わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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みんなが幸せになれるように

「わたしは、みんなが幸せになれる経営戦略を提案します……!」

 

 新しいお店なんてすぐにはできない。

 居抜き物件を使うにしても内装の手直しは必要だし、ある程度の準備期間が必要だ。

 だから、すぐに引っ越しする必要はない。

 

「その間に後継者を育てるの」

 

 なにもこの家を売り払わなくてもいいのだ。

 お金は余分にかかるけれど、残しておいても構わない。

 ゆくゆくはこちらのお店を信頼できる誰かに任せて新しいお店を始めればいい。それなら今いるお客さんも困らないだろう。

 

「お父さんたちだって、お店の改装は夢だって言ってたじゃない」

「それはその通りだけれど」

「シル、後継者なんてそう簡単に見つかるものじゃ」

「いるでしょ? たまにお店を手伝ってくれてる若い子が」

 

 翌日話をもちかけてみると、その子──マリーは「いいよ」と言ってくれた。

 

「いいの? 本当にいいの? お店やるんだよ? ぜったい大変だよ?」

「いいってば。っていうかシルが誘ったんじゃない」

「それはそうなんだけど」

「私はもともとそっち方面に興味があったし、シルのお父さんたちのことは尊敬してるし、うちのお父さんの仕事とも連携できるし、なによりお店を始める資金が浮くんでしょ?」

「たくましい」

 

 こんなに美味しい話はない、と力説するマリーはすごく頼もしかった。

 なんか彼女に任せておけば大丈夫な気がしてきた。

 

「おじさんもそれでいいですか?」

「ああ。こいつの神託は『商人』じゃなくて『商売人』だったからなあ」

 

 どう違うのかというと、ぶっちゃけそこまで違いはないのだけれど、品物を売り買いするのが商人、商売人はサービス業に近い。

 もしくは仲卸もしているのが商人、小売りが商売人。

 

「料理やお茶に興味があるみたいだったし、料理店は性に合ってるんだろ。俺もまだまだ現役だし、最悪こっちの店は適当な奴に譲ってもいいしな」

 

 この世界では子供が親の後を継ぐとは限らない。

 シルヴィアのようにまったく別の職業適性が見つかることも多いからだ。貴族なら子供をたくさん作ったり養子縁組をして力づくでなんとかできるけれど、平民の場合は弟子入り的な方法をとることも多い。

 

「いいじゃねえか。そもそも俺達に義理立てして新しい店を持てない、なんてのが水くさいんだよ」

「おじさん……」

「シルちゃん、親孝行してやりな。多少無理やりにでも巻きこみゃあいつらも『うん』って言うさ」

「うん、ありがとう、そうする」

 

 微笑んで頷くとマリーの父はどういうわけか目をそらして、

 

「それにしても美人になったなあ。思わず見とれてしまいそうだ」

「お父さん? お母さんに言いつけるよ?」

「そ、それだけは勘弁してくれ」

 

 後継者が見つかると両親もさすがにノーとは言わなかった。

 開業資金の問題もクリアしている。

 新しい店が始められる状態になるまでは念のため、用心棒かなにかを雇うことになるだろうけれど、その費用はエリザベートの家から毎年贈られている金貨で十分賄える。

 そもそも十分な利益を出せば従業員くらい養えるわけだし。

 

「けれど、採算はとれるのかい? 『上』に行くほど商売は能力を要求されるものだよ」

「お父さんたちなら大丈夫だよ。ね、マリー?」

「うん。おじさんって昔はけっこういいところに勤めてたんでしょ?」

 

 シルヴィアの父はとある裕福な商人のところで召使いのようなことをしていたらしい。

 それがある日、母に一目惚れして求婚、召使いを辞めてこの店を始めた。

 お茶を淹れるのが上手いのはその頃培った経験の賜物でもある。要するに平民の上澄みや男爵家レベルを相手にする腕と礼儀作法はあるのだ。

 

「わたしだって本気出していいならいろいろアイデアがあるし」

 

 教えていない貴族のレシピ、それから前世の料理で使えそうなものもある。

 どれがいいか考えながら笑みを浮かべるとマリーが「頼もしいんだか怖いんだか」と呟く。

 

