかい?」

 

 馬鹿にするように見返される。

 こちらが尋問する立場──なのだけれど、どうやら少し足元を見られてしまったらしい。

 見返りを要求されると弱い。

 

「別にボクたちとしては拷問してもいいんだけど?」

「ラシェル先輩」

「サラ先輩がちょうどいいもの持ってるじゃないか。脅すくらいなら問題ないんじゃないかな?」

 

 このままだとサラのイメージが女王様で固定されてしまいそうだ。

 

「んー。そもそもさ。この人たちってこのままだとどうなるんだろ?」

 

 クレールの疑問にはエリザベートが、

 

「衛兵隊か騎士団に引き渡すことになるでしょう。可能であればアジトを突き止めて所持品の押収もしておきたいところですわ」

「ここから都に戻るのは大変だし、馬車にも乗り切るわけないから……湖の街までいったん連れていくしかないかなあ」

 

 街の衛兵所で預かってもらい、都から呼んだ応援に回収してもらう。

 

「むう。引き渡すのやめる、っていうわけにはいかないよね?」

「無理に決まっているでしょう。この者たちに身ぐるみ剥がされた者もいるはず。……下手をすれば彼らもまた食うに困っているかもしれないのですわよ?」

「でも、湖のことに詳しいなら話は聞いてみたいよ。少しくらいなら譲歩してあげたい」

 

 交換条件で提示できるのはどこまでか。

 

「なんだかいつもこれに頼ってるけど……神聖魔法で縛りを受けてもらう、とかかなあ」

「待てよ、それでどうするつもりだ? まさか野放しにするわけじゃないだろう」

 

 男性陣からの三度目の文句。

 とはいえこれはもっともな意見だ。さすがに「悪いことをしないって誓わせたから無罪放免ね」は無理がありすぎる。

 

「……報告する罪状を減らすか、信頼のできるところで安く働いてもらう、くらい?」

「面倒くせえ。平民ごとき全員殺しちまってもいいだろうに。さすが元平民様はお優しいなあ」

 

 そろそろ一回くらい神聖魔法叩き込んでも許されるだろうか。

 

「はあ。アンジェもシルヴィアも甘すぎますわ。……甘く見積もっても恩情を願い出るのがギリギリ。それ以上はまかりませんわよ?」

「本当に甘いね。だけど、こっちとしちゃ願ってもない。あんたたちみたいな甘ちゃんに捕まったことを感謝するさ」

 

 全員に「逃げ出したり暴れたりしない」と神聖魔法で誓約してもらい、アジトというか荷物の隠し場所を教えてもらう。

 色んな場所を転々としていたらしく拠点らしい拠点はなし。手に入った品も極力すぐに換金、軽い宝石などに換えてしまうため大した量はないらしい。

 案内に二名程度を連れ、サラとクレール、男性騎士の片方を回収へ。

 彼女たちが帰ってくるまでの間に詳しい話を聞く。

 これは今日中に街へ着けそうにないな、と思いながら。

 

「あたしも具体的な原因までは知らないさ。でも、あたしたちの家は街の方針転換が原因だと思っている」

「私も詳しい話は聞いたことがありませんでしたね。……いったいなにがあったのです?」

「魚だよ。レイユフィッシュを商売に使えないかって売出し始めたんだ」

 

 レイユ湖のほとりにあるレイユの街には「レイユフィッシュ」という珍しい魚が生息している。

 きらきらとした鱗が特徴の魚なのだが、古来から「食用には向かない」と放置されてきた。

 しかし、そのせいで大繁殖、太陽石採取のための邪魔になるほどで、業を煮やした街の住民が「さらなる収入源確保も兼ねて」とレイユフィッシュの商業利用を始めたらしい。

 

「あれは鱗がぽろぽろ剥がれやすい魚でね。捌くのはそんなに難しくないのさ。それに油で揚げればまあまあいける」

「平民の家で揚げ物はちょっとハードル高いけど、屋台とかならまあまあ見かけるね」

「農法の改良、魔道具を用いた加工の工夫、レシピの多様化に伴う食料需要の向上──親世代、祖父母世代からの努力が齎した生活環境の影響ですわね」

 

 要はそこそこ現実的に、そこそこ美味しく食べる方法がようやく使えるようになったということ。

 ここ二十年ほどでこの流れは徐々に加速していった。

 

「今じゃレイユフィッシュを揚げたのは街の名物さ。珍しい魚として貴族家なんかにも卸されてる」

「……わたくしも食べた覚えがありますね」

 

 公爵令嬢であるリゼットが呟くと、頭はため息をついて、

 

「駄目なんだよ。レイユフィッシュは神聖な魚なんだ。あたしのばあちゃんなんかは口癖のように『罰当たり』って言ってた。いただく時は湖にあるほこらにお祈りしろって」

「民間信仰は根拠のないものが大半だ。その上、一匹採るごとにお祈りだと? 馬鹿馬鹿しい」

「そう。そういう連中があれを乱獲してるんだよ。だから太陽石が減ってるんだ。ばちがあたったんだよ」

 

 石が減れば採取を生業とする者たちの中にも失業者が出てくる。

 家族を病で亡くして一人で続けていた頭はこれ幸いにとハブられたらしい。

 

「なるほど。太陽石の減少と時期的には重なりそうですけれど……ばちがあたった、などということが本当にあるのかしら」

「神様がいるんだからばちくらいあたってもおかしくなくない?」

「シルヴィアさんが神聖魔法を使えるのは今考えると当然ですよね」

 

 なんか「一般人と考え方が違うよねお前」って言われた気がする。

 

「とにかく、調べてみる価値はありそうだよね。お頭さん、手伝ってくれますか?」

「いいよ。ここまで来たら乗りかかった船だ。……まあ、あたしはあの街じゃいい顔されないだろうけど」

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