わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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里帰りはいつでもちょっとこそばゆい

「本当に面白いものとかないよ? 普通だよ?」

「大丈夫だってば。シルヴィアの家を見てみたいだけだから」

 

 休みの日でもパンツルックの多いクレールだけれど、今日は珍しくスカートを穿いている。

 街にお出かけだからだ。

 といっても、向かうのはシルヴィアの実家。

 夏季休暇も残り少なくなってきたし、さすがにそろそろ帰らないと、と思い立ったのだ。そうしたらクレールが「あたしも一緒に行く!」と言い出した。

 

「シルヴィアのお家は酒場なんだっけ」

「うん。って言ってもメインはお茶だけどね。あとは軽食を出すくらい。喫茶店って言ったほうが近いかも」

 

 気取らずにのんびりしてほしい、がコンセプトの半ば趣味みたいな店だ。

 

「あんまり儲かってはいないけど、お客さんはけっこういるんだよ。あんまり儲かってはいないけど」

「じゃあ看板娘が抜けちゃったのは痛かったね」

「わたしなんていてもいなくてもそんなに変わらないよ」

 

 シルヴィアも今日は平服だ。

 珍しくゼリエも、クレールのメイドさんも同行していない。平民街でのちょっとした揉め事くらいクレールがなんとかできるし、使用人を連れていると目立つという判断。

 内緒だけど、魔族であるヴァッフェもいるし。

 

 と言っても二人とも服はそれなりに値が張るものを身に着けている。

 少なくとも貴族のお嬢様には見える程度。

 念のため模擬剣も携帯しているので因縁をつけてくる者もそうそういないはず。

 

 ただし、代わりにめっちゃ見られている。

 

「このへんだと貴族って珍しいのかな?」

「それもあるけど、クレールが可愛いからだと思うよ」

「シルヴィアを見慣れてるなら今更じゃない?」

「わたし、言うほど帰れてないしなあ……」

 

 騎士学校のお休みが少なかったからだ。

 クレールもたまの長期休みには毎回家に連行されていたので実家を案内する機会はなかった。

 

「来るたびに懐かしくなるよ。ああ、変わってないなあって」

「あたしは実家を見るたびに『また勉強かあ』ってなるけどなあ」

「うん、ご両親の教育方針は間違ってないと思──」

「もしかして、シル?」

「ん?」

 

 呼び留める声にクレールが振り返る。

 淀みない動作。さりげないようでいて、必要なら拳も剣もお見舞いできる体勢なのがシルヴィアにはわかる。相手の子も気迫を感じたのかびくっとして、

 

「大丈夫だよ、クレール。……久しぶり、マリー」

 

 声をかけてきた少女はシルヴィアの幼なじみだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「ごめんごめん。変な相手だったら成敗しようと思ったから」

「い、いえ、そんな。とんでもございません?」

「マリー、そんなにかしこまらなくても平気だよ。クレールは伯爵家のご令嬢だけどすごく変わり者で気さくだから」

「シルヴィア、それ絶賛褒めてないよね?」

「誉めてるよ。威厳がないから損してるだけ」

 

 二人の言い合いをマリーはぽかんと見つめて、

 

「本当にびっくりした。シル、会うたびに綺麗になってるし、今日なんか知らないお嬢様と一緒なんだもん」

「マリーはシルヴィアと仲良いんだ?」

「うん。こっちではいちばん仲良くしてもらってたかな」

 

 シルヴィアをシルと呼ぶのは旧知の証拠だ。

 七歳で騎士学校に入る前には名前を変えて準男爵の地位を与えられていたので、それより前、平民時代の知り合いでないとそうは呼ばない。

 

「そっか。……で、付き合ってる人とかいるの?」

「え、えええ!? なんでそんなこといきなり聞いてくるの?」

 

 助けを求めるように盾にされる。

 

「本当に変わってるんだね、この人。……クレール様?」

「あはは。でもマリー、他の貴族と話す時は『こちらの方』『エルミート様』とか言ったほうがいいかも」

「えー、そんなの肩凝っちゃうよ」

「怒ると怖い貴族もいるからね。……それで、恋人いるの?」

「シルまで! ……それはまあ、気になってる男くらいいるけど」

 

