わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「代官様は街を良くすることに熱心な方でしたわ。裏金で私腹を肥やしたり、意図的に産出量を絞っている様子はありませんわね」
「エリザベート様、もう少し言葉を選んだほうが……」
「身内向けの報告会ならばはっきり言うべきでしょう。うちには脳筋もいることですし」
「あのね、エリザベート。言っとくけどあたしに理解させても戦力にならないからね?」
「威張って言う事じゃないよクレール。まあ、ボクもあんまり人のことは言えないけど」
用意された宿は貴族や資産家向けの高級なところだった。
もうちょっと安いところでもいいような気もするけれど、ゼリエたちメイドを入れることを考えるとちゃんとしたところのほうがいい。
代官の家に泊めてもらうという方法も今回は遠慮させてもらった。歓待されるのが目的ではないし、『銀百合』を快く思ってもらえるかどうかはわからなかったからだ。
再集合したメンバーで報告会。
偉い人が悪人でなにか企んでいる、というパターンはどうやらなさそうだ。
「強いて言うならば、改革を重視するあまり伝統を軽視するきらいのある方ではありましたわね」
「ほら、あたしの言った通りじゃないか」
「わたくしたちも少し散歩をいたしましたが、街並みの整備に熱心な一方、旧市街との調和が取れていない印象を受けました」
街としては十分に活気があり、栄えているほうだ。
大きく失敗しているわけではないので問題としては取り上げにくい。
太陽石の減少がなかなか表面化しなかった理由のひとつだろう。
「どうしよっか。今からでも湖に行ってみる?」
「止めておいたほうがいいだろうね。今から行ってもすぐに暗くなっちまう。月明かりで調べるのは骨じゃないかい?」
「魔法の明かりを使うこともできますけれど、陽光に勝る光源はありませんね」
「一日二日で終えられるとは最初から思っていませんわ。旅の疲れを癒やすためにも今日はゆっくり休みましょう」
「よし! じゃあ部屋割りなんだけど──」
「
さすがに一人一部屋だと(宿側が)大変すぎるし一つの宿に収まらなくなるので二人ずつ部屋を使うことにした。
シルヴィアとクレール、エリザベートとイザベル、マルグリットとサラ、リゼットとアンジェ、男性陣は男同士で組んでもらった。
「お頭さんはわたしとクレールの部屋でいいかな?」
「あたしはどこでも構わないよ。まあ、お嬢様の部屋よりは良いんだろうね」
夕食にもレイユフィッシュの料理が出てきた。
香辛料をふんだんに使ったスープ。そうやって料理されるとなんの文句もなく美味しい。街の人たちが工夫してきたのがよくわかる。
「でもちょっとわたしには辛いなあ」
「シルヴィアはどっちかというと甘いほうが好きだもんね。ミルクも頼んだらどう?」
「なんかお子様みたいで癪だけど、そうしようかな」
ミルクの甘みは舌の痺れを和らげてくれるので普通に料理に合った。
◇ ◇ ◇
翌日は宿でお弁当を作ってもらい、午前中から湖へ。
「さすがに広いなあ……」
「ぐるっと周るだけでも大変そうだね、これ」
湖面が陽光を反射してきらきらと輝いている。
透明度もなかなかのものだけれど、覗き込んだ程度では底が見通せない。
「どのくらいの深さがあるのかな?」
「人の背丈の十倍以上かね。もちろん深い箇所ならもっとあるさ」
「レイユフィッシュは……釣っているみたいですね?」
釣り糸を垂らしている人の姿がいくつか見える。
頭(覆面)はこれに「はっ」と笑って、
「新しく主流になった方法さね。昔ながらのやり方は素潜りだよ」
「え、なにそれ息続くの?」
「だから誰でもできるわけじゃなかったんだ。太陽石の採取と同じで訓練された人間の特権だった」
「そっか、石も湖のそこにあるんだっけ」
当然、潜って採取することになる。
