わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
野盗との遭遇のせいで二日目も野営に。
数倍に増えた食料消費は押収した物品の中から賄わせてもらった。ついでにシルヴィアたちの手持ちも節約。とっておいても悪くなってしまうし有効活用である。
「酒まであるぜ。おい、これ飲んでいいんだよな?」
「構いませんけれど、成人組で分けあってくださいませ。ああ、もちろん捕虜の皆さんの分はありませんわ」
「つれないねえ。まあ、当たり前だけどね」
神聖魔法で行動を縛ったのは正解だった。
野盗たちも火起こしや調理を大人しく手伝ってくれたし、仲良く食料を分けあっている。
じっと見ていると頭が笑って、
「たいていの奴は好きでこうなったわけじゃないからね」
「……全員は無理でも、こういう人を一人でも減らせればいいんですけど」
「おいおい、お貴族様が平民に敬語なんて使うんじゃないよ」
歳下でも男爵であるシルヴィアが格上。
身分で対応が変わるなら身分を顔に書いておいてくれればいいのに。
「すみません、リゼット様。さすがに明日には着けるはずなので」
「お気になさらず。もともと二日目に到着できるとは限らなかったのですから」
「向こうに着いたら宿で休めるんだし、着いてからゆっくりしようよ」
「でもクレール、先にこの人たちを引き渡してからだよ」
「うわ、それけっこう大変じゃない?」
「そうだね。書類手続きとかもあるだろうし」
襲撃時の状況や捕虜の人数、押収品の詳細などを報告するためだ。
イザベルがほう、と息を吐いて、
「頑張ってくださいね、シルヴィアさん」
「わたし!? うん、まあ、頭脳労働はわたしの仕事だよね……」
三日目の道中は必然的にゆっくりである。
馬を歩かせて野盗たちのペースに合わせる。馬車内の揺れもマシになったのでリゼットはむしろほっとした様子だった。
「このペースなら昼には着けそうですわね」
「あはは、もう一組襲撃が来なければいいよね」
幸い、言うと招く──ということはなく。
「あれがレイユの街かあ」
でっかい湖の傍になかなかの規模の街が築かれている。
レイユ湖は日本で言うと──インドア派のシルヴィアには適切な例が思いつかない。さすがに琵琶湖には敵わないと思う、たぶん。
「騎士様でいらっしゃいますか? 随分と大人数のようですが」
「上級騎士二名、正規騎士三名、見習い騎士三名、ほか公爵令嬢様と男爵様、聖女見習い様です。そちらは道中捕縛した野盗ですね」
入口の衛兵はマルグリットが対応してくれた。
「陛下のご命令により太陽石減少の原因を調査しに参りました。先んじて話は行っていると思いますが」
「う、伺っております。では、ただちに詰め所へ連絡を」
訓練を受けている大の男が女性相手にたじたじになっている。
男女差があっても騎士や貴族相手だとこうなるんだな、と、新鮮な気持ちになった。今まではシルヴィアが格下なことが多くて平民相手に「男爵様だぞ」ってやる機会がほとんどなかったし。
「レイユの街の代官様にもご挨拶をさせていただきたいですわ」
「宿にも連絡してもらったほうがいいかも」
「みんな、そんなに言ったら混乱しちゃうよ」
「でもシルヴィア。ちゃんと対応できないと向こうの落ち度になる場面だよ」
同じく平民出身のサラが教えてくれる。なるほど、急かされようとミスをしたら平民側が悪いのか。めちゃくちゃ面倒くさい。
「お頭さんだけわたしたちに付き合ってもらえますか?」
「あいよ。……ところで、顔を隠しておいても構わないかい?」
「特に問題はありませんわ。罪人と言えば納得されるでしょうし」
頭に覆面をかぶせ、走れなくなるように足に拘束具を装着。拘束具同士を鎖でつないだ。
「三方に分かれることになりそうですわ。代官様のところへはわたくしとマルグリット様、捕虜の引き渡しにはシルヴィア、宿に向かうリゼット様たちの護衛もいりますわね」