 これにクレールが笑顔になって、

 

「じゃあ歩きながらその話聞かせてよ!」

 

 うん、まあ、たぶんマリーが恋敵になるかどうか確認したかったんだと思う。

 女の子相手に。いや、女の子だからなんだけど。

 

「でもマリー、いまって油売ってて大丈夫なの?」

「ん? ああうん、少しくらい平気だよ。シルと会ってたって言えば大丈夫」

「あ、もしかして忙しかった?」

「忙しいっていうか家の手伝い。うち、茶葉とかナッツとかそういうの売ってる店なの」

 

 家の酒場(喫茶店)が仕入れでマリーの家と縁があったのが二人の知り合うきっかけだったのだ。

 

「シルの家のお店には週に何回か通ってるしね」

「そうなの?」

「うん。私、料理とかそっちのほう覚えたいから。シルのお母さんに教わってて。でも最近はあんまり──」

 

 そこまで言ったところで、マリーは「あ!」と口を大きく開いた。

 

「そうだった! シル、大変なの! お店にお客さんが来なくなっちゃって!」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 シルヴィアの実家の店はこじんまりとした小さな店である。

 テーブルが三つとカウンターが一つ。

 純度の低いガラス窓から中を覗けば、常連さんが一人、のんびりお茶を楽しんでいた。

 

「いるじゃない、お客さん」

「昔なじみの常連さんしか来なくなっちゃったんだってば! あの人たちはお客さんっていうより世間話しに来てる感じじゃない!」

「それはそうだけど」

 

 こそこそ覗いていても周りからひそひそされるので、「へえ、ここがシルヴィアの……」と観察しているクレールの手を引いてドアを開いた。

 

「ただいま」

 

 一人きりのお客さんと、ティーカップを磨いていた父、ナッツを砕いていた母が顔を上げて、

 

「お帰り、シル」

 

 

 

 

 

 シルヴィアは顔立ちが母親似、髪質が父親似だ。

 目や髪の色は似ていない。隔世遺伝的なやつか、それとも神様のいたずらか。

 

「なんとなくシルヴィアのご両親って感じ。初めて会ったのに不思議だね」

「なんのお構いもできませんが、ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます。じゃあ、お茶と、あとなにかつまめるものをもらえますか?」

 

 クレールはなんの屈託もなく店の雰囲気に馴染んだ。

 丁寧に掃き清められてはいるものの、貴族基準だと「掃除が甘い」と言われそうな店内で当然のように椅子に座り、あまつさえ注文をする。

 両親から「この方は大丈夫なの?」と目で訴えられるも、シルヴィアは「大丈夫」と頷きを返した。

 

「クレールは貴族っていうより騎士だから。お腹も丈夫だし、汚れるのにも慣れてるんだ」

「服が土で汚れるのとかほとんど毎日だもん。そんなに気にしないよ」

「そういうことでしたら……」

 

 店のお茶は高級な品ではないものの、丁寧に淹れられていてなかなかの味だ。

 

「美味しい。なんとなくシルヴィアが淹れてくれたのに似てるかも」

「それはそうだよ。わたしはお父さんに教わったんだから」

 

 お茶請けは母の担当。

 昨日焼いたものだけれど、と、酒に漬けたフルーツ入りのケーキが出された。

 

「いや、これ絶対平民の基準超えてると思うんだけど」

「娘のおかげです。この子は準男爵に任命された時も、男爵になった時も我が家にたくさんのお金を入れてくれました」

「おまけに帰るたびに貴族様のレシピを持ち帰ってきてくれるので、私達もいろいろ試せるのです」

 

 前世知識で新料理を開発したりはしていないけれど、それなりに権力チートをさせてもらっている。

 

「でも、エリザベートからもらった金貨は使ってくれないんだよね」

「別にお金には困っていないもの。あれはいざという時のためにとってあるの」

「家にあると盗まれかねないから公爵家に預かっていただいているんだ」

「なるほどねー。……あれ、でもマリーからお客さん減ってるって聞いたんだけど」

 

 これには唯一のお客さんが「噂のせいだよ」と教えてくれる。

 

「シルの噂が街に流れたせいで客が寄り付かなくなったんだ。まったく、薄情な奴らだよ」

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