わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
夏休みというのはどうしてこんなに終わるのが早いんだろう。
「やることが多すぎるんだよ……!」
夏休みの宿題なんてレベルじゃない。
予算の管理に建物の設計図、騎士団の紋章、各方面への連絡。
卒業までにやればいいよね、と言っていた案件ががんがん前倒しになっている。
日本ならまだ中学二年生やっている頃なのに。
「まあまあシルヴィア、ぼやいても仕事はなくならないよ」
「もちろん頑張るけど。これ、学校が再開したら回せるの……?」
夏季休暇はあと数日で終了。
生徒たちも続々と学校に戻ってきている。きっと休み中の噂についてあれこれ聞かれるだろうし、尚更時間がとれるか怪しい。
シルヴィアと協力して案件の大部分を担っているエリザベートもこれに頷いて、
「そうですわね。やはり、わたくしたちが卒業するまで代理人を立てるべきでしょう」
「エリザベートのお父さんじゃなくて?」
「お父様はあくまで出資者というか保護者というか……実務をお任せするわけにもまいりませんもの」
「大人の男性に任せられない部分もありますよね」
イザベルが同意。
確かに内装とか、女子が見たらダサいことになりかねない。公爵はダンディで素敵なおじさまだけどおじさんはおじさんだ。
「でも、さすがに責任者代理はそうそう任せられる人がいないよ?」
「ふふっ。それなら一人、適任がいるではありませんの」
噂をすれば、街中にある『銀百合』仮本部の前に馬車が停まる気配があった。
顔を出したのは、今となっては主要メンバーの一人である少女──公爵令嬢にしてエルフの血を引くリゼット・プレヴェールである。
「リゼット様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、シルヴィア様。……エリザベート様、例の件、滞りなく承認されました」
「それは良かった。では、これで当面はなんとかなりそうですわね」
「? ……あ、もしかしてそういうこと?」
ハーフエルフであるリゼットは貴族学校の十◯年生。ぶっちゃけもう授業なんて出なくて問題ない。むしろ先生の手伝いをしたり図書館で調べ物をしていることも多いくらいだ。
少女はにこりと微笑んで、
「リゼット・プレヴェール。『銀百合』騎士団の執務補佐並びに魔法顧問として正式に就任いたしました」
「おおっ! おめでとうございます、リゼット様!」
「ありがとうございます、クレール様。そんなに喜んでくださるとは」
「だってこれであたしに仕事が振られにくくなるじゃないですか」
「心配しなくてもクレールさんは実働部隊だと思いますけど……」
「あはは、ボクも助かるよ。正直書類仕事とかは得意じゃないからね」
「ラシェル先輩には将来、訓練の監督や指導をお願いするでしょうから、そちらで才能を発揮してくださいませ」
「任せてよ。大勢をいっぺんに相手にするのは得意だからね」
部下をまとめて薙ぎ払わないように気をつけてほしいところである。
「それじゃあ、とうとう貴族学校から出られるんですか?」
「そうですね。学校は休学という形になります。とはいえ、わたくしが外出すると物々しいことになりますので、基本的には寮の部屋を使おうかと」
「あれ? そうすると今日は護衛って」
「私よ。『銀百合』関連の仕事は振られたくないって男どもが渋るから」
追って中に入ってきたサラが笑って言った。
「拠点が早くできるのは大歓迎。みんなには負担をかけちゃうけどね」
「仕方ありませんわ。正規騎士は忙しいですもの」
「わたくしはこの数日の間にシルヴィア様たちのお仕事を引き継げるように確認をいたしますね」
「お願いします。わたしは同じ学校にいますから、先にエリザベートのほうを覚えてもらったほうがいいですね」
そうなると手紙を出したり受け取ったりという業務も増えてくる。
「使用人も増やすべきかもしれませんね……」
リゼットが呟くと使用人組がここぞとばかりに一致団結。
「そうしていただけると助かります。教育にも時間がかかりますので」
「信頼のおける即戦力の人材などそうは転がっておりません」