「水中呼吸の魔法などは用いていないのですか?」
「余裕のある太陽石採りは利用しているさ。というか、その手の魔道具を用意できなかった家が淘汰されたって感じだね」
「魔道具は高級品ですものね」
なお、そう言うエリザベートの家ではこれでもかと魔道具が使われている。
「潜って石を採る人間が減って漁を頼めなくなったから安全な方法で魚を捕るようになったのさ。中には網を使うこともあるよ」
「あんまり好ましくは思っていないようね」
「当然じゃないか。針や網が底に残ったら湖が汚れる」
難しい問題だ。便利な方法を取るとその分だけ別の問題が出てくる。
「サラ、竿を持ってきたんでしょう? せっかくだから試しに釣ってみたら?」
「リゼット様、あたしに魔法をかけてくれませんか? ちょっと潜ってみたいなって」
ひとまず調査の一環としていろいろな行動を試してみることになった。
「じゃあ、わたしは祠を調べてみたいかな」
「私もお供します」
「というかクレールはこんなところで脱ぐ気ですの?」
「下に水着着て来てるもん」
「シルヴィアさん、あれ、いいんですか?」
「あはは。まあクレールだから。そういうの気にする子じゃないんだよ」
パートナーの薄着姿が晒されるのはあまりいい気分ではないものの、そんなことを言ったら大浴場にも行けない。
というわけで、リゼットの魔法付きで潜ることにしたクレールを置いて、シルヴィアはアンジェと一緒に祠へと向かった。場所は頭が案内してくれる。
「お頭さんがいてくれて本当に助かったよ」
「別にあたしじゃなくても街で人を雇えばいいだけだろうに」
「でも、昔の話とか今の街への不満も聞けたし」
祠は湖へと数メートル通路を突き出す形で置かれていた。
「手入れは一応されてるみたい?」
「エリザベート様のお話ですと、街の聖職者が定期的に清掃を行っているようですね」
祠の内側に置かれた石碑はだいぶ崩れて文字が読みづらくなっている。かなり古い代物であるのは間違いない。
書かれている文字は、
「神聖文字に間違いありませんね」
「うん」
途切れ途切れではあるものの、シルヴィアには石碑の文がきちんとした文章になっていることがわかる。
となると──神様当人が建てたか、あるいは神聖文字が普通に用いられていた時代の遺物か。
シルヴィアは祠の中央、神の像を見つめた。
(この世界の上位存在はすべて女性のため神の偶像も女の姿を取る。それが当然なので女神像とは呼ばれない)
「これ、本当にご利益あるんじゃないかな?」
「少なくとも、積極的に保全に努めるべきだと思うのですけれど……」
眉を寄せたアンジェが「せめて」と像の前に跪く。シルヴィアもその隣に並んだ。
「そりゃあいい。聖女様に祈ってもらえりゃ神様も喜ぶだろうさ」
「お頭さんも祈ろうよ」
「あたしは……まあ、そうだね。この祠にゃなんの罪もない」
祈ると、身体から魔力が引き出されていくような感覚。
生まれた光が空ではなく神像に吸い込まれて消えていく。
シルヴィアは思わずアンジェと顔を見合わせた。
「これは……」
「神が祈りを欲しているようですね」
街の神殿に話を聞かないわけにはいかなくなった。
他のメンバーに声をかけてから急遽、神殿へと向かうことに。
念のため護衛としてマルグリットについてきてもらう。
「アンジェ様に来ていただいて正解だったかもね」
「そんな。私でなくともシルヴィア様がいれば問題ないかと」
「わたしじゃ神殿での話はできませんから、やっぱりアンジェ様がいてくれて助かりました」
「そう言っていただけると、その、嬉しいです」
聖女見習いの名前と容姿はしっかり街の神殿にも伝わっていて。
「神殿長様。湖にある祠の管理についてお教えいただけますか?」
「あの祠ですか。神のお力を秘めたもののようですが、詳しい話はこちらにも残っていないのです。現在はせめて形を維持しようと努めているところでして」