「代官への挨拶と捕虜の引き渡しは俺達も監視させてもらう」
「じゃああたしはシルヴィアと一緒ね。男と一緒なんて心配だし」
「何を馬鹿な。こんなちんちくりんに手を出すはずがないだろう」
『あら、目下成長中の胸に気づかないなんて見る目がないのね』
完全オーダーメイドブラこと魔族ヴァッフェの物言いに比べると横柄な男性騎士のほうがまだ紳士的な気がするのは気のせいだろうか。
「じゃ、リゼット様たちの護衛はボクかな」
「私も行くわ。成人騎士がいたほうが手続きがしやすいだろうし」
野盗たちの移動は街の衛兵を呼ばないといけないので一番後になった。
エリザベート組とリゼット組が移動していくと一気に人数が減って寂しくなる。
「しばらく二人っきりだね、シルヴィア」
「ク、クレール、騎士様がまだいるから」
「ふん。私はお前達が粗相をしないか見張る立場だということを忘れるなよ」
「ふんだ。シルヴィアがこれくらいでミスするわけないじゃん」
「むしろ心配なのはお前なんだがな」
人数が多いので衛兵詰め所の収容スペースは一気に悲鳴を上げる羽目に。
「これは早く移動させてあげないとだね……」
「では、トー女男爵様。こちらで報告書を作成いただけますでしょうか」
「はい。……じゃない、ええ、よろしく」
報告書のフォーマットは念のために確認してきたし、見本も荷物に入れてきた。
大人しく拘束を受け神聖魔法による誓約も受け入れたことなどから恩情を希望する旨を丁寧に記していると、
「飽きた。ねえシルヴィア、構って」
「クレール。こういうのもお仕事なんだから。騎士だって書類仕事はたまにあるでしょ?」
「学校でも教わってるけどさ、戦うのが仕事のあたしたちには絶対合わないと思うんだよね。だから偉くなんてなりたくない」
「シルヴィア・トー。この者は相当な問題児なのではないか?」
「あはは……。まあその、『銀百合』ではやり方を考えようかと」
頬をつんつんしてきたり脇をくすぐろうとしてきたりするクレールの悪戯を堪えつつ、なんとか報告書を完成させた時にはもうおやつの時間あたりに差し掛かっていて。
「終わった? あたしお腹すいちゃった。なにか食べてから戻ろうよ」
「うーん……。みんなとも合流しないとだから、屋台でなにか買って帰るくらいなら」
「あ、じゃあ噂の魚を食べてみようよ!」
事前に聞いていた話の通り、大きな通りに行くとレイユフィッシュ料理の屋台がいくつも出ていた。
揚げたレイユフィッシュを串に差したものの他に焼き物やほぐし身を入れた煮込みなどもある。香辛料を使って臭みを和らげているらしい。
「ふん。こんなところで油を売っている場合ではないはずだが?」
「いいじゃない、少しくらい。というか先輩もお腹鳴ってるし」
「ぐっ……。これはちょうどいい食料を携帯していなかったせいだ!」
などと言いつつ、結局、レイユフィッシュの串揚げをちまちま食べ始める男性騎士B(Aでも可)。
敵対的なはずの相手をあっさり言いくるめているのだけれど、クレール、こういうところでは本当にとても強い。
男とかどうでもいい、という性格じゃなかったら騎士仲間から求婚が殺到していたのでは?
「? どうしたの、シルヴィア? 串揚げ美味しくなかった?」
「ううん、そんなことないよ」
当の張本人はなにも気にした様子なく笑顔をこちらに向けてくる。
幸せだな。
今更なことをあらため実感しながら串揚げをかじる。衣に味がついているので淡白な白身でも美味しく食べられる。
「街起こしとしてはいいアイデアだと思うけど……」
今度はレイユフィッシュの乱獲に陥ったりはしないのだろうか。
屋台のおっちゃんに尋ねてみると、
「元々うんざりするほどいた魚でしたが、確かに一時期減りすぎましたね。でも、増やす取り組みをして今は安定しているはずでさあ」
それでも最盛期に比べると数は激減しているはず。
やっぱり太陽石減少の原因に一枚噛んでいてもおかしくなさそうである。