わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「実は、『銀百合』正式発足を目処に女子寮を解体、倉庫に作り変える案があってな。まだ早いと却下していたのだが……」
翌日、騎士団長がリゼットを訪ねてきた。
同席するように命じられたので行ってみると、教えられたのは裏事情。
「壊してしまえば改装させざるを得なくなる、と」
「あくまでも推測でしかないが、な」
『銀百合』が正式稼働すれば今の女子寮は使わなくなる。
別の用途に切り替えるのは理に適っているのだけれど、
「後三年弱。その程度ならば寮からではなく通いでいいのでは、という声も出始めている」
「団長様。その声の出処はどこでしょう?」
「主に男の騎士からだな」
はあ、と、室内にため息が満ちた。
「セクハ……性的な嫌がらせから逃げられるなら、とわたしも喜んでしまうかもしれませんけど」
「重ね重ねすまないな。だが、やられっぱなしというのも癪だろう?」
「なにか腹案がおありなのでしょうか?」
「ああ。良ければこれを使ってくれ」
差し出されたのは二通の手紙。
宛名は──騎士学校、それから上級騎士学校の責任者だ。
「両校の長とは面識があってな。それを持っていけば便宜を図ってくれるだろう」
「学校の隣に『銀百合』の拠点を?」
「都の端だから土地を確保しやすかろう」
もちろん、そのあたりは候補に入っていた。
ただ、まだまだ交渉の段階、土地を使わせてもらうにしても謝礼金が必要になりそうでなかなか大変だったのだけれど。
「いっそ、早めに宿舎を建ててしまえ。そして『命令があるなら持ってこい』とでも言ってやればいい」
「それは、ちょっと楽しそうですね」
心強い協力。
となると、後の心配は予算か。
◇ ◇ ◇
「クロヴィス殿下、決闘のご褒美として『銀百合』拠点の建設費用を一部負担していただけないでしょうか?」
男性の部屋を訪れるというのは下手をすると噂になりかねない行為だけれど、今回はリゼット、それに第六王女イリスも一緒なので勘繰られる心配はない。
王族らしい高級な紅茶に癒やされた後、シルヴィアは本題を切り出した。
併せて五通の手紙を差し出して、
「エリザベートたちからも同じ希望を預かっています」
「待て。お前達、俺になしくずしのまま費用を負担させるつもりか?」
「そんな。……もし、一人の希望ごとに七分の一ほど負担していただけたらたいへん助かるとは思っていますが」
その場合、六人分なので七分の六、約86%となる。
ジト目になったクロヴィスがリゼットを見て、
「お前はどうするのだ、リゼット?」
「いえ、わたくしは。すでに求婚を諦めていただいているわけですので」
青年は「ああ……」と微妙な顔になりつつ、
「気にするな。あれは決闘のオーナーとしての報酬。戦いに参加し、勝利した報酬はまた別に扱われるべきだろう」
「では、建設費用の負担を」
「……いや、まあ、話を誘導したのは俺だが。結局それではほぼすべてを負担することになるではないか」
これにイリスがくすくすと笑って、
「あら、お兄様。新騎士団に一枚噛みたいと仰っていたではありませんか」
「これでは一枚噛むどころか大口の支援者だろう。……まあ、決闘の件では各所に迷惑をかけた。それくらいはなんとかしてやる」
「誠に感謝いたします、クロヴィス殿下」
深く頭を下げると、俺様王子はまんざらでもない表情を浮かべたうえで、
「その代わり、しっかりと実績を上げてみせろ。成果が出ないのでは大損だからな」
「もちろんです。やるからには全力で頑張ります」
◇ ◇ ◇
騎士学校、上級騎士学校の説得はエリザベートとラシェルが頑張ってくれた。
と言っても両校の土地を使うわけではない。近所に拠点を作ってもいいか? と了承をもらうだけで、本番はその後、城からの了解を得ることなのだけれど。
公爵家や侯爵家の後押しもあってどちらもあっさりと許可が下りた。
「こうなるとやるべきことが山積みですわね」
「ほんとだよ。作るにしても設計図がいるんだから。早く決めないとそれだけ工期が遅れるよ」
「わかっていますけれど、建物の図面なんて全くの専門外ですわ!」
「シルヴィアさん、なんとかなりませんか?」
「イズ、わたしは戦略家志望であって建築家志望じゃないからね?」
図面なんて引いたこともない。
経験があるとすれば建築ゲーで理想の部屋を作ったり、テレビで「顧客の無理ゲーな要望に建築士が挑む!」みたいな番組を見た程度だ。
折り目をつけて簡易的な方眼を入れた紙にめちゃくちゃ大雑把な平面図を描いて、
「このくらいしか描けないよ」
「……ほんと、シルヴィアってなんでもできるよね?」
「クレール? わたしが運動苦手なの知ってるよね?」
もちろんシルヴィアの描いた図面をそのまま使うのは無理。
イリスに見せたところ「たたき台としては十分かと」という評価だった。要するにプロに頼めということ。
「建築をどこに依頼するかは決まっていまして?」
「いいえ。順当に行けば公爵家か侯爵家のつてを頼ることになりますけれど」
ふむ、と、口を扇子で覆ったイリスは少し考えるようにして、
「資材調達で一枚噛めればなかなか儲かりそうですね?」
「イリス様。さすがに今から商会を設立しても間に合わないのでは?」
「それはそうですけれど。この分ですと私の活動も早めたほうが良いかと」
シルヴィアたちとしてもなにか必要になった際に「なんとかして」と泣きつける相手がいるといろいろやりやすい。
「せっかく商会を作るのなら総合的な商いをしたいと思っているのです。早急に準備を進めましょう」
「人員とか、たくさん必要になりそうですね?」
「それに関しては腹案がございまして。行くあてがなく、金に困っていて、ある程度忠誠も得られそうな人材が三十名以上、余っているそうではありませんか」
当然、シルヴィアたちの捕まえた頭たちのことである。
あらためてリストを確認すると出身はバラバラ、元の職業もバラバラ。職人や商いに関わっていた者も意外と多い。
「大工の親方と喧嘩して飛び出してしまった、ライバルにアイデアを盗まれた挙げ句裁縫店を追われた、実家の店が競合店に潰されていくあてがなくなった、酒場で接客をしていたが男性関係でトラブって逃げた」
「なかなかの逸材揃いでしょう?」
問題児揃いの間違いでは?
ただ、本人たちの問題ばかりとも言えない。運が悪かった面も多分にあるので環境さえ整えば実力を発揮してくれるかもしれない。
「彼らは現在取り調べを受けています。罪状はそれなりに多いようですが、略奪が主であって殺人は行っていないようです」
「多額の罰金、で済む可能性は十分にありますわね」
「もちろん監視か監督は必要になりますけれど、そのあたりの信頼はシルヴィア様が担保してくださるでしょう?」
使えてよかった神聖魔法。
なんなら取り調べ中に「質問に正直に答えます」と誓ってもらえば心証も良くできる。
そっちの手伝いをしたり、建物の設計図のたたき台を作ったり、あれこれやっているうちに夏休みの残り日数がどんどん減っていく。
というかまだ実家に帰れていないのだけれど。