「騎士団が始動したら事務員さんみたいな人も必要だし、そういう方向でも検討してみよっか」
なんだか仕事が増えてしまったような気がするけれど、仕事を振れる人材が増えないといつまで経っても楽にはならない。
何年か後を見越すのであれば今からいろいろ準備しておくべきだ。
「正直、わたくしもメイドを増やしたくなってきましたわ。公爵家のメイドにせよ騎士団の構成員にせよ、平民では心許ありませんし……イズ? 男爵家の伝手でいい方はいないかしら?」
「実家にも声をかけてみます。……シルヴィアさんもメイドが必要ですよね?」
「シルヴィア様、是非お願いしましょう」
「う、うん。まあお金はなんとかなりそうだし」
翌日、神殿から本部に顔を出したアンジェがこの話を聞いて、
「でしたら、その、私がシルヴィア様のメイドをしましょうか?」
「ええ……!? アンジェ様、メイドをするとしたらわたしのほうだと思います」
聖女見習いに使用人をさせるなんて恐れ多い。
けれど、当の少女は残念そうにしゅんとして、
「それならば皆さまともっと一緒にいられると思ったのですが……」
「だったらリゼット様のお手伝いをしていただくのはどうでしょうか? アンジェ様なら貴族学校にも入れるでしょうし」
「聖女は貴族階級から外れた特別な存在ですものね。それはいい考えですわ」
「はい。私も読み書き等はひと通りできますので、少しくらいはお役に立てるかと」
彼女の上司──現聖女であるアンジェリカはといえば、
「アンジェリカ様はむしろ後押しをしてくださっているのです」
なんでも、レイユ湖の一件で聖遺物を復活させたのが影響して神殿への注目が高まっているらしい。
神殿長としても鼻が高い話なので、聖女見習いを『銀百合』に協力させる口実に事欠かなくなったそうだ。
「『アンジェが忙しいうちは私の結婚も控えてくれるかもしれないし』と仰っていました」
「あはは、聖女様ってけっこう気さくな人だよね?」
「うん。アンジェリカ様の厚意に報いるためにも頑張らないとね」
「その意気ですわ、シルヴィア」
エリザベートが満足そうに笑って、
「その調子でわたくしから雑務をすべて奪ってくださって構いませんわよ?」
「え、でもエリザベートって自分からたいへんな仕事を背負い込んでいくタイプだよね?」
「その通りですけれど、言い方を考えてくれないかしら?」
その通りではあるんだ。
◇ ◇ ◇
夏季休暇最終日。
第六王女イリスの部屋に招かれたシルヴィアはなんとなく大事な話の気配を感じ取っていた。
お茶とお茶菓子をいただき、世間話──というか近況報告などを少し。その後、イリスが「実は」と切り出してきたのは、
「シルヴィア様は他者の恩恵を把握できるのではありませんか?」
「っ!?」
思わず紅茶を吹き出しそうになった。
王女は「やっぱり」と目を細めたうえで息を吐いて、
「シルヴィア様、差し出がましいとは存じますが、表情を取り繕う訓練もなさったほうがよろしいかと」
「精一杯努力いたします……」
なお、イリスの好感度はぴろんぴろん、と上がっていった。
「ご心配なさらずとも誰にも告げる気はありません。……それに、注意深い者であれば気づくことも可能でしょう」
「誰からも漏れないように神聖魔法まで使っていたのですが……」
「シルヴィア様の周囲に才ある者が集まり、不自然なほどその秘密が漏れない。この時点である程度推測は可能でしょう」
ふっ、と、微笑んだイリスはシルヴィアを見て、
「私も口外禁止を誓いましょう。メイドにも誓わせます。……その代わり、私の商会の人材育成に協力していただけませんか?」
『恩恵』はこの世界における最重要項目だ。
多少の技や魔法、あるいは数の利なんて恩恵の力で簡単にひっくり返せるのは決闘の件や野盗の襲撃の件を見ても明らか。
使いこなせれば未来が一気に明るくなる。
特に、イリスはお頭たちを部下として抱えている。彼女たちをより活かすのにぜひ恩恵の力を借りたいところだろう。
とはいえ──。
「申し訳ありません、イリス様。神聖魔法で誓っていただく前提でも、この話は信頼のおける人にしかするつもりはありません」
さすがにお頭たちにまで広めるのは怖い。
「ですから、まずはイリス様の恩恵だけ見せていただけないでしょうか?」