わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「くそ、ガキってのは無尽蔵に体力がありやがる」
「言葉を慎め。彼女はあれでも伯爵令嬢だぞ」
潜水大会はクレール・エルミートの優勝で終わった。
上司の命令でやってきたレイユの街。任務が終わりに差し掛かった頃、突発的に開催された子供の遊び。
つい楽しんでしまった自分たちにも問題はあるが──お土産のアクセサリー代を他の参加者と共に払わされた相棒は不満げに愚痴を漏らしている。
彼も負けたのは悔しいものの、どちらかというとその後のほうが堪えた。
『じゃあシルヴィア、これでお揃いのを買おうよ!』
自分たちはいったいなんの金を払わされたのか。
子供の遊びだとはわかっていても「女を口説くために利用された」ような徒労感がある。
ともあれ。
「さっさと済ませるぞ。子供に見えて鋭いのもいるからな」
「エルミートが騒いでいるうちは大丈夫だと思うけどな」
警戒すべきはシルヴィア・トー、それからイザベル・イスト、後はもちろん上級騎士の二人と言ったところか。
監視役が揃っていなくなるのだから不審に思われても不思議はない。
大会の後、なおもはしゃいでいる今のうちに『用事』を済ませてしまいたい。
取り出したのは腕輪型の魔道具だ。
魔力を注いで起動すると、しばらくして『私だ』と声が聞こえてくる。
ペアとなる腕輪同士で連絡を取り合える通信装置だ。貴族基準でも高価な品であり、とある人物からの借り物である。
『首尾はどうだ?』
「それが……」
国王からの依頼は首尾よく達成。
さらにレイユの街の太陽石減少問題の手がかりを掴み、古代の遺物復活に貢献、ついでに野盗を捕縛した。
簡潔かつ正直に報告すると「何をしている!」と叱責。
『お前達の役目は奴らを妨害することだろう』
「いや、監視だったでしょう? ミスや手抜かりを報告するっていう」
『馬鹿が。失態がないなら作れば良い。そのための知恵も貸してやっただろう』
「確かに仰る通りですが……」
もしもの時のためにと預かった魔道具は少々過激すぎる。
「あれはさすがに派手すぎるかと。事が露見する危険があります」
『ぐっ……この役立たず共が!』
苛立たしげな声に「申し訳ありません」と答えつつ、彼は思った。
彼女たちとは随分な差だな、と。
銀百合騎士団。長がまだ見習いのエリザベート・デュ・デュヴァリエであるためかメンバー同士の距離が非常に近い。
和気あいあいとした雰囲気は潜水大会を見ても明らかで、「女子供の足を引っ張らなかったから」と文句を言われる自分たちとしては正直羨ましくもある。
『仕方あるまい。憎らしいが、敵ながらよくやったと思っておく』
「閣下、彼女たちは別派閥であっても敵では」
『黙れ。……全く、別の手を打っておいて正解だったな』
「その別の手っていうのはなんです?」
尋ねると、腕輪からは「帰ってくればわかる」とだけ返答があった。
◆ ◆ ◆
「帰ったらデザインを考えなければいけませんわね」
「あはは、そうだね」
都からやってきた迎えの馬車はかなりの台数だ。
三十人規模の人間を運ぶのだから無理もない。護衛要員も兼ね、シルヴィアたちもついでに移動することになった。
最終チェックの最中、隣に立ったエリザベートが笑顔で言ってきたのは騎士団の紋章についてだ。
話のきっかけはクレールがお土産にシルヴィアとペアのアクセサリーを買うと言い出したこと。
『ねえシルヴィア、なにがいい? 指輪? 髪飾り?』
『そうだなあ……。邪魔になりにくいものがいいんじゃない? あ、ブローチとか』
申し訳ないと言っても聞いてくれないのでお揃いのブローチを購入、これくらいなら普段使いもしやすいだろうと思っていると、リゼットに袖を引かれて、
『あの、シルヴィア様。でしたらわたくしも……』
これにエリザベートやイザベル、さらにはアンジェまでが「じゃあ自分も」と表明。
みんなでアクセサリーを贈りあうとかなりの額になってしまいそうなので一計を案じた結果が、
『じゃあ、騎士団の証みたいなのを作ろうよ。紋章入りで』
これならみんなお揃いにできる。
それはいいかもしれない、という話になり、こうしてエリザベートがノリノリなわけだ。
「まあ、モチーフは月と百合で決まっていますからそこまで難しくはありませんわね」
「ねえエリザベート、本当にそれでいくの?」
「もう陛下から承認を受けてしまったのですから仕方ありませんわ」
そんなことを言って絶対に楽しんでいる。
などとやっていると、マルグリットが寄ってきて「確認は済んだのかしら?」と言ってきた。
「馬車に乗る時は車輪や馬車の底に異常がないかも確認するべきよ。故障しやすくする細工がされているかもしれないし、最悪、魔道具で爆破される可能性だってあるんだから」
「そこまでしてくる人がいるんですか……?」
「政敵は消してしまえばいい、と考える人間はゼロではないもの」
話している間に男性騎士とサラが「俺達の確認じゃ信用できないっていうのかよ!?」「念のためだって言っているでしょう!?」と怒鳴り合うのが聞こえてくる。
「……馬車を爆破。さすがにそこまで愚かではありませんわよね?」
「できるなら探知の魔法もかけておくといいわ。大抵の魔道具なら発見できるから」
リゼットにお願いして確認してもらったところ、幸い危険物が取り付けられている形跡はなかった。
最後に、シルヴィアは捕虜たちのところへ寄って、
「みなさん、しばらく我慢してくださいね」
神聖魔法で行動を縛っているとはいえ、物理的にも拘束状態である。
覆面を脱いだ代わりにぐるぐる巻きになった頭が「ああ」と頷いて、
「世話になったね。ここで捕まってよかったのかもしれない」
「お礼を言うのはまだ早いですよ」
馬車の一団は都に向けてゆっくりと走り出した。
同じ地域にいくつも野盗集団が出るのも稀だし、魔物の類も明らかに数の多い相手にはそうそう向かってこない。
規模的にどうしてもゆっくりにはなってしまったものの、馬車はなにごともなく都へと帰りついたのだった。
◇ ◇ ◇
「よくやってくれた。湖の件は追って調査しよう。……確認が取れた暁には何か褒美を取らせねばなるまいな」
「ありがたき幸せにございます、陛下」
偉い人に物を渡す時はふらっと寄って「はい、これ」では済まない。
物自体は使用人や側近を通じて先渡ししているのに、着飾って「確かにお渡ししました」と挨拶が必要であり──どういうわけかシルヴィアも謁見に同行することになってしまった。
短期間に何度も国家元首と会うことになろうとは。
ちょうど百個の太陽石に国王は上機嫌。
シルヴィアたちとしても実績ができたし、若干の報酬も出るので悪くない結果である。
緊張はしたもののなんとか謁見を終えて。
気になったのは謁見の場にいた副騎士団長が不満そうに視線を向けて来ていたこと。
なにか企んでいるのか。
予想はある意味当たっていて、ある意味外れていた。彼は既に計画を動かしていたのだ。
「ひどいと思わない? 帰ってきたと思ったら寮が半壊していたなんて」
サラの憤慨する様子に笑顔を浮かべつつ「あんまり笑えないかも」と内心呟く。
寮、というのは騎士団の女子寮だ。
なんでもシルヴィアたちがレイユの街へ行っている間に事故があったらしい。
『見られなかったなんて勿体ないな。騎士団長と副団長の真剣勝負!』
団長が引退して衰える前に、と副団長の提案で行われたらしい本格的な模擬戦。
見られなかったのも残念だけれど、戦いの途中で
なにがうっかりだ明らかにわざとだろ。
言いたいのは山々だったものの、日中かつ模擬戦の見物人も多かったことから寮はほぼ無人、怪我人はいなかった。
修繕費は副団長を減俸にして賄う、この機会に寮の改装も行うということで決着がつき、女性騎士は一時的に城内の部屋を与えられた。
「でも、そのせいで騎士団まで遠くなって不便なんだよね」
なかなかに陰湿な嫌がらせである。