「どんどん新しいことをやるのは血筋なんだろうなあ」

「お母さんは新メニュー開発の達人だからね」

 

 両親の『恩恵』については前に見たことがある。

 神の言葉が日本語だとわかった後で真っ先に見せてもらった。

 恩恵の文章が読めるのは秘密だけれど、シルヴィアの母が持っていた恩恵はこんな感じだ。

 

『あなたはレストラン経営シミュレーションゲームの主人公だ』

 

 お店を改装したりスタッフを雇ったり新メニューを作ったりしてお店を大きくしていくゲーム。

 持っている食材を組み合わせて新しいレシピを発見できるようなものが多く、母はその影響かレシピを考えるのが得意だ。

 資金があればいろんな食材を仕入れられる。

 シルヴィアの伝手も使っていろいろ手に入れていろいろ試してみればいい。話題になってお客さんも増えるだろう。

 

「そうね、今まで試せなかった調理を試せるようになるのは楽しいかも」

「治安のいいところのお店なら魔道具も置けるよ。料理の幅がぐっと広がるんじゃない?」

「それはいいな。綺麗な水が使えればお茶がぐっと美味しくなる」

「あら、料理の味だって格段に良くなるわ」

 

 なんだか夢が広がり始めたのか、両親は明るく言い合いを始めた。

 なんとかなりそうでよかった。

 

「ね、ちなみにマリーの恩恵ってどんな感じなの?」

「どんな感じもなにもぜんぜん読めないけど……ほら、こんなの」

 

 シルヴィアは「このへんの文字とか綺麗だね」とか適当なことを言いつつ文章を読んで、

 

「え」

「どうしたのシル、お腹でも痛い?」

「ううん、なんでもない」

 

 ただちょっと、思ったよりすごいことが書いてあっただけだ。

 

『あなたは錬金術士育成ゲームのヒロインだ』

 

 レストラン育成ゲームの薬・鉱物版というか。

 ゲームによっては危険な怪物と戦って自力で素材調達したり、武器や防具まで『錬金』できちゃうようなゲームもあるけれど、マリーの恩恵はそこまではいかないようだ。

 作れそうなのは主に薬剤。

 なら薬剤師にでもなったほうがいいのかもしれないけれど、

 

「マリーは料理に興味があるんだよね?」

「? そう言ったじゃない?」

 

 とりあえず、彼女にはハーブティーとかそっち方面を開拓してもらおう。いろんな薬草なんかをプレゼントしてお茶や料理に使えないか試行錯誤してもらうのだ。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 取り調べの結果、お頭たちは罰金刑となった。

 略奪した品物の代金を弁償するのはなかなか大変だけれど、ひとまずこのお金についてはイリスが肩代わりすると表明。

 

「その代わり、あなた方には私の下で働いていただきます」

「そのくらいならお安い御用さ。なんでも言ってくれ」

「なんでも? 今、なんでもと仰いましたか?」

「な、なにかまずいことでも……!?」

 

 シルヴィアは「イリス様は人使い荒そうだなあ」と思いつつ神聖魔法であらためて彼女たちに縛りをかけた。

 

「では、イリス様。一人はわたしのほうで雇わせてもらいますね?」

「ええ、もちろんです」

 

 実家の用心棒として腕に覚えのある女性を一人雇った。

 衛兵を目指して訓練をしていたものの、幼なじみから「女のくせに」とからかわれ、かっとなってぶん殴ったら思いの外大きな怪我になって……という経歴の持ち主らしい。

 

「そんなに荒っぽいお客さんも来ないと思うので、暇な時は荷物運びをしたり、お茶を飲んでのんびりしてください」

「わかりました、お嬢様」

 

 別にお嬢様ではないのだけれど……ゼリエから「シルヴィア様は十分お嬢様です」と言われたので訂正するのは止めた。

 実家のお店も『銀百合』拠点と平行して話を進めていけばいいだろう。

 

「あれ? ……っていうか騎士団内にも食堂を作るんだし、そこで働いてもらえばよくない?」

「それは良い考えかもしれませんね」

 

 みんなにも相談した結果、そういうことになった。

 騎士が相手なら多少変なもの作ってもお腹を壊さないだろうしちょうどいい